(どうする!?このままでは・・・!!)
ロードは焦っていた。
今まともに戦闘行為ができるのは自分と、ウルフブレイカーとヴォルネス。そしてクロノカイザーだけだ。
「せめて合体できていれば・・・!!」
「ロードッ!!」
「!?フェアリス!?」
ラストガーディアンの甲板からフェアリスが身を乗り出している。
「ヴァルロードで行くよ!!」
「!!」
ロードは硬直する。
「最後の最後で・・・大切なものが護れないだろうがッ!!」
「いいか。例え今日出撃があったとしてもゲイルフェニックス禁止!いいな!」
「よし。ロード、お前しっかり見とけよ。ホントにやばいからな、今のフェアリスは」
志狼の言葉を脳裏で反芻する。
ロードはその言葉を一つ一つ噛締めると、フェアリスに向き直り、
「ゲイルフェニックスは・・・なしだ」
そう言った。
「え!?で、でも!!」
「大丈夫だフェアリス。私は・・・負けない!」
「どこを見ている」
ドウッ!!
ランツェがロードを標的に突進してくる。
「!!」
凄まじいスピード。
回避できない・・・
今あの一撃を受けてはもう立ち上がることは出来ないだろう。
(だが・・・だが、私は・・・!!)
「私は・・・私は負けない!!」
「よ〜く言った」
ガキィッッ!!
「!!」
「ほう」
ロードとランツェの間にヴォルネスが割り込み、ナイトブレードでランツェのランスの軌道をそらし、受け止める。
「こりゃ・・・いよいよもって負けられねえな・・・!!男の意地がかかっちまったし、な!!」
「!」
「ふん」
キュル・・・ズガンッ!!
「であああ!!」
「うおおお!?」
ランスを引くと回転を加え、再度ヴォルネスに向かってつきこむランツェ。
ヴォルネスはその一撃を胸部に直撃され、吹き飛ぶ。
「・・・終わりだ」
「まだまだあッ・・・!!」
「何!?」
ダンッ!!
空中で無理やり体を起こし、体勢を整えて着地するヴォルネス。
その深い亀裂が入った胸部からは煙が出ていて、その傷が決して浅いものではない事を物語っている。
ヴォルネスと乗り手は、完全に神経をリンクさせている。
ヴォルネスの受けた傷はそのまま、志狼にも帰ってくるのだ。
しかし、胸部から血を流しながらも、志狼は倒れる事はなかった。
「勝手に終わらせるんじゃネェよタァコ!!」
「な・・・何故立てる!?」
「んなモン根性に決まってんだろッ!!気合だ気合!!」
ランツェの疑問に、叫び返す志狼。
「根性・・・気合・・・」
ロードは志狼の言葉を反芻する。
それは・・・自分にも出せるものなのだろうか?
出す事ができるだろうか?
もしも・・・
もしも出す事ができるのなら。
(私は・・・私は)
「ほらロードッ!!ぼ〜っとしてんな!!」
ガキイッ!!
お返しとばかりにランツェに切り込む志狼。
だがその間に割り込み、ソレをブロックするシルト。
「無駄無駄ァッ!!キヒヒイヒヒヒヒ!!」
「クソッ・・・!!」
「ロード・・・」
傷つきながらも尚も戦うロードを、悲痛な表情で見つめるフェアリス。
「ほい、フェアリスちゃんつっかま〜えた♪」
「きゃ!」
そんな彼女を、後からエリィが抱きしめる。
「え、エリィさん」
「中に入ろう?このままじゃ危ないしさ」
「でも・・・このままじゃ」
「・・・それでも、シローは負けないよ」
「エリィさん・・・」
フェアリスに語りかけるエリィの目は、普段からは想像もできないほどに悲しみに満ちていた。
「中に入ろう?ね」
「・・・分かりました」
フェアリスは一度、ロードを見下ろしたあと、甲板を後にした。
(考えろ・・・このままじゃ確かに勝てねえッ!!)
ガキィッ!!!
またもランツェとの間に入り込み、攻撃をブロックするシルトを目の前に、志狼は考えをめぐらせる。
(残ってるのは隼人のウルフブレイカー・・・)
ガツッ!!!
「ち・・・い!!」
中破した仲間をシルトの10本の触手から庇いつづけているウルフブレイカー。
あれでは彼の性格からして、あの場から動けないだろう。
(ロード・・・)
「ディメンシア・ウィップッ!!」
ガキッッ!!
ロードも攻撃を繰り出しつづけているが、やはり効果は無かった。
(そして咲也のクロノカイザー・・・)
「クロノソードッ!!うおおおおお!!」
超圧縮されていたクロノソードを具現化させるとそれを構え、
シルトに向かって切り込むクロノカイザー。
だがそんなクロノカイザーに向かって触手は容赦なく伸びる。
「そんなスピードじゃあ、オレッチには届かないぜェ!?ぎゃはははははは!!」
「くッ!!」
触手による攻撃は厚く、避けようとすればクロノカイザーは前に踏み込むことが出来ない。
「そう・・・この中で唯一シルトの防御力を突き破れるとすればクロノカイザーだけだ。
だがその分小回りが利かず、あの触手の攻撃を避けきって攻撃することはできない」
ヴォルネスが冷静に戦況を分析する。
可能性があるとすればそれはひとつ。
「「ナイトブレードの切れ味をあげる事ができれば・・・!!」」
もしもナイトブレードの切れ味をライガーブレード以上に引き上げる事ができれば、シルトの絶対防御を突破する事ができるだろう。
実はヴォルネスのナイトブレードと、合体後のヴォルライガーのライガーブレードを具現化するために志狼が使用するマイトの量は、そう変わらない。
ではなぜああも切れ味が変わるのか。
それは単純に機体の出力のせいだ。
志狼のマイトを増幅するその性能の差で、切れ味に差が出るのだ。
「なら逆に、俺が剣を作るときのマイトの出力を上げれば、その切れ味は・・・?!」
「上げることは・・・できる。だが、それだけでは足りない」
今、志狼が全力でマイトを注ぎ込み、ライガーブレード並みの切れ味をナイトブレードに持たせることが出来たとして、それで本当にシルトの防御を突破できる保証は無い。
何か依り代を体にうける事ができれば、雷エネルギーを体にうける事さえできれば、
もしかしたら瞬間的にでも出力を上げることができるかもしれない。
だが。
雷の属性を持つサンダーブレイカー、バラストネイサーはともに戦闘不能。
とても装備を発射する事は出来ないだろう。
「絶望的だ」
「あきらめねえよッ!!他の方法を考えるんだッ!!」
もう一度考え直せ。
何か良い手があるはずだ。
何か・・・
必ず・・・
「クロノカイザー・・・ロード・・・ウルフ・・・ウルフブレイカー・・・!?」
何かを思いついたようにはっとする志狼。
「前、聞いたことがある・・・ロードとクロノカイザーは光の属性。そんで、そんでウルフブレイカーは・・・」
「志狼・・・まさか君は・・・!」
「マイトの光属性って聞いたことがねえ。だが・・・」
「しかし、それは・・・!」
「できると思うか?ヴォルネス」
『だめだ!!!志狼君!!』
ラストガーディアンの外部スピーカーから、エリクの焦りを含んだ声が響き渡った。
「おじさん」
『自分の限界以上に力をうけようだなんて時点で無茶なのに、君のしようとしている事は!!』
『ダメだね。これしか・・・勝つ方法が無い』
『志狼君ッ!それだけはやってはいけない!!』
「どうしたんです。一体彼は何をしようと・・・?」
いつになく取り乱すエリクを見て律子はエリクに説明を促す。
「志狼君は・・・水のマイトを自分に取り込もうとしています」
「水のマイトを・・・取り込む?」
それがどういうことなのか、異世界の常識を知らない律子は首を傾げるだけだ。
「我々人間の持つマイトの属性とは生まれつきの素養。血液型のようなものです」
剣十郎が補足する。
「もし、自分と異なった血液型の血液を輸血したら、どうなりますか?」
エリクに言われて想像し、律子は顔から血の気が引いた。
血液型の異なる血液を輸血したら、間違いなくそこにまっているものは・・・
「死にます。万が一生き残ったとしても、精神が破壊され、崩壊してしまうでしょう」
「そ・・・そんな!!」
ブリッジに入ってきたフェアリスが顔面蒼白になりながら叫ぶ。
「やっぱり・・・やっぱり、私!!」
『大丈夫だから、フェアリス。なぁに、こんぐらい余裕余裕!』
ケラケラ笑いながら志狼はフェアリスをやさしく諭す。
エリィは、先ほど見せた悲しみの表情で、通信を聞き入っている。
そんな会話の中、一人、剣十郎はブリッジを後にする。
それに気がついたのは葛葉ただ一人だけであった。
「隼人!!俺に向かって・・・ブリザードストームを撃ってくれッ!!」
「・・・」
志狼の要請を聞いても、隼人は、ウルフブレイカーは微動だにしなかった。
「隼人!?」
「今の説明を聞いた。それを承知の上で・・・俺に撃てというのか」
微動だにしていなかったわけではなかった。
ウルフブレイカーの拳が震えている。
隼人の拳が震えているのだ。
撃てるはずが無い。死ぬと分かっていて誰が撃つものか。
その場の、トリニティロボットの他全員が、隼人の一挙一動を見守る。
今、全ての鍵は彼が握っている事を、誰もが分かっているから。
「撃ってくれ」
ただ一言。
志狼は、ヴォルネスはそういって背を向けるとそのままたたずむ。
(なんだ・・・?なんなんだ・・・!?奴を突き動かしているものは!?)
昨日、志狼の訓練模様を見ていたときから隼人の疑問は解決される事なく、考えれば考えるほどに深みにはまっていった。
(この戦いを終わらせれば・・・何かがわかるのか?)
武道家として。
ドリームティアを手にした戦士として。
何かしらの一つの答えを得ることができるのだろうか?
今の隼人には死しか、負けしか見えない。
志狼のこの行動を、死にに行くようにしか見ることが出来ない。
それでも彼は撃てと言う。
「死ぬかもしれないぞ・・・!?」
「俺は死なない。絶対に、だ」
「!」
そう呟いた志狼の背中からは、底知れない闘志を感じる。
この状況下において、まだ、勝つ方法を模索している。
足掻き続ければ、強くなれるのだろうか?
なにかしら、答えを得ることができるだろうか・・・!?
「・・・分かった」
彼は決意する。
するとドリームティアが、ウルフブレイカーが青白い光を放った。
(これで正しいのか・・・!?ドリームティアッ・・・!!)
「シェイプシフト!チェンジ!ウェアビーストッ!」
ウルフブレイカーが閃光に包まれる。
するとウルフブレイカーは、半獣人形態、ウェアビーストに変形した。
「全力でやってくれ。そうすれば・・・志狼に宿る力はそれだけ強くなる」
「!ヴォルネス・・・」
「フ・・・どうせ言っても聞かないのだろう?」
「よくお分かりで。・・・頼むぜ隼人」
コオオオオ・・・
隼人は何も言わなかったが、ウルフブレイカーから立ち昇る青白い冷気が、彼が肯定している事を示している。
「何をしようとしているかは知らんが・・・」
「やらせないぜェギャハハハハハハハ!!!」
ランツェがランスを構え、シルトは触手を伸ばす。
「ロードッ!!」
「了解だッ!!」
ガキィッ!!
「む!?」
「げきゃ!?」
クロノカイザーがランツェのランスをはじき、ロードがシルトの触手を光の壁で押し返す。
それぞれが全力でヴォルネスとウルフブレイカーへの攻撃を阻止する。
「ここから先へは・・・ッ!!」
「一歩も通さないッ!!」
今、自分に出来る、最大限の行動。
勝利のために。大切な物を、守る為に。
「ブリザードストームッッ!!!!」
ゴオオオオオオッ!!
ウルフブレイカーの腕から凄まじい吹雪の奔流が放たれる。
と、吹雪を放った次の瞬間、ウルフブレイカーは膝をついて倒れてしまう。
「頼む・・・ぜ・・・」
吹雪は狼の姿を象り、背を向けたヴォルネスを一気に喰らい尽くした。
(やり方は変わらないはずだ・・・)
襲い掛かってくる身を引き裂くかのような強烈な凍気を体に受けながら、その冷気をマイトに変換し、取り込んでいく。
ヴ・・・ン。ガシャンッ
全ての凍気を吸収し尽くすと、ヴォルネスは頭部のバイザーが下がり、その動きを停止してしまう。
「何が起きているの?」
微動だにしなくなってしまったヴォルネスを見て、律子は呟く。
「戦っているんです。自分の生まれ持った力とは異なる力と」
エリクはそう答えた。
「シローッ・・・!!」
エリィは悲痛な声を上げる・・・。
(聞こえる・・・エリィの声)
どういうわけか、全てのシステムが落ちたヴォルネスの中で、
視界を暗闇に支配された志狼はエリィの声を聞いた。
そしてその声を聞いたとき、志狼の中である一つの疑問が解決された。
「そうだ・・・これだ。あいつ・・・信じてるっていってるくせに、俺が戦闘に出る度に泣きそうな顔でこっちを見てやがるんだ」
腹立たしい。
エリィが、ではない。
エリィに心配をさせてしまう、未熟で非力な自分が、である。
「もし俺にもっと力があれば・・・あいつにあんな顔させないですむんだ」
「ぐあああ!」
「キヒヒヒヒ・・・しつこいっての」
光の壁を突破され、触手に吹き飛ばされるロード。
「くッ・・・」
「だがそれももう終わりだな」
ランスの腹で肩口を払われ、やはり吹き飛ぶクロノカイザー。
「・・・だめだわ。このままじゃあ」
ついに戦闘を続行できる機体が3体に、しかも1体は実質戦闘不能に近い。
このままでは結果は火を見るより明らかだ。
「こちら御剣剣十郎。ブリッジ、応答せよ」
「!」
突然ブリッジに通信が入る。
剣十郎だ。
「剣十郎さん!?今一体どこに!?」
「格納庫だ」
「格納庫・・・って剣十郎さん、まさか!?」
エリクは剣十郎が何をしようとしているか、気がついたらしい。
「あれを、使う」
短くそう伝える。
「剣十郎さん、エリクさん。あれ・・・とは?」
エリクは質問に答えずにコンソールを、目にも止まらぬ速度で操作するとメインスクリーンにある映像を映し出す。
そこには人型兵器の全体図らしきものが表示されている。
「こ、これは・・・?」
どことなく秋沢雫の行使する聖霊を思わせる姿だが、気のせいだろうか?
次々にスペックが表示されていく。
体長60メートル。重量451トン。
パワー、スピード、武装、etc etc・・・
「こんなものいつの間に・・・」
「わ、私達が秘密でコツコツ作ってた機体でして」
「小鳥遊博士!あなたまで!?」
「この際それはどうでもいいです!剣十郎!!分かっているのか!?その機体はコスト的な問題で稼働時間が5分と持たないぞ!?」
こそこそ秘密に作ってたらそれも当然といえた。
いつもの丁寧な口調はどこへやら、エリクは興奮して叫ぶ。
「行かせてくれ。少しでも時間を稼ぐ必要がある」
「お前・・・信じてるのか」
「当然だ」
良くて精神崩壊、最悪の場合死すらありうる。
今の志狼はそういう状況にあった。
だが、剣十郎は何の疑いもなく時間を稼ごうとしている。
息子の覚醒を信じて。
「律子殿。カタパルトを開いていただきたい」
はたして許可を出してもいいものか。
未完成の機体で、しかも稼働時間は5分。
剣十郎まで危険な状況に陥るのではないか?
律子が頭を悩ませていると、意外な人物が許可を促した。
「行かせてやってはくれぬか。律子殿」
「!葛葉さん」
「心配で心配で、いてもたっても要られないのであろうよ。あの親馬鹿殿は」
「誉め言葉として受け取っておきましょう」
どちらもあくまで笑いながら言葉を交し合っている。
だが今の会話は、律子に決意させるのに十分だった。
「わかりました。ハッチを開放します。ただし、条件が一つあります」
「なんなりと」
「必ず生きて帰ってきてください」
「承知。必ずや」
ウィ―――――――ン
カタパルトが開いていく。
剣十郎は機体のコクピットで静かにそれを見た。
この機体も志狼の乗るヴォルネスと同じく、
搭乗者の動きに同調するトレースリンクシステムを搭載している。
この機体ならば、剣十郎の剣の腕を存分に発揮できるであろう。
「御剣剣十郎・・・『スピリットオーガ』、出るッ!!」
ドゴウッ!!!!!
巨大な背面ブースターをふかすと、猛烈な勢いで剣十郎の乗る機体はカタパルトから射出されていく。
<NEXT>