「ここか」
「です・・・」

やたら広い屋敷の玄関前に立つ二人の少年少女。
少年の方は、身長は180くらいだろうか。
背中まで届く茶髪を紐で束ねている。
そして特徴的なのは右目が黒、左目が青と左右の瞳の色が違うことだ。
たいして少女の方は腰まで届く紺色の髪をヘアバンドでとめ、濃い碧眼に眼鏡をかけている。

「街の人の話によると・・・『もの凄い』剣士がここに住んでいるとか」
「ふふふ・・・腕が鳴るぜ!」

腕をブンブン振りながら言い放つ。
その体格からして格闘家であることは間違いない。

「怪我しないでよ?北斗・・・」
「わーってるよ古都梨!」

格闘家にそれを言うのも無理なような気がするが、
ぎらぎらとした瞳で玄関を見つける少年、北斗に少女・・・古都梨はこめかみに汗をかきながら言う。

(北斗がこういって無事だったためしがないのよね・・・)

「待ってろよ・・・!もの凄い剣士さんよ!!」

そのだだっ広い屋敷の玄関口の表札には・・・こう書かれている。



『御剣』



「さ〜って、んじゃさっそく・・・」

ドゴシャアッ!!

「!!」
「ひ!」

ご丁寧に北斗は表札の下のインターホンに指を伸ばそうとしていた。
が、その指がピタリと止まる。

「人・・・」

古都梨が呟いたとおり、どこからともなく人が吹っ飛んできたのだ。

17〜8歳ぐらいだろうか。
その男は燃えるような赤のジャケットにジーンズといういでたち。
・・・はともかく、その手に握られた物体は恐らくは木刀だろうか?
柄から先の部分は熊手のようにバラバラに裂けていたりする。

北斗は周りを見渡すと屋敷より少しはなれたところに道場らしき建物を発見する。

「・・・てゆーか、こいつ、あそこから吹っ飛んできたのか?まさか・・・」

『もの凄い剣士』というのはここまでやれてしまうのだろうか。
と、突然気絶している男の上に黄色い、熊さんがプリントされているエプロンが覆い被さる。

「飯の支度をせい」
「・・・まだ動けねえよ」
「!!」
「え!?」

目の前に気配も無く現れた熊のような男がそう言い放つと、
つい今しがた気絶していた男がエプロンを掴み、上半身を起こしたではないか。

「何か不満かね・・・?」
「・・・いえ、何も」

もの凄いプレッシャーが目の前の男に襲い掛かったかと思うとその男はエプロンを装着してのそのそと玄関から中に入っていこうとする。

「・・・」
「ほええ・・・」

そんな光景をただ呆然と眺めていた北斗と古都梨に気付いた熊のような男が二人に声をかけた。

「む。お客人かね。気付かなくて申し訳ない。」
「は・・・はえ?」

なんとも間の抜けた返事をしてしまっているなと自覚していながらもそうとしか返事できない古都梨。
北斗はハッとしてここにきた本来の目的を口にしようとする。

「お、俺は・・・」
「あ、あんたら朝飯まだなら一緒に飯食ってくか?」
「へ?そういえば朝飯はまだ・・・」
「なら中に入ってくれ。すぐ支度するから」
「あ、ちょっと!」

つい勢いで返事をしてしまった。
スタスタと中に入っていく赤ジャケットの男。

「さ、あやつの飯がお口に合うかはわからんが入ってくれ」
「は、はあ・・・」

流されるままに中に入っていく北斗と古都梨。

「てゆーか・・・あいつ・・・なんであんなにケロッとしてんだ?」





「おいしい・・・」

古都梨が料理を口にした一言目がこれだった。

「ほんとか?ありがとな!」

エプロンを取り外した男が頬を赤くしながら頭を掻く。

「っと、自己紹介がまだだったよな。俺の名前は御剣 志狼。んでこっちのがオヤジの剣十郎だ」
「よろしく」

たしかに志狼が作った飯はうまい。
しかし。
しかしだ。
自分は今日ここに何をしにきたのだったか?
そして極めつけに

「うん!やっぱり志狼の料理は絶品ね♪ね!北斗君もそう思うでしょ?」

いつのまにやら紛れ込んできたこの女。
名前はエリス=ベル。となりに住んでいるのだそうだ。
いや、だからそうじゃなくって・・・

「私は古都梨です。こっちが北斗。よろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に・・・」

頭を下げる古都梨に志狼も頭を下げる。

いやちがう。
ちがうだろ?
今日は自分は・・・

「そういえば、北斗たちは今日何しにきたんだ?」

プッツン

志狼の発言に北斗から何かが切れるような音。

「そーだよ!!俺は今日ここに勝負しに来たんだよ!!」
「あ、キレた」
「ほ、北斗・・・!」

エリィが古都梨の後にサササと隠れる。

「ああ、そうだったんだ」

茶をすすりながら北斗を見る志狼。

「剣十郎・・・さんッ!俺と勝負だ!!」

ビッ!と剣十郎を指差す北斗。
呼び捨てに出来ない所から彼の性格がうかがえる。
志狼と同じく茶をすすりながら北斗を見る剣十郎。

「そんなことだろうと思ってた・・・あんまりお勧めはしないけど?」

ジト目で剣十郎を見ながら志狼は北斗に言う。
と、湯のみをテーブルに置くと腕組みをして剣十郎は北斗に提案する。

「ならワシがいい相手を推薦しよう」
「は・・・!?」
「志狼。おまえがやれ」

ぶーッ!!

「汚いよシロー・・・」
「えっと・・・台フキン台フキン・・・」

飲みかけていたお茶を思いっきり吹く志狼に苦笑いしながら言うエリィ。
わたわたを台フキンを探し出して志狼の噴出したお茶をふき取る古都梨。
その行動もまた正反対だったりする。

北斗の相手が剣十郎だと確信していたからこそ余裕癪癪だった志狼。
そこに思いっきり指名がきたものだから驚くのも無理はあるまい。

「俺が勝負したいのはあんただ!志狼じゃない!!」
「慌てなくても、志狼さえ倒せたらいつでも相手をしてやろう。どうだい?」

ギロリ・・・

「やる気マンマン・・・みたいだな」

もの凄い怒気を含んだ視線を浴びて志狼はこめかみに汗を浮かべる。

「では場所を移すとしよう」





「はあ・・・俺朝錬でボロボロなんだけどなあ」
「明日は日曜日。存分に倒れるがいい」

志狼たちの通う岬樹学園は週に土曜と日曜に二日間が休みなのだ。
恐らくそれを考慮に入れた上で朝錬もいつもよりもハードなものになっていたのだろう。

「シローッ!ガンバッ!!」
「・・・鬼」

結局はやるしかないのだ。
ため息をつきながら道場の中心に向かっていく。


「絶対ぶっ倒してやる!」

先ほどまで憤慨していた北斗だったが、いざ戦闘前になったとたん目がぎらぎら輝きだした。
目の前の敵に集中しているのだろう。

「頑張って」

北斗の背中をポンと押す。

「おう!」

木刀を掴んで志狼の待つ道場の中心、試合場に向かっていく。


「では審判はワシが。時間無制限一本勝負。この場合、一本とは参ったといわせるか気絶させることを指す。いいな?」

「了解・・・」
「オッケーッ!!」

「では・・・はじめッ!!」

トンッ

両者ともに距離を取る。

「構えは・・・ないのか?」

構えも何も無く、ただ自然に立っているだけの北斗に志狼が言う。

「まあな」

二人ともジリジリとスリ足を使うだけで飛び込まない。

「かかって来ないなら・・・こっちから行くぜっ!!」

ドッ!!

「!!」

電光石火のごとく一気に間合いを詰め、斬撃を繰り出す北斗。

シュビビビビビビッ!!ブンブンブンブンッ!!

「当たらない!?」

志狼は北斗の斬撃を紙一重ですべてかわす。
いや、正確には紙一重でしかよけられないというべきか。

(速い)

それほど北斗の斬撃はするどく、速かった。
それでも志狼は北斗の剣撃を全てかわす。

「ならこれで!」
「!!」

北斗は素早くしゃがみこむと右足で足払いを仕掛ける。

ガッ!

見事に足ゲリがヒットし、志狼は体勢を崩す。
体勢を崩した志狼に向かって上から木刀を振り下ろす。

ガスッ!!ドシャッ!!

振り下ろした木刀は志狼の右肩に当たり、吹っ飛ばす。

「シローが押されてるよ・・・」

エリィは呆然と呟く。

「北斗は強いですから」

にっこりとしながら古都梨は言うがそんな古都梨の口の前にエリィは人差し指を持ってくる。

「けどね♪」
「!」

倒れた志狼を見ながら北斗は勝ちを確信していた。

「どうだっ!」
「いてえに決まってんだろ」

「♪」
「うそ・・・北斗の剣を受けて起き上がるんですか・・・!?」

志狼はユラリと立ち上がると右肩をグルリと回転させる。

「右肩中破・・・ってところだな」
「志狼」
「わーってるよ。そろそろ本気でいくから」

剣十郎の言葉を聞いて志狼の眼つきが変わる。

「!!」

右足を引いて相手に対して半身に構え、左手を真っ直ぐ相手に対して突き出し、右手の剣は自然に構える。

「こい」
「言われなくても!!」

ドンッ!

一瞬で間合いを詰めると北斗は突きを連発する。

ススススス

その突きを先ほど以上に俊敏な動きでかわす志狼。

「さっきより速いッ!?けどッ!!」

左足を前に出して両手で持っていた木刀を左手一本で持ち突き通す。
突き技の基本だが繰り出すスピードが並ではない。

「!!」

変則的な攻撃に志狼はその突きをまともに受けてしまう。

「へッ!どうよ!」

吹き飛ばされそうになった志狼はバク転をして突きの勢いを殺すと左足を前に出し、両手で持っていた木刀を左手一本で持ち突き通す。

「お返しだ」

ズドンッ!!

「ぐぅッ!?」

志狼は北斗が繰り出した突きを完璧にコピーして北斗にお見舞いする。
北斗はたまらず吹き飛ばされ、床に背中を打ち付けるがハンドスプリングですぐに起き上がる。

「ハアアアアアアアアッ!!」
「このォッ!!」

ガキンッ

木刀と木刀が激しくぶつかり合う。

「うらァッ!!」

ガガガッ!!

ハイキック、ミドルキック、ローキック。

北斗の繰り出した蹴りの三連撃を志狼は何とか木刀で受けきる。

ガキンッ

すぐさまお互いに剣撃を繰り出し、鍔迫り合いになる。

「格闘技と剣をミックスした・・・剣術なのか・・・!!」

「そういう・・・ことだッ!!」

鍔迫り合いの体勢から体を引くと北斗は志狼の腹に向かって膝蹴りを繰り出す。

「グッ!!」

腹を抑えてうずくまる志狼。

「もらったっ!!」

一気に勝負に出るべく、北斗は木刀を振りかぶる。

「なんてな」

「!」

シュバンッ!!

志狼は目にも止まらないスピードで北斗の後まで駆け抜ける。

「グアッ!!」

腹を抑えてうずくまる北斗。

「御剣流剣術『電光石火』。速いだろ?」
「だけど・・・止めには遠いッ!!」
「!!」

ガキンッ

またも木刀と木刀で鍔迫り合いになる。

「タフな奴・・・!!!」
「お互い様だろ・・・!!」

ニッと笑い合うと再び離れ、また鍔迫り合いになる。

(こいつ・・・!!)

再び離れると再び間合いを詰めて斬撃を繰り出す。

ガキンッガキンッガキンッ

志狼が一撃を放つと北斗はそれを受け、北斗が一撃を入れると志狼はそれを受け、また斬撃を繰り出す。

ズキンッ!

「う・・・!!」

と、右肩に痛みが走り、志狼の動きが一瞬硬直する。

「もらったァッ!!」

ボウッ!!

「!」

北斗の手にしている木刀に青白い何かが揺らめき始める。
北斗自身驚いているが勝機を逃すわけにもいかず、そのまま斬撃を繰り出す。

ドギャッ!!

「シローッ!!」

「クッ!!」

ザザザザッ!!

エリィの言葉に反応して何とか倒れずに耐え切る志狼。だがいまにも膝が折れそうだ。
そしてその斬撃の後には何かが焼けたようなあと。
北斗は呆然と木刀を見るが先ほどの揺らめきは消えている。

「・・・これは・・・」
「余所見なんて・・・ずいぶん余裕じゃねえか」
「あ!?」

志狼は天井近くまでジャンプしていた。

「ここで・・・決めるッ!」

志狼の手にしている木刀が放電する。

「御剣流剣術・・・『御雷落し(みかづちおとし)』ッ!!!」

ビシャアアアア!!!!

まるで雷でも落ちたかのような轟音が鳴り響く。
志狼の斬撃は見事に北斗にヒットする。
そして、その斬撃のあとには何かが焦げたようなあと。

「おかえしだ・・・!」

ガクン・・・ドサッ

モロに技を喰らった北斗は気絶して床に倒れこんでしまう。

「北斗!!」

古都梨は北斗に声をかけるが北斗は全く反応しない。
完全に気絶していた。

ガクン

「あ・・・やべ・・・俺も限・・・界・・・」

ドサッ

ギリギリの所で保っていたものが技を強行した為に志狼も倒れてしまう。

「シローッ!」
「北斗!!」

(こいつ・・・つえーや・・・)





「うわ・・・おいち♪」

エリィが料理を口にした一言目がこれだった。

「まあ、三人の合作だからな。おいしくないわけが無いだろ。なあ北斗!」
「おう!って、ははは・・・まさか志狼が和食しか作れねえなんて思わなかったけどな!」
「クスクス・・・」
「オヤジが・・・!まあ、その、なんだ。和食が大好きなもんだからよ」

北斗と古都梨が笑うと志狼は何かを言おうとしたが、剣十郎の刺すような視線を受けて途中で言葉を濁す。

「結局引き分けだったね♪」
「全く・・・怪我しないでって言ったのに・・・」
「無茶言うなよ・・・」

志狼と北斗は全身包帯とバンソウコウだらけだった。
実際実力者同士が激突したわけだから当然といえば当然の結果だった。

「ワシとの勝負はいいのかね?」
「いいです。志狼に勝てないのに剣十郎さんに勝てるはずが無いから」
「わかる?」
「ああ・・・こうして飯食ってても剣十郎さん全く隙が無いんだもん」

ははは・・・はあ・・・とため息をついてから志狼と北斗は再びご飯を食べ始める。

「修行が足りん」
「ふふふ・・・!」
「修行あるのみ!だね♪」





御剣家の玄関にて。
出発の支度を整えた北斗と古都梨を志狼とエリィと剣十郎は見送りに出てくる。

「いくのか?」
「まあな。もっといろんな所まわってみたいからな」
「古都梨ちゃ〜ん!いっちゃやだよ〜!」
「え、エリィさん・・・また会えますからきっと・・・」
「どっちが年上かわかりゃしない・・・」
「ははは・・・」

と、北斗は志狼に向かって右手を差し出す。

「志狼のおかげで何かつかめたような気がする。ありがとな」
「別に俺はなにもしてねえよ。ただ全力で戦っただけだ」
「それでいいんだって。・・・じゃあ、またな」

ガシッ

右手と右手がしっかりとつながれる。

「うう・・・古都梨ちゃん・・・」
「だから今生の別れじゃないってば」

志狼はエリィに逆手で突っ込みをいれてふと北斗たちのほうを見る。

「あれ・・・?」
「いない・・・」

あたりを見渡しても北斗と古都梨はどこにも見当たらない。
このあたりは建造物も無く、隠れられる場所など無いはずなのに・・・

「さて・・・どこに行ってしまったのやら・・・」

剣十郎は玄関から家の中に入っていく。

「おいオヤジ!北斗達どこいったか見てただろ?」
「さて・・・」
「あ、おじ様!待ってください〜」





数日後・・・

エリィ「そうだよね・・・夢なんかじゃないよね♪」

エリィは忽然と消えてしまった北斗たちと撮った写真を見つめて微笑む。

確かに、彼らは志狼やエリィ達の目の前に存在していたのだ。

エリィ「また・・・会えるよね♪」


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