翌日。
…といっても、決着が付いてから数時間、と言う感覚ではあるが。
ロードが、ラストガーディアンに通信を入れていた。

「…というわけで、一応用件は済みました。帰艦したいのですが、どうにも怪我人が多く、移動が困難です」
『フェアリスに無理をさせるわけにも行かないわね…』

通信に答える律子も、唸っている。
あの後、気が抜けたのか、フェアリスは気絶するように深い眠りに入ってしまった。
律子の言葉通り、無理をさせることは出来ない。

「こちらでしばらく、養生することになりそうです」
『戦力的に、少し痛いわね。迎えをよこそうにも、かなり人里から離れていて、それも困難…どうしたものかしら』
『ロード君〜お困りっすか〜!?』
「うわ!?」

突然通信に割り込んできた元気な声に驚くロード。

「その声…マッコイ殿か」
『マッコイ姉さんって呼んでほしいっす』

クスクスと笑うマッコイ姉さんに、苦笑するロード。

「して、なにか妙案でも?」

わざとらしいタイミングで通信に割り込んできたことから、何かを察したロードは、相手−マッコイ姉さんに質問する。

『ん〜、妙案と言うかなんと言うか』

ははは、と微妙な笑いを振りまき、マッコイ姉さんは何かを隠している。

「教えて下さい」
『じ、実は〜』


「なにい!?実は街まで歩いて数十分だとぉ!?」
「…らしい。直ぐに迎えをよこすそうだ」

机を叩き、椅子から立ち上がる志狼。
昨晩、あれだけ傷ついたと言うのに、元気なことだ。同じように傷ついたテイトは、フェアリスの隣のベッドで安静にして眠っていると言うのに。
ちょっと呆れつつ、ロードは言った。

「そらおめー、俺だって霞食って生きてるわけじゃねーよ」

大笑いする岩鉄。
ガスや水道は通っていないが、ご飯は畑を耕したりして、自給自足で生活しているわけではなかった。

「な、なんであんな獣道歩かされたんだ、俺らは…」
「そうそう。最初は道なき道から出てきたから、そらたいそう驚いたもんよ」
「なるほど…あの驚きには、そういう意味もあったのですね」

がっくりと肩を落とすロードに、更に笑う岩鉄。

「それにしても、おじ様…家の中に入ってこないね」

エリィが窓から、木に寄りかかり、目を瞑る剣十郎を、ちらりと見る。

「轟雷剣は元に戻っちゃったけど、力はそのままになっちまってるみたいだからな。下手に近づくと…」
「む〜、私、ご飯とか持ってく!」
「あ、ちょっと待てエリィ!!」

志狼が何か言いかけたその時、水とおにぎりを持って、エリィが外へ出て行ってしまう。

「おじ様〜!水とおにぎり持ってきま」
「いかんエリィちゃん!近づいたら…!!」
「エリィ!!ちょっと待てっ!!」

剣十郎に近づくエリィの腕を引き、代わりに剣十郎に体が密着する志狼。
その瞬間、体を鋭い電撃が駆け抜ける。

「シビレバビレブ―――!!」
「わー!しろー!!」

黒焦げになって倒れてしまった志狼を、慌てて抱き起こすエリィ。

「い、今は、近づいちゃ、駄目だってば…」
「ごめんよーシロー!!」

ワーと泣き出すエリィ。

「オヤジも…もちっとマイト抑えろよ」
「…お前、象に繊細なワイングラスを持てると思うか?」

普段、マイトの扱いは常人以上の剣十郎だが、その総量が増えたことで扱いづらいものになっているようだ。
この分では、コップすら手に持った瞬間、どうなることやら。
諦めたように真っ白になっていく志狼。

「わー!」

エリィは慌てて手をパタパタさせるが、どうにもならなかった。
そんな彼女の目の前に、黒髪の女性が躍り出る。
女性はおにぎりを手に持つと、剣十郎の口元へ持っていく。

「剣十郎様。どうぞ」
「む、葛葉殿!」

あの後、フェアリス同様に気を失うように眠りに落ちた葛葉だったが、目が覚めたらしい。
それにしても、密着するようにおにぎりを口に運ぼうとしているのに、葛葉は感電する気配が見られない。
エリィの目には、葛葉の周りに何やら不思議な力場のようなものが形成されているのが見えた。

(魔法力、ってやつなのかな)

どうやら葛葉は、自らが持つ魔法力を膜とし、ありあまる剣十郎のマイトに晒されずに済んでいるらしい。

(こりゃあ、葛葉おば様にしか出来ない…かv)

「さ、どうぞ。剣十郎様」
「いや、あの、葛葉殿」

妙にうろたえている剣十郎を見て、エリィと黒焦げの志狼は笑いを堪えるのに必死だった。

「や♪大変だったみたいだね」

突然、そんなのほほんとした声が聞こえてきた。

「…!!パパ〜!!」

声のした方へと駆け出し、ひしと抱きあうエリィと声の主であるエリク。

「はっはっは。怪我はないかい?エリィ」
「うん!シローがまた守ってくれた!」
「そうかそうか。シロー君…怪我が絶えないね」
「は、ははは」

エリクの言葉に、空笑いしか出てこない志狼。

「冗談だよ。ありがとう」

ニッコリと笑いながら礼を言うエリクに、照れ笑いを浮かべる志狼。

「やれやれ、封印が解けたのを感じたから心配できてみれば…今のままの方がいいですかね?剣十郎さん」
「…早く封印してくだされ」

ニコニコというエリクに、こめかみをヒクヒクさせながらも強く出れない剣十郎は、そういうので精一杯だった。

「Self and the thing which stops the god of thunder once again using the god's of the wind power♪」

歌うようにエリクが呪文を唱える。
すると、光の鎖が剣十郎の体に幾重にも巻きつき、やがて光の鎖は見えなくなる。

「はい、封印完了♪」

ポンと、剣十郎の肩を叩くエリク。

「すげぇ…魔法使いみたいだな、おじさん」
「ふふ、そうですか?」

ポカーンと口をあけて呟く志狼に、ニコニコと笑いながら答えるエリク。
本当は、裏の世界では知らぬものはいない、『赤眼の魔術師』の異名を誇るほどの術師なのだが、志狼はそれを知らない。

「封印を解くほどに大変だった…か。ご苦労さん」
「いや、どうということはない」

耳元で、他に聞こえない程の声で呟きあう剣十郎とエリクだった。

「あら、本当に傷だらけね。早く引き上げて、本格的な治療をした方がよさそう」
「!麗華。カイザードラゴン」

どうやら、迎えには彼女達が向かわされたらしい。
なるほど、広い場所にさえでれば、巨大化してジェット機にも変形できるカイザードラゴンだ。
それに乗れば、大した時間も掛からずに帰艦できるだろう。

「あー、そういえば、カイザードラゴン」
《はい。なんでございましょう?》

志狼はちょいちょいと、手で招き、カイザードラゴンを呼ぶ。

「お前、ねーさんの助手してたよな」
《は、少々不本意ではございますが》

頬を爪でチョイチョイと引っ掻きながらカイザードラゴンは言う。

「なんであんな獣道を歩かせたのかとか、聞いてないか?」
《は、それでしたらば、回答を頂いております》
「ほんとか!?」
《御意》

コホンと咳払いし、

《『宝物を手に入れるには、それなりの苦労がないとつまらないっす〜』だそうでございます》

口調を真似て、そう言った。

「マッコイ姉さあああああああああああああああん!!!」

ブルブルと振るえてから、大声で志狼はそう叫んだ。

「はい、剣十郎様。お水です」
「は、いえ、あの」

ちなみにこちらは、封印が施されても相変わらずのようだった。






出立の際、今度は麗華に手を出そうとして、竜王の炎で黒焦げにされそうになった岩鉄だった。

「全く、冗談の通じねェ連中だぜ」

そう言い放ち、数日世話になった面々は苦笑するしかなかった。

「ありがとな。聖剣と魔剣の因縁にまでケリ着けてくれてよ」

剣十郎に手を差し出し、真面目な表情で岩鉄は言った。
表情のあまりの変化に、手を出されそうになった麗華が一番驚いていた。

「いえ、刀を打ってくれた、せめてものお礼です」

手を握り返し、笑顔でそう言い放つ剣十郎。

「…そうかい」
「斬悔、頂いていきます」
「ああ。存分に使ってやってくれや」
「はい」

そうして、岩鉄に別れを告げる一行。
岩鉄が少し寂しそうな表情を浮かべていたのは、気のせいではないだろう…。

「剣がさびる頃に、また来てやるよ!」
「その時は、私のローディアンソードも、是非!」

志狼とロードのそんな言葉に、表情をほころばせる岩鉄だった。






後日。

艦内において、剣十郎と葛葉が今まで以上に一緒にいることが多く目撃されるようになったと言う。


…完。

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