「「!!!!」」 突然ロードと志狼は木刀を放り捨てると、それぞれの愛刀の柄に手にかける。 「ど、どうしたの?ロード」 二人の表情を見て、ただ事ではない事を悟ったフェアリスとエリィは、 「皆、おるか?」 ロードと志狼が睨み付けるその一点から、ゆっくりと葛葉が現れた。 「待てッッ!!!」 フェアリスをロードが。エリィを志狼が腕を掴み、強く引き寄せる。 「二人はあの尋常じゃない殺気を感じないのか!?」 信じられないといった表情で、フェアリスがロードを見る。 「いや〜・・・無理ってモンでしょそりゃ」 ロードの言葉に、苦笑しながら反論する志狼。 「殺気が強烈すぎて、麻痺してんのさ、二人とも・・・!」 志狼は震えていた。 「ちょっとでも耐性ができてる自分が、今は恨めしいぜ・・・ッ!」 志狼は吐きすてるように言った。 「まさかあれ・・・ッ!?」 志狼の問いに、世間話でもするかのように返す葛葉。 「その邪剣で・・・師匠は何をしようというのです!!」 聞くだけ時間の無駄だと分かってはいるが、信じられない。 (正気に戻ってください、師匠!) そんなロードの期待を裏切り・・・葛葉はゆっくりと、聞き取りやすい声で、はっきりと言う。 「お前達を殺す」 一気に、殺気が膨れ上がる。 「・・・ッッ!!!」 まるで、前から見えない壁が迫ってきているような凄まじい圧力を感じ、志狼達は後ろに下がってしまう。 「愛しい子らよ。我が手に掛かり、永遠に私の中で生きておくれ」
ドンッッ!!
地を揺るがし、葛葉が一直線に突っ込んでくる。 「グッ!レイウォールッッ!!!」 ローディアンソードを掲げ、全員を覆うように光の壁を作り出すロード。 「あぶねえッ!!避けろおッッ!!!」
ズガアアアアアアッ!!
「なあ!?」 葛葉の振り下ろした邪剣は、苦も無くレイウォールを切裂き、砂塵を巻き起こし地面を抉り取る。 「グ・・・アア・・・!」 砂塵が収まると、地面に仰向けに倒れたロードと、膝をついてそれを揺り動かしているフェアリスの姿が見える。 「たった一回振り下ろしただけで・・・!」 詳しい事は分からないが、下手をすると既に致命傷かもしれない。 「葛葉さん・・・本気なんだな・・・ッ!!」 志狼はナイトブレードを手に、前に進み出る。 「そうやって、エリィやフェアリスも殺すつもりか」 エリィはロードを半狂乱になって揺り動かす、フェアリスの近くに走った。 「なら・・・」 もはや、震えは無い。今ここで退けば、確実に大事な者たちが命を落す。 「倒すッッ!!」 志狼は一気に間合いを詰め、葛葉に向かって斬りかかる! 「は、はははは・・・ははははははははは!!」 葛葉はケラケラと笑いながら、アーサキャリバーと痕喰を交差させて振りかぶると、その重量に任せて一気に振り下ろす。
ズババババババシュッッ!!!!
「ぐああああっ!!」 凄まじい剣圧が、志狼を襲う。 「グホッ・・・!まだまだあ・・・ッ」
ズンッッ!!!!
葛葉は志狼の右肩に、痕喰を突き立て、樹に繋ぎとめる。 「・・・・・・ぁッッッ!!!!」 凄まじい激痛に、志狼は悲鳴をあげることも出来ない。 「シロォ――――――ッッ!!!!」 エリィの絶叫があたりに響き渡る。 「苦痛であろう?苦痛であろうなあ・・・すぐにそれも無くなる」 エリィの絶叫と共に、アーサキャリバーが振り下ろされる。 「か、間一髪だったな」 葛葉の現れた方向から、右手を翳しながら、腹に左手を添えたテイトがその姿を現した。 「ちいっとしくじっちまってな。ここまで来るのに時間が掛かっちまった」 爆煙が晴れると、志狼から引き抜いた痕喰とアーサキャリバーを構えた、無傷の葛葉が立っていた。 「それでこそ、殺し甲斐がある。愛しい子よ・・・」 アーサキャリバーを振り上げ、テイトに斬りかかる葛葉。
ドンドンドンドンッッッ!!!!
「!」 と、葛葉の足もとで小爆発が起きる。 「良いな。ますます」 肩で息をしながら、左手で持ったナイトブレードを振り切った体勢で、志狼が立っていた。 「て、テイト。もう一発だ!」 テイトは、魔法の発動キーワードを口にすると、両腕を前に掲げる。 「ライトニングブレイカァアアー!!!」 先ほどと同じ、雷の束が葛葉に襲い掛かる。 「同じ手は二度喰わんよ」 志狼の掲げたナイトブレードの周りを、数十の雷の弾丸が取り巻いている。 「!」
ドガガガガガガガガガガッ!!!!
ナイトブレードを振りぬくと、数十の雷の弾丸が次々に放たれ、テイトの放った雷の束の周りを高速旋回し、凄まじい回転力を生み出す。 「「いけええええ!!!!『ライトニングスパイラル』ッッッッ!!!!」」 ドガアアアアアアッッ!!!! 完全に油断していた葛葉に、雷のドリルエネルギーが突き刺さり、大爆発を巻き起こす。 「や・・・やったか?」 よろりと体を傾け、地面に倒れこむテイト。 「!!来るっ!!」
ブンッ!!
「面白いな・・・面白いなぁ・・・ハハハ・・・ハハハハハハハ!!」 アーサキャリバーを一振りし、爆炎を吹き飛ばすと、痕喰を振りかぶりながら志狼に向かって飛び掛ってくる葛葉。 「・・・畜生ッ無傷かよ・・・ッ?」 足に雷のマイトを集中する志狼。超高速で葛葉の懐に飛び込み、無数の斬撃を繰り出す。 「笑止!!」
ガギギギギギギィン!!!!
「ぜ、全部防ぎやがった!!」 片腕しか使えず、しかも傷だらけで、スピードが落ちているとはいえ、 ――だ、だめだ!桁が違いすぎる!? 瞬間、志狼をとてつもない脱力感が襲う。
ビシッッ!!
「あきらめるな!!」 今まさに、志狼に斬りかかろうとしていた葛葉を足止めしたものは、痕喰に絡み付いている光の鞭。 「ろ、ロード!!」 地面に膝をつきかかった志狼の意識を繋ぎとめたのは、鋼鉄の騎士ロードの言葉だった。 「志狼さん!!遅くなってすみません!!」 焦りが肝心な事を忘れさせていたような気がする。 「シロー!」 涙でくしゃくしゃになりながらも、サムズアップするエリィだった。 「志狼!合わせるぞ!!」 順手で構えていたナイトブレードを放り投げ、逆手に持ち替える志狼。 「来い」 前後から挟み撃ち。 「「たああああああああああああああああああッッ!!!!」」 光り輝くローディアンソードを打ち下ろし、下段に構えた金色のナイトブレードを打ち上げる。 「温い」
ガギキィイ・・・ン・・・ッ!!
「「「「「・・・ッッ!!」」」」」 ――駄目かッ!! 絶句するしかなかった。
クンッ
「「うわあああああ!?」」 葛葉が少し手首を捻っただけで、志狼とロードは数メートル先まで、一気に吹き飛ばされた。 「苦しみが長引くだけぞ。そろそろ死ね」 両腕を振りかぶり、一気に振り下ろす。
ズバシャアアアアア!!!!
「「が・・・ああ!!」」 先ほど志狼に放った波状の剣圧を一方向に集中、圧縮したものを、ロードと志狼に向かって放つ葛葉。 「さて・・・次は」 倒れた戦士たちを満足げに見やると、エリィとフェアリスに向かって向き直る葛葉。 「こ、こっちにこないで下さい」 震えながら後ろに下がる、エリィとフェアリス。 「何を怖がる必要がある。自らこちらに進み出んか」 微笑みを消さずに、悠然と歩み寄る葛葉。
ドンッ
「!!」 エリィとフェアリスの背中が、樹にぶつかる。 ――これ以上後ろに下がれない 呆然と樹を見つめ、そしてゆっくりと、その歩を進める葛葉を見るエリィ。 「いや・・・こっちにこないで」 2人の拒絶の声を聞いてもなお、その歩を進める葛葉。 「「いやあああああああ!!!!!」」 エリィとフェアリスの悲鳴に反応したのか、葛葉と彼女達の間に、志狼とテイトが立ちふさがる。 「・・・どけ。愛しい子らよ」 短くそう言い放つ黒髪の騎士と、金髪の闘士。 「し、シロー・・・!」 葛葉はやさしく微笑み、首を振る。 「「・・・!!」」 一瞬。 ――そうすれば2人の命は永遠に私のもの。 「おやすみ」
バシュッッ!!
血が、辺りに勢いよく飛び散る。 「・・・な、何!?」 邪剣に取り付かれた葛葉が、初めて狼狽する。 「あ・・・!」 志狼とテイトを両脇に抱えた、剣十郎の肩から流れ出ていた血だった。 「剣十郎さん・・・?」 テイトの弱々しい呟きに、剣十郎は力強く頷く。 「お前にしては上出来だ」 傷を全く気にすることなく、志狼とテイトをエリィとフェアリスの近くの地面に横たえる剣十郎。 「後は任せろ」 スッと立つと、葛葉を見つめる。 「お、おじ様!肩!肩の怪我!」 エリィがあたふたするのを、志狼が止める。 「だってだって!」 言われてエリィは、流血している剣十郎の肩を見る。 「・・・あれ?」 たしかに血が出た後はある。 「ま、ましゃか・・・!」 志狼の呟きに、ロード、フェアリス、テイト、エリィの四人はあいた口が塞がらなかった。 「だがな・・・オヤジが怪我するところを見るなんざ、片手の指でも楽勝で数えられるるほどしか記憶にねェ。やっぱハンパじゃねえよ。葛葉さん」
ゴクリ・・・
志狼が唾を飲み込む音が、いやに大きく聞こえた。 ――この2人が今、本気でぶつかろうとしている・・・? どうなるものか、誰も予想がつかなかった。 「葛葉殿。気をしっかりお持ちくだされ」 雷のような叫びが、鼓膜を突き抜ける。 「葛葉殿の口で軽々しく喋るなッ三流邪剣如きが!」 葛葉が硬直する。 「葛葉殿!貴方はそんな邪剣ごときに屈するほど、弱い精神の持ち主ではないはず!! ガクガクと、葛葉の体が痙攣する。 「剣十郎様…わ、私を…私を、ころ、して」 葛葉の言葉に、満身創痍の戦士達の応急処置に奔走する少女達は息を呑む。 「も、はや、私と、邪剣は分離不能なほど、ゆ、融合してしまいました。取り返しのつかないことをする前に、は、早く私を…私を…」 剣十郎の後ろから、岩鉄が一振りの刀を持って現れた。 「剣十郎。…楽してやンな」 岩鉄は、剣十郎の手にその刀を手渡した。 「…」 剣十郎は無言でそれを受け取り、目を瞑ると鞘から刀を引き抜いた。 「もはや、殺るしかあるまい」 目を開いた瞬間、凄まじい殺気が葛葉を襲う。 「ひっ…!…ふふ」 痕喰を持つ左の顔が醜く恐怖に引きつり、アーサキャリバーを持つ右の顔は、穏やかとも取れる微笑を浮かべている。 「ゆくぞッ!!『斬悔』!!」
スラリ
ゆっくりと鞘から引き抜いたそれは、神々しい輝きを持っていた。 「…綺麗」 フェアリスが呟きを漏らした次の瞬間、その煌きは葛葉の首元に迫っていた。 「!!な、ぁあ!?」
ギィチイイイイイイイイイイインッッ!!
間一髪、痕喰が割って入り、刀を受け止める。 「なんてスピードだ…動きが拾いきれなかった…!」 ロードがこういうのも無理は無い。 「オヤジは戦闘中、ずっと足にマイトを集中していられるのさ」 御剣流剣術・電光石火。 「電光石火は、歩法なんだよ」 素早く移動するための、特殊な歩法。 「それに着いていけてる…いや、完全に捕らえきっている葛葉さんのほうが…すげェ」 そう、わずかに葛葉の方がスピードが上だ。 「ふふ…どうやら、私の方が速いようですね」 痕喰を振るう葛葉。剣十郎の頬から、血液が流れ出る。 「ああああああああああああッ!!」 アーサキャリバーと痕喰を振りかぶり、一気に振り下ろす。 「はははははッ!!!どうしました!どうしました!?」 跳躍し、勢いをそのままに、アーサキャリバーを振り下ろす葛葉。 「その程度ですか!?剣十郎様!!」 斬り裂かれた箇所は間髪置かずに再生される。だが、その両者の実力の間に生まれた差は縮まることは無い。 「…開封、するしかないな」 剣十郎の呟きに、訝しげに眉をひそめる葛葉。
――我、今一度、雷神の力を解き放ち、魔を滅する者也。
「使うぞ、エリク」 自らの親友が施した封印を、今、解き放つ。 「!!??」 根元まで突き刺された刀身を、更にゆっくりと引き抜く。 「轟雷剣、招来ッッ!!!!」
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!!
天より、雷が降り注ぎ、斬悔の刀身に収束していく。 「あれが…!!」 志狼たちは、剣十郎がしかと握り締める一振りの刀を凝視する。 「我が体に刻印された、轟雷剣の記憶を、一時的に降ろす秘術…!しかと味わってもらおう」 葛葉は驚愕に目を見開く。 「マイトの総量が…更に上がった…!」 志狼が感じたそれは、斬悔に轟雷剣を『降ろした』瞬間だった。 「桁が…違う」 想像以上の遠い場所に、父はいるのだ。 「目を、放すもんか」 しかと目に焼き付けるのだ。最上の戦いというものを。 「ぜああああああああああああああああッ!!」 金属と金属のぶつかる、耳障りな音があたりに広がる。 「ふふ…未だにスピードは、若干私の方が速い」 一瞬で葛葉の姿が消えうせる。 (間に合わん…!) 振り返り、受け止めている時間は無い。 (ならばッ) 剣十郎は振り返らずに、逆手に斬悔を持ち替え、背中に腕を回し、構える。
ガチィインッ!!
「な!?」 丁度、先ほど志狼の斬撃を受け止めたのと同じように、痕喰を完全に受け止められてしまった葛葉は、痕喰を振り下ろした体勢そのままに固まってしまう。 「力は、ワシの方が上手のようだな。邪剣よ」 力を込め、痕喰を弾く剣十郎。油断無く距離を開ける葛葉。 「あああっ!!」 剣十郎の剣が、葛葉の傍をかすめ、葛葉の剣が、剣十郎に無数の傷を作っていく。 「御雷落しッッ!!」 雷を剣に受け、一気に振り下ろす。 「ぬ、うあ、ああああ!」 痕喰とアーサキャリバーを交差させ、剣十郎の剣撃を受け止める葛葉。 「ぬ、ッくッ!!」 だが、斬り裂かれた傍から再生し、尚も葛葉に斬りかかる剣十郎。 「雷・鳴・刃ッッ!!!」 間一髪、葛葉は突き出された斬悔を回避する。 「「…!!」」 弾かれたように互いが互いから距離をとり、視線が交差する。 (かわされた…!!まさか、あのスピードを) 剣十郎は自身の最速剣技、雷鳴刃をかわされたことに、顔には出さずに驚愕する。 (なんと言う力…!まともに喰らえば…!?) 葛葉…邪剣は、袖がボロボロになった腕を見る。 「…凄い」 戦いを見ていたエリィは、喉がカラカラになっていた。 「!?」 そして、痕喰の柄が、まるで触手のように唸り、葛葉の左腕に巻き付いていく。 「!!いけねェ!!早く葛葉を倒せ剣十郎!!」 急にうろたえ始めた岩鉄に、ロードが問い詰める。 「あの邪剣…葛葉の魂を喰い始めたんだッ!!早く倒さねェと、葛葉の魂は邪剣の中に取り込まれちまう!!一生救われねェ闇の中で生きることになる!!一生だ!!」 フェアリスが口元を押さえ、真っ青になる。 「魂を喰らい、完全にこの体を支配すれば…貴様など恐るるに足りん」 にやりと笑う葛葉。対照的に、烈火のごとき怒りを放つ剣十郎。 「何をしても無駄だ!既に我は魂を喰らい始めているのだぞ!!」 高らかに笑う葛葉。剣十郎は、もはや動じない。 「ここで、決める」 剣十郎は、傅き、地面に手をつける。 「雷縛鎖(らいばくさ)」
ジャララララララララッッ!!
地面から、無数の雷の鎖が飛び出し、葛葉の右腕を、アーサキャリバーごと拘束する。 「ぐ、ああああああああ!?」 鎖から走る電撃に、苦悶の表情を浮かべる葛葉。 「すぐに、楽になりますから」 剣十郎は、穏やかな笑顔で、葛葉に告げる。 「む、無駄だ…!こんなことをしても、魂の侵食は止まりはしない…ッ!!」 葛葉の表情は…狂笑。 「おじ様!!」 凄惨な最後を予見した2人の少女は、涙を流しつつ、叫ばずには、いられなかった。 「御剣流剣術、奥義」 一度、天に剣を翳し、右足を引き、半身になると、胸の前で相手に向かって剣を構える。 「うわ、あああああああああああああああ!?!?」 凄まじい殺気が、近づいてくる。 「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 剣十郎は、葛葉の背後に斬り抜け、斬心をとらずに、背を向けたまま、最後の言葉を呟く。 「轟雷斬」
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
雷が落ちたかのような轟音が、全員の耳を貫く。 「終わった」 岩鉄が、信じられないものを見るように、驚愕の表情で、その光景を見つめる。 「わ…私は…生きているのか?」 涙を流し、剣十郎にすがりつく葛葉。 「い、一体何が起きたの…?シロー」 あの瞬間。 「元々、轟雷斬は武器破壊の必殺技だからな」 後は斬悔で見事、邪剣を叩き斬った、と言うわけである。 「すみませぬ。邪剣を追い込むためとはいえ、あそこまで殺気を中ててしまい…」 数々の秘剣や技を繰り出したのは、今のこの一瞬を生み出すための、仕掛けだったのだ。 「葛葉殿。岩鉄殿から聞きました。あの女性は…強く、生涯を生き抜いたそうです」 剣十郎は、あくまで、柔和な笑顔で語りかける。 「我々も、生きねばなりませぬ。死した者達のため…そして何より」 剣十郎は、志狼たちに視線を向ける。 「守るべき者たちのために。今後は…簡単に命を投げ出したり、しないで下され」 葛葉は、しかと頷いた。 「剣十郎!」 斬悔を見せながら、頭を下げる剣十郎。 「オメー…どうやって葛葉の魂を開放した?そんな芸当が出来るなんて」 志狼やエリィが、ちょいちょいと刀身を突いているのを、笑いを堪えつつ、岩鉄に答える剣十郎。 「エリク殿が施した術だよ、エリィちゃん。君のパパは凄いだろう」 心底驚いたようである。今回は堪えきれず、笑いを漏らす剣十郎。 「叔母さま!大丈夫ですか!!」 軽口を叩くテイトに、苦笑する葛葉。 「さて、轟雷剣が消える前に、やっておくことがまだあるな」 首をかしげる志狼に無言で頷き、ロードに葛葉を託す。 「後始末と言う奴だ」
「中々面白い見世物だったが…ふん、数を少しでも減らせると思ったが、所詮骨董品は骨董品か」 魔剣に細工をした影…トリニティの刺客である魔物が、嘲り、飛び立とうとしたその瞬間。 「どこへ行く」 凄まじい殺気を感じて後ろを振り向く。 「き、貴様は…!?」 後ろには、刀をこちらに向けたまま、気が狂いそうなほどの殺気を向けてきている、先ほどの人間の中の1人。 「貴様が、あの魔剣に何かをしたのだろう。よくもやってくれた…相応の礼をせねばな」 凄まじい殺気に、魔物は先ほどまでの態度はどこへやら、我を忘れ、頭を下げ始める。 「ま、待て…命だけは…!」
キシィ…ン
魔物の体が、横に、縦に、斜めにずれ、更に、いたるところに風穴が空く。 「地獄に堕ちろ…外道が」 悲鳴を上げるまもなく、魔物は絶命する。 (お…鬼…!!) 魔物の瞳に映るその人間は、人外の、鬼のような外見をしていた。
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