「あいてててっぇえ」

数日前、ラストガーディアンをトリニティが攻撃してきた。

今まで以上に厳しい戦いで、勇者達は疲弊の極みに達していた。

とはいえ、彼の体を駆け抜ける痛みは、その戦いで負ったものではない。

彼…御剣志狼も戦いの直後重傷を負い、倒れたのだが、数日経てば恒例の朝錬は再開され、更にその数日後には彼自身も怪我や疲労が回復していたりする。

「クスクス…大丈夫ぅ?シロー」

いつもどおりの朝錬を終え、志狼とそれについて歩くエリィは訓練所を後にしていた。

「痛ぇ」

志狼の答えに、エリィは笑顔で人差し指を立てる。

「んじゃ大丈夫♪」

「何でだ」

半眼になって即座に返す志狼に、エリィは

「痛くなかったら、致命的」

といった。

「…そんなに酷い?見た目」

「あはは」

エリィは苦笑するだけで答えなかった。何とはなしに全身をさする志狼だった。




ゴゥン



「「!」」

突然、振動が艦を襲った。

「…俺よりガタがきてるんじゃねーか?この艦」

「…あはは、かもね」

数日前のトリニティの攻撃で、ラストガーディアンも損傷が激しかった。

先程のような振動も数日前から1度や2度ではなく、何時墜落するかと不安を抱えているのは彼らだけではない。

何とか整備ドッグへたどり着こうとしているようだが、当の彼らは祈るより他できることが無かった。

「!」

ふと、エリィが立ち止まる。

「?」

突然立ち止まったエリィを振り返る志狼。

どうやら何かを見つけたらしい。ある一点を見つめたまま、彼女は全く動かない。

「どうした、エリィ」

「あれ」

エリィが指差したのは、購買のショーウィンドウ。

季節モノの商品や、新発売の新商品などを陳列するスペースなのだが。

「あ?」

そこでは。

「ね」

1人の少女が。

「な…」

座布団に座って、のんきにお茶をすすっていた。

「みーちゃん…何でここに」





見参、ブレイブナイツ!!





「お前!そこで何やってんだ!」

ショーウィンドウを叩き、志狼は声を上げる。

「…」

ガラス越しでは聞こえるはずも無い…のだが。少女…龍門水衣は志狼を一瞥すると口を数回パクパクさせ、視線を外した。

「お茶飲んでるんだって」

エリィの通訳に、志狼は脱力する。

「なんでそこにいるんだ!!」

めげずに復活すると、再び声を張り上げる志狼。

「…」

水衣はまたも口を数回パクパクさせ、お茶を一口。

「商品なんだって」

「なんじゃそら!!」

志狼は突っ込みすると、水衣の腰掛けている座布団の近くに、値札が付いているのに気が付いた。

「…マジで商品なのか…って、うぉい!!なんじゃこの値段わッ!!」

値札に表記されている値段に、志狼は目を剥いた。

一生遊んで暮しても十分お釣りが来そうな値段が、そこには書かれていた。

「私は安くなくってよ、だって」

「やかましい!」

「わ、私に言わないでよ〜」

「す、すまん、つい」

思わずエリィにツッコミを入れてしまう志狼。無理も無い。エリィも苦笑い気味だ。

「つか、何時どうやってここに来た!?皆は、他の連中も来てるのか?!おい!!」

「志狼さん!志狼さん!そんなにショーウィンドウをバーシバシ叩かないで貰いたいっす!商品にストレスを与えてしまうっす」

ショーウィンドウを叩き続ける志狼に、そんな声が掛けられた。

「あ、マッコイ姉さん!おはようございます♪」

「はいはい、おはようっす!エリスさん!」

購買の主であるマッコイ姉さんが現れた。エリィは軽く手を振りながら挨拶した。

そんな彼女に半眼になる志狼。

「ストレスって…犬猫じゃあるまいし」

「犬猫よりもデリケートっす!」

「そーかねぇ…」

志狼は水衣に視線を移す。ショーウィンドウの仲の彼女は、のんきに煎餅を一かじりしている。

「とてもストレスを感じているようには…」

「志狼さん…君にこのお金が出せるというのなら文句は一切言わないっすよ〜?」

「ごめんなさいすみません、私が悪ぅございました」

「うわ、シローカッコわるー」

マッコイ姉さんの脅しに屈した志狼を、エリィは苦笑してボソリと呟いた。

「とまぁ、冗談はこの辺にして」

「どっからどこまでが本気なのか分からない冗談は止めてください」

「彼女達はあたしが連れてきたっす。BD君と同じように」

「わぁ!凄いです!!」

「…」

完全に無視して話を進められ、脱力する志狼だったが、マッコイ姉さんの言葉に内心かなり驚いていた。

彼女は、志狼達が元いた異世界から、ここまで仲間を連れてきたと言うのだから。

手段など聞きたい事が山ほどあったが、もっと気になるのは。

「姉さん、他の連中はどうしたんです?陸丸とか、ブリットとか…」

「ああ、陸丸さんは鈴さんと一緒に艦内見学に出掛けたっす!ブリットさんはユマさんと一緒にブリッジへ挨拶に行ったっすね」

「拳火は?あいつもきてるんでしょう?」

「あー…、その〜、彼はっすねぇ」

どうにも歯切れの悪いマッコイ姉さんの答えに、志狼は眉根をひそめる。

「売れちゃった。ってみーちゃんが言ってる」

「な、なにぃいい!?」

エリィの言葉に、志狼は目を剥いた。

「そーなんすよぉ。ちょっとした悪戯のつもりで2人には値札をつけたんすケドね」

ちらりと水衣と、その隣に置かれている『拾ってください』と書かれた段ボール箱に視線を移すマッコイ姉さん。

「…」

微妙に待遇の差が気になる志狼だったが、そのダンボールに書かれている値段は…

「子供の小遣いでも買えますね」

あえていうなら、ワンコインプライス。

気の毒すぎて、他に言葉が出てこなかった。

「整備班の人手が足りないって、おやっさんがお買い上げして持って行っちゃったっす」

「…この戦艦、戦いのたびにボッロボロだもんなぁ…」

不思議と人の手で創られた勇者の少ないここ、ラストガーディアン。

整備班の出番が少ないかと言われると、実はそうでもない。

戦艦そのもののダメージが戦闘のたびに酷くなる一方で、その応急処置や修理に、整備班はてんてこ舞いなのである。

そこで白羽の矢が立ったのが、ガタイがよく、しかも安い、例の『新商品』だったらしい。

「志狼。エリィ」

「あん?」

突然、ショーウィンドウから現れた水衣から、何かを投げ渡される2人。

「Bウォッチ。忘れ物よ」

「おお」

「わ♪ありがとう!みーちゃん!」

早速通信装置、Bウォッチを身につける志狼とエリィ。

「連絡、取ってみたらどう?」

「拳火にか。よし、やってみっか」

志狼は言われたとおり、拳火に通信を入れてみる。

「拳火、志狼だ。聞こえるか?」

『お!?志狼か!久しぶりだな、オイ!』

Bウォッチから聞こえてくる声に、苦笑する志狼。

「顔出せよ、着いたんならよぉ」

『ワリィな!着いた早々売れちまってさ!』

あっさりと言う拳火に呆れる志狼。

「…悲観してネェのな。お前」

『あっはっは!なぁんか馴染んじまってさ!』

『コラァ!!新人!!さぼってんじゃねぇ!!』

『わぁったよおやっさんっ!今行くって!んじゃな志狼!今手が離せなくてよ!』

「ま、まぁ頑張れや」

『おう!』

そこまでいって、通信が切れる。

「心配要らないでしょ」

「…みたいだな。ポジティブな奴」

水衣と志狼は苦笑して頷いた。




「アースパンツァー、どうですか、修理状況は」

「おう、大分マシになってきてるぜ」

リオーネからの通信に一息つきながら、アースパンツァーは答えた。

彼は今、自作の巨大リフトに乗ってラストガーディアンの外壁に取り付き、装甲やブースターを修理している最中だった。

「こりゃあオーバーホールしねぇとダメだなぁ。損傷が激しすぎらぁ」

「ええ…」

彼の言葉どおり、損傷の度合いが激しすぎるため、応急処置という形をとらざるを得ない状況なのではあるが。

損傷が激しいのは、何も船体だけではない。

先の戦闘で、艦橋部を狙われたアースフォートレスを庇う形で、シャインサイザーが多大なダメージを受けていた。

当のシャインサイザーはアースパンツァーの処置を受け、今はタブレット内で安静にしている。

そのパートナーである秋沢飛鳥は精神疲労の度合いが凄まじく、つい昨日までベッドの中で絶対安静の状態だった。

立ち上がれるようにはなったが、万全かと言われればそうではない。

今も部屋で飛鳥は、シャインサイザー同様に安静にしている。

「…」

始めこそ飛鳥の傍を離れなかったリオーネだったが、少しでも体を動かしていないと、悪い事ばかりを考えてしまう。

以来彼女は、船体の損傷箇所のチェック、修理を取り付かれたように行なっていた。

「リオーネ!リオーネ!!」

「?ほ、ほのか?」

突然の呼び声に振り向くと、通路の向こう側から空山ほのかが興奮して駆けて来るのが見えた。

腕に、何かを抱えながら。

何やら、耳や尻尾の生えた動物のようなもののようだが…

「見て見て!!かわいい子見つけちゃった!!ほら!耳!シッポ!!」

「ちょっと、離して下さい!!離してってば!!」

「…は?」

ほのかが抱えていたのは、ただの動物ではなかった。

耳や尻尾を生やした、少女だったのである。

「見てコレ!!アクセサリーとかじゃないんだよ!本物の尻尾と耳なんだよ!」

「ほ、ほのか、ちょっと落ち着いてください」

「うにゅ〜、か〜い〜よぉ〜」

片腕で少女を抱きながら、片腕でリオーネの肩を掴みながら、ほのかはその場で頬擦りを繰り返し、悶え始めた。

「あ!いた!!」

「鈴を放してください!!」

通路の向こう側から、秋沢雫と見知らぬ少年が慌てて駆け寄ってきた。

少年は、どうもこの鈴という少女の知り合いらしい。

「り、陸丸ぅ、助けて」

「艦内で人攫いに会うなんてなぁ、もう」

陸丸と呼ばれた少年は苦笑いしてほのかに頭を下げた。

「お願いします、鈴を離して下さい」

「ほのか」

雫がほのかの肩に手を乗せるが、ほのかはよっぽど気に入ったのか、鈴を離す気配が無い。

「ほら、ほのか」

「ああー!も、もう少しだけー!」

見るに見かねたリオーネがほのかの腕を解き、鈴を解放させた。

「ああ…助かったあ」

「それにしても…」

解放された鈴と、陸丸を交互に見るリオーネ。

「お2人とも、この艦にいるということは…」

「あ、すみません、自己紹介もしないで」

陸丸は、袖から棒を二本取り出し、腰から柄の短い刀を取り出し、それらを連結させると、一本の見事な槍を形成させた。

「獣虎陸丸。勇者の鎧・猛鋼牙の乗り手です。コッチは鈴」

「私たち、助っ人です♪」

「「宜しくお願いします!」」

2人はペコリと頭を下げた。




ダンッダンッダンッダンッ!!


射撃訓練所に、銃声が響き渡る。

引き金を引くのは、田島謙治。その傍らには長髪の令嬢…神楽坂麗華が立っていた。

「…調子、よくないみたいね」

「恥ずかしながら、そのようです」

銃撃の精度、速度が測定され、上方のディスプレイに総合ランクが表示される。

『ランクB』

普段のコンディションであればランクAは堅い謙治だったが、数日前の戦闘のダメージや精神力の消耗による体調の低下が原因で、彼の銃撃にいつもの精密さがかけていた。

麗華の目にもソレは見て取れる。

彼だけではない。自分も疲労の度合いが酷い。気が付けば、足がガクガクと振るえ、今にも倒れそうになる。

今の彼女は意地で平静を装っている状態だ。

中でも、彼らドリームナイツで一番重傷なのは橘美咲だった。

飛鳥同様に、固まっていた所を狙われたグレートフレイムカイザーとヘキサローディオンを庇い、スターブレイカーは、機体、パイロット供に深刻なダメージを負った。

医務室で今頃、大神隼人が付きっきりで看病している事だろう。

気が重い。

何かしていないと、体を動かしていないと、自責の念で押しつぶされてしまいそうだった。


ダンッダンッダンッダンッ!!


「「!」」

直ぐ隣で、銃声が聞こえた。誰かが訓練をしているらしい。

(それにしても…)

早い。射撃音から次の射撃音への感覚が短い。

現れた的に狙いをつけて、引き金を引く。そこに微塵も迷いが無い。そんな印象を受ける。

「わ!Sランクですって!」

「「な…!?」」

突然の会話に、謙治と麗華は顔を見合わせる。

Sランク。

実際に目にした事の無いランクだ。射撃の精密さ、速度ともにパーフェクトを出さなければ、Sランクにたどり着く事は出来ない。

思わず声のする方へと駆け寄る。

そこには、1人の男と、少女、そしてその傍らに、狼型ロボットがいた。

「あ!」

「この艦のクルーか」

少女と男が謙治と麗華に振り返る。

「あ、あなたは…何者ですか?」

「ブレイブナイツ…といえば分かるか?」

「え…ということは、御剣さんのお仲間、ということですか」

「そうなる」

「私はユマ。宜しくお願いします。こちらはパートナーの…」

『フェンリルだ。以後よろしく頼む』

「は、はい。宜しくお願いします」

ユマの差し出した手を握り返しながらも、視線はフェンリルに固定されたままの謙治。

「気になりますか?フェンリルが」

「ええ…特に駆動系が」

「私が直接作ったわけでは無いのですが。よろしければ、後でデータをご覧になりますか?」

「いいんですか?それは是非」

瞳に好奇の光が宿った謙治に、麗華は軽くため息を付いた。

「盛り上がっているな」

「興味あることに関してはいつもあの通りよ」

ブリットの言葉に苦笑する麗華。

「所で1つ、聞きたい事がある。いいか?」

「?何かしら」

「ブリッジの場所を教えてくれ。 火薬の匂いに釣られて歩いていたら、道に迷った」

「…」

麗華は再度、ため息を付いた。




「ブリッツァー・ケイオス、着任の挨拶に参りました!」

「ご苦労様」

見事な敬礼と供に、ブリットが艦長である綾摩律子に挨拶をしている最中だった。

ユマも慌ててソレに習い、敬礼する。そのパートナーである犬型ロボットのフェンリルは、その傍らでお座りの姿勢で待機している。

それをみて、苦笑する律子。

「ケイオスさん?」

「はっ」

「ここは軍艦ではないの。そうかしこまらないでも構わないわ」

「了解。…それでは、俺のこともブリットで結構です、艦長」

「分かったわ。ブリットさん」

「それと…」

そう前置きしてから、ブリットは口調を変える。

「俺は敬語が苦手でね。今後はこの調子でも構わんだろうか」

「好きにしてくれて構わないわ」

「了解」

途端に姿勢を崩すブリット。ユマはぷはぁ、と大きく息を吐いた。

「何をしている」

「だ、だって…緊張しちゃいました」

はぁぁ、と情けなくため息を付くユマ。

「…そうか」

やれやれ、と軽く息を吐くブリット。

「…笑わないで下さいよ」

ユマの一言に咳払いするブリット。

(…笑ってたの?今)

律子は今のユマの一言に軽く目を張った。

いや、律子だけではない。

脇に控える神楽や、気になって後ろを振り返っているメイアやシャルロットも驚いている。

今のブリットの表情には、少しも笑顔が無かったのだが。

ユマにだけは、彼の僅かな笑顔が見えていたらしい。

「ところで艦長」

「あ、何かしら?」

ブリットの言葉に、ハッとなる律子。

「随分と艦の損傷が酷いようだが…戦闘があったのか?」

「ええ、実は。2日ほど前だけれど…」

「なるほど」

ふむ、と頷くブリット。

「追撃がくる。索敵は怠るな」

「え?は、はい」

オペレータの2人に対して注意を促すブリット。

「俺が敵の指揮官なら、そろそろ仕掛ける」

「え?」

ブリットの言葉が終わるか終わらないか、という瞬間。

ブリッジを警報の音が支配した。

「勝った。戦闘が終わった。後は補給を受ければ当分心配ない…と安心しきっている今が、狩り時だ」

「次元震発生!!」

「敵を肉眼で確認しました!映像、出します!」

メイアはモニターに敵の姿を映し出す。モニターに、虚空に開いた穴から敵が徐々に姿を現すのが見える。

「…移動型プラント、といったところか」

ブリットがポツリと呟いた。

敵は、ピラミッドが上下にくっついた様な、ひし形の巨大な戦艦だった。

そこから、無数のブロンが排出されている。通常の陸戦型に加え、例の高速飛行型ブロンまで。

「物量で押し切る腹のようだな」

「いつも通りね…芸が無いと言えば芸が無いけれど…」

「凄い数ですよ!」

神楽の悲鳴めいた言葉どおり、敵の戦艦から吐き出されているブロンの数は相当数に及んでいた。

「現状では持ちこたえられそうに無い、か?」

「ええ」

ブリットの言葉に律子は力なく頭を縦に振った。

艦も勇者達も、今は疲弊しきっている。中には損傷の度合いが激しく、出撃できない勇者もいる。

2度に渡る連続的な襲撃。この点においては今までと同じ、というわけではない。

今数で押されたら、ただではすまない。

「DDBシステム起動ッ!」

「か、艦長、しかしそれは…!」

律子の命令にうろたえる、副艦長の神楽悠馬。

ディメンジョン・ディストーション・ブレイクシステム…通称DDB。

本来、次元の穴が発生する瞬間にその効力を発揮するシステムだが、その後改良が加えられ、開いてしまった次元の穴を消滅させる事も出来るようになった。

コレを使えば、次元の穴を経由して侵略してくるトリニティの後続を断つ事が出来る。

物量に任せて押して来るトリニティに対して、必要不可欠なシステムと言えるだろう。

だが、前回の戦闘でDDBシステムは、過負荷が掛かりすぎてしまい、勇者同様に消耗してしまった。

「アレを今使ってしまうと、システムそのものが大破してしまう可能性も!」

「今は出し惜しみをしている時ではないわ。やります」

確かに正論だと、神楽も判断した。

ここで後続を断っておかないと、本当に物量に押され、取り返しのつかない事態になりかねない。

「…〜!DDBシステム展開!」

「りょ、了解!」

神楽が律子の命令を復唱し、オペレーター達がコンソールを叩く。

すると、ラストガーディアンの甲板上に、砲台のようなものが現れる。

砲台は光を漏らしながら、エネルギーを充填していく。

砲台から鈍い色の光の球が発射され、今もブロンを大量に吐き出し続けている次元の裂け目へと吸い込まれるように向かっていく。

光球は裂け目の中心へと到達するや、強烈な光を発し、徐々に次元の穴を消滅させていく。

「!DDBシステム大破!火災発生!!」

「消化班!急いで!!」

同時に、次元の穴をくぐり、出現しようとしていた戦艦が一基、次元の捻れに挟まれ、大爆発を起こした。

が、最初に穴を潜り抜けた戦艦は一基、依然としてブロンを排出し続けている。

「あの戦艦を落とすのが最優先ね」

後続を断つことには成功したが、再び次元の穴を広げられたら、打てる手が無くなってしまった。

速攻であの戦艦を叩き、戦線を離脱する必要がある。


カッ!ドゴォォオオオオオオオオオオオオオオ!!


「あ」

シャルロットが口をぽっかりと開けて声を漏らした。

突然、ラストガーディアンから一条の光が敵戦艦に向かって走ったのだ。

誰かが先行して敵戦艦に発砲したらしい。光はブロンを蹴散らし、そのまま戦艦に向かって突き進んでいく。

「なるほど。大変だな、艦長。気苦労が絶えんだろう」

ブリットの言葉に律子は胸の辺りを押さえて、思わずコマンダーシートに寄りかかった。

「だが、甘い」

バシュンッ!!

「「え!?」」

律子と神楽は驚愕の声を上げる。

「敵戦力の要だ。強固なシールドを張るのは当然だな」

ブリットの指摘も至極当然だ。

敵が時空の裂目が必要ないと判断するほど、あの戦艦の戦闘力や機能が優れているとすれば…

「極めて崖っぷちですねぇ」

コンソールでエリクが呟いた。

「とりあえず、出撃可能な機体を出すべきだと思うが?」


ドゴォオンッッ!!


振動が、ラストガーディアンを襲った。

(と言っても…!)

2日前の戦いは特に激しく、勇者達の損傷は激しい。果たして戦闘をこなせるかどうか。

フェアリスは勇者達の治癒で、その力を使い果たしてしまった。とてもではないが、ゲイルフェニックスを召喚するまでの余裕がない。

クロノカイザーはクロック・バースト・エンダーを連発しすぎた為に、システムが異常をきたし、戦闘は無理。

これらはほんの一例に過ぎない。主力級勇者たちの消耗は、特に酷かった。

嫌でもクルー全員の胸中を、敗北の念が過ぎる。

「さて、どうするか」

「え?」

ブリットの問いに、律子は顔を上げた。

「白旗でも振るか?」

「それが通用する相手ならば、そうしたいところね」

「そうか」

律子の皮肉めいた言葉を軽く受け流し、

「なら」

ブリットは人差し指を、モニター上の敵戦艦に向けた。

「勝つしかないな」

「…!」

「何…数手であの戦艦を地に墜として見せてやる」

この窮地において、これほど頼もしい言葉を聞けるとは思わなかった。

律子や神楽はポカンとしてブリットを見つめた。

そしてハッとなる。

それには、自分たちも全力で動かなければならないことが分かったからだ。

「何を…すればいいのかしら」

「まず、さっきの砲を放った奴と話がしたい」




『トリニティ出現!!トリニティ出現!!出撃可能な機体は各個出撃してください!!繰り返します!!』

「…きやがったか」

志狼は腰のナイトブレードに手をかける。

「シロー、気をつけてね」

「ああ」

心配そうに見るエリィの頭に、志狼は手を軽く乗せる。

「水衣!お前も来てくれ!!」

「先に行ってて。直ぐに行くから」

「おう!」

志狼はそのままその場を駆けて行った。

「さてと」

水衣はマッコイ姉さんに向かって微笑んだ。

「ちょっと席を外します」

「しっかりと売り込んで来てくださいっす!」

マッコイ姉さんはビシッとサムズアップした。

まだ値段があがるのかなぁ、とエリィは苦笑いになった。

「行ってきます」

水衣は美しい水色の宝玉がはめ込まれたグローブを手に装着しながら、格納庫へと走った。




「はい、確かに先ほどの砲撃は、私が指示しました」

艦内のあちらこちらに設置されている通信ディスプレイ。

その内の一つに向かって、リオーネが言った。

彼女の目の前のディスプレイには、彼女の見知らぬ1人の男が映し出されていた。

ブリットだ。

「貴様のパートナーは聖霊・アースパンツァー。間違いないな?」

「はい」

「聖霊は基本的に主、ないしはそれに認められた者の命令が無ければ、勝手な戦闘行動を取る事が出来ないと聞いた。では何故、あのような指示をした。聞かせろ」

「そ…それは…」

リオーネは俯く。勝手な判断で、砲を撃った事を責められるのは当然の事だ。

「それは…」

私情だった。これ以上ないほどの私情で、アースバスターの発射を指示した。

「この状況下で敵が現れれば、飛鳥さんが…必ず、無理をすると、思ったからです」

「…飛鳥」

「秋沢飛鳥さん…前回の戦闘で、私を庇って…倒れてしまいました。今は立ち上がれるほどになりましたが…戦闘行為などできるような状態ではありません」

「…」

「それでも、飛鳥さんは戦場に出て行くでしょう。…そういう人なんです」

「それを阻止したくて、取った行動だったと」

「…はい」

「ふむ…」

ブリットは何やら考え込んでいるようだった。リオーネは不安に駆られる。

何をされるんだろう。

勝手な行動を取ったばかりに、敵を無用に刺激してしまったかもしれない。

許される事ではない。自分の取った行動1つのせいで、この艦が沈んでしまうかもしれないのだ。

拳を堅く握るリオーネ。

「あ、リオーネさん?」

「?は、はい?」

突然ディスプレイに1人の少女がブリットを押しのけて割り込んだ。

「初めまして、ユマと申します。あ、それでですね、別にブリットさん。リオーネさんを咎めようとか、そういうわけじゃありませんから」

「え?」

ユマの発言にポカンとするリオーネ。

「単に興味があっただけのようですから、お気になさらずに、ね」

「は、はぁ…」

「ふむ、単なる情報収集だ。作戦には何の関係もない。気にするな」

「…はぁ」

何の情報を、何故今この瞬間に集めたのだろう。

何か、彼の興味をひきつける情報が、今の会話の中にあったのだろうか。

リオーネの頭の中を、大量のハテナマークが通り過ぎた。

ディスプレイの奥で、律子が頭を抱えてため息を付いているのが見えた。

「…ん?」

そういえば、会話の中で、気になる一言を聞いた。

「作戦、ですか?」

「そうだ。貴様の、そしてアースパンツァーの力を借りたい」




「さてと、兄貴の分まで踏ん張るかッ」

「うん!」

甲板に出た雫とほのか。それぞれレイバータブレットとスピリットリングを掲げる。

「「コールっ!!」」

光が、甲板から飛び出し、空中ではじける。

「火炎合体ッ!!バーンレイバー!!」

「重影合体!!シャドウワイズマンッ!」

しかし、召喚器から飛び出した光は、2つのみ。

ガードパラディンは召喚に応じられぬ程に消耗していたのだ。

それは彼等も例外ではない。バーンレイバーもシャドウワイズマンも、決して万全とは言えない状態での召喚だった。

「バーンレイバー、いけるか!?」

バーンレイバーに乗り込み、心配そうに声を掛ける雫。

「ああ…!君こそ、大丈夫なのか…!」

返すバーンレイバーは、やはりパートナーの身を案じていた。

雫も倒れこそしていないが、精神力の消耗で、かなり弱っているはずだった。

「なぁに、やって見せるさっ」

雫はそんな疲労感を見せず、ニッと笑った。

「シャドウワイズマンさん…!お願い、頑張って!」

「承知!」

体中から走る痛みをねじ伏せ、シャドウワイズマンは答える。

「コール!!」


カッ!


「閃光合体!!シャインサイザー!!」

突然、彼らの傍らに、ボロボロのシャインサイザーが現れた。

「!?兄貴!?」

「兄上!?」

「行くぞ、雫」

「行くぞって、大丈夫なのかよ兄貴!?」

「この状況下で寝ていられるか」

やはり、辛そうな声だ。相当堪えてるに違いない。

「太陽合体は無理だが…問題ない」

「兄上…!」

「情けない声を出すな。大丈夫だといっている」

何故、こうも自分を大事にしないのだろうか。

雫もレイバーも、自らの兄の行動に呆れ、怒る。

「あーちゃん!ねえ、ほんとに大丈夫なの!?」

「ほのか、離れるなよ、密集陣形で行くぞ」

「う、うん…」

ほのかの心配そうな声には、あえて答えない。

己を奮い立たせ、飛鳥は敵戦艦を睨みつけた。

「行くぞ!アレを落とすッ!」

シャイニングショットを引き抜き、敵に向かって行くシャインサイザー。

バーンレイバー、シャドウワイズマンは慌ててその後を追った。

「…」

一部始終を見ていた陸丸は、拳を堅く握り締めた。

死なせたくない。

あの、飛鳥と呼ばれていた人は、恐らく大切な人をこれ以上傷つけたくなくて…守りたくて、無理を押して戦場に出てきたのだろう。

それはあの雫という人も、ほのかという人も同じ。

その行動の根元には、とっても暖かいものがある。

「行くか!」

『待て』

「え?」

突然、右腕のBウォッチから、制止の声が掛かった。




「オラー!!もたもたしてんじゃねぇッ!!さっさと消火しやがれっ!!」

格納庫を中心として、彼ら整備班は艦内を走り回っていた。

損傷した箇所の応急処置や消火活動で、整備班は休む暇も無く駆け回っている。

「ダメだおやっさん!!火の勢いがとまらねぇッ!!」

「おやっさん!!第2区画の壁面損傷!!風穴開いちまった!!!」

「泣き言ほざいてんじゃねぇッ!何とかするんだよッ!!勇者のガキ供に笑われちまうぞッ!!」

整備班の戦場に立つ彼は、ポケットからグローブを取り出した。

「ダメだおやっさん。火は元から断たないとな」

「ああ?!」

整備班長の振り返った先には、拳火がいた。

「テメェは何をサボって…」

彼の胸倉を掴みかかろうとして、その腕に装着されたグローブに目線を移す整備班長。

「ちょっと行って、元栓しめてくるわ」

「テメェ…」

整備班長は拳火の胸を、ドンと叩く。

「火傷すんじゃねぇぞ!帰ってきて使い物にならネェじゃ話にならねェッ!」

「心配すんなって。行くぜ紅麗!!」

『了解ッ!!』

不敵な笑いと供に、拳火はグローブ…神龍拳を高々と掲げる。


ゴゥッ!!!


同時に、炎の龍がグローブから出現し、格納庫一帯の炎を食らいつくし、鎮火する。

「おお…」

炎の龍はそのまま拳火の体を覆い尽くす。

炎の中から黒い影が出現し、炎を吹き飛ばすと、紅蓮の勇者がその姿を現した。

「火の扱いは得意中の得意だ」

拳火はそう答えた。

「拳火」

「!水衣姉」

水衣が格納庫へと駆け込んできた。

「さぁ、蒼月」

『ええ!』

水衣はグローブの宝玉へと口付けると、それを高々と掲げる。

次の瞬間、水の龍が水衣を覆い隠すように、螺旋状に立ち昇る。

水の柱から黒い影が出現し、それが水の柱を吹き飛ばす。

そこには、冴えた蒼色の勇者が立っていた。

『聞こえるか』

「!ブリット?」

と、突然ブリットからの通信が入った。

『これから作戦伝える。勝つ為に作戦の順番、タイミングを間違えるな。出来なければ、皆が死ぬ。 できるな』

「上等だ!!やってやらぁッ!!」

拳火は両拳を胸の前で打ちつけた。




「難しい事はないね」

ブリットの説明を受け、陸丸はニッと笑った。

「行くよッ!鋼牙!土熊!石鷹!!」

『『『応ッッ!!!』』』

陸丸は甲板の柵の上に飛び乗ると、そこから大地へと一気に飛び降りた。

「いけえええッ!」

そして、手にしていた砕虎を、地面に向かって投げつけた。

地に突き刺さった砕虎を中心に、大地に亀裂が走る。眩い光が放たれ、3機の勇者が光の中から飛び出した。

それぞれ胸に、虎、熊、鷹の意匠が施された、侍型ロボットだ。

「槍よ、我に希望の光を指し示せッ!!」

陸丸の叫びに呼応して、大地に突き刺さった砕虎が、陸丸の手の中に戻る。

そして胸に虎の意匠をつけた侍…鋼牙の額から光が走り、彼を包み込むと、そこへ収容する。

『さぁて…悪党供はどこでぇい!?』

『応よっ!俺達がぶっ潰してやるぜッ!!』

鋼牙の言葉に、熊の意匠を胸につけた土熊が拳を振り上げた。

『2人とも!油断は禁物ですよッ!』

「そうだよ!初めて戦う相手なんだから!」

胸に鷹の意匠がある侍、石鷹と、陸丸は血気に逸る彼等を咎めるが。

『ハンッ!!相手が何だろうが関係ねぇ!!』

『応よッ!!世の平和を乱す輩はァ!お天道様が見逃しても!オイラが許しちゃおかネェぜッ!!』

「…全く」

『やれやれです…』

当の鋼牙と土熊は聞いていなかった。

言っている事はまともなだけに、陸丸も石鷹も苦笑いするしかなかった。

「さて、じゃあ、さっきの人達のところへ行こう!まずは作戦段階第一だ!!」

『『応ッ!!』』『承知ッ!!』

鋼牙、土熊、石鷹は、敵に囲まれ、翻弄されている化身達の下へと駆けた。

『閃光弓!!』

「な!なんだ!?」

シャインサイザーに今まさに襲い掛からんとしていた高速飛行型ブロンが、無数のエネルギーの矢に貫かれ、爆散した。

「遅くなりました!」

「お、お前、陸丸か!?」

「はい!!」

「ははっ!それがお前の勇者か!!」

こちらに接近する見慣れぬ侍型ロボットから響く声に、雫は笑いながら近付いた。

「雫さん!ほのかさん!飛鳥さん!ラストガーディアンの守護についてください!お願いします!」

「何?どういうことだ」

同じく接近したシャインサイザーから、飛鳥が疑問をぶつけるが、陸丸はそれに答えず、鋼牙はシャインサイザーの手を掴んだ。

「いいから早く!」

『つべこべぬかしてんじゃねぇ!!』

「ぬ、おお!?」

鋼牙はシャインサイザーの手を引いたまま走り始めた。

「わ、分かった!分かったから手を離せ!」

鋼牙の思わぬパワーに、シャインサイザーは足を浮かせて引っ張られ続けた。

「うわぁ…」

『お2人とも、お早く!!殿は我々がつとめます!』

「お、おう!」

石鷹の声に慌ててラストガーディアンに向かって移動し始めるバーンレイバーとシャドウワイズマン。

後ろから襲い掛かるブロンを、土熊は拳で叩き伏せる。

『急げよッ!さもないと、オメェらも引っ張ってくぞ!!』

土熊はカラカラと笑いながら言った。

「…遠慮しておこう」

バーンレイバーは、今だ引っ張られ続けているシャインサイザーを見て言った。

「ちょっと、楽しそうかも」

「ひ、姫!?」

ほのかの発言にギョッとするシャドウワイズマン。石鷹はそれをみて苦笑しつつ、閃光弓でブロンを牽制し続けた。




ラストガーディアンから少しはなれた場所。そこに、蒼と白の巨人がいた。

「美咲!いいから戻れ!」

「まだ、まだ戦えるよ」

ウルフブレイカーはフラッシュブレイカーの肩を掴むが、フラッシュブレイカーはその手を優しく解いた。

「ぼくが、謙治くんと麗華ちゃんの分まで頑張らないと…!」

「…ちっ」

あの2人は、出撃する事が出来なかった。

精神力を消耗しすぎていたのか、または別の…精神的な問題があったのか。

ブレイカーマシンをリアライズする事が出来なかった。

体や精神力が消耗しているはずの美咲の方がリアライズに成功し、こうして戦場に立ってしまっている事が、隼人にはたまらなく苛立たしい事態だった。

「隼人くん!後ろ!!」

「!?」

油断した。

直ぐ後ろに拳を振り上げたブロンが…!


ゴシャアッ!!


「隼人くん!!」

金属のひしゃげる音が鳴り響く。

だが、ウルフブレイカーに、ブロンの拳による衝撃は走らない。

「よう、大丈夫かよ、青いの」

「…!」

隼人の視界に飛び込んできたのは、炎のような、真紅の機体。

その機体の拳が、ブロンの胸部に突き刺さっている。腕を一振りすると、ブロンを地面に投げ出す。

「君は…!?」

「志狼の、仲間」

「あ!?」

フラッシュブレイカーの背後には、やはりブロンの胸部を左腕で一突きにしている、澄んだ水のように鮮やかな青い機体が。

(…速い!)

ブロンに背後に回りこまれていた。それを、この青い機体が助けてくれたのだと、今になって理解する美咲。

回りには、自分と、隼人しかいかなったはずだ。

忽然と、この2機は現れた。だが恐らくは、テレポートといった特殊能力の類ではない。

自分たちがブロンに気を取られているその隙に、この2機は高速で接近してきたのだろう。

何せ、後方には、その2機のものと思われる足跡が、未だ土ぼこりを上げ、長間隔で点在しているのだから。

「龍門水衣。よろしく」

「同じく、龍門拳火だ。早速だが、ちぃっと移動するぜ。ついてこれるか?」

拳火は、隼人に向かってどこか挑戦的に言った。

(赤いのに乗ってるのは、皆ああなのか?)

フェニックスブレイカーの搭乗者や、真紅の竜を思い浮かべ、ため息を付く隼人。

「どこへ行くつもりだ」

「ラストガーディアン。集まれってさ」




「でええええええええええりゃあああああああああああああああッッ!!!」

裂ぱくの気合と共に、ブロンを一刀両断するヴォルネス。

「せいッ!!」

背中合わせになり、敵に裂岩を投げつけるクロスフウガ。

「なぁ、そろそろ合体しろよ!出し惜しみしてネェでよぉ!」

敵を切裂き、戻ってきた裂岩をキャッチしながら、風雅陽平が抗議した。志狼は苦笑する。

「まぁ、もうちょっと待てって」

「何待ってやがるんだ?おい」

『志狼』

「きたか」

ヴォルネスの声に、ニッと笑う志狼。ナイトブレードを腰に納める。

体中に走っていた疲労が、一気に引いていく。

「「お待たせ、志狼!」」

「おお、待った待った」

フラッシュブレイカー、ウルフブレイカーを伴い接近してくる紅と蒼の龍…紅麗と蒼月とハイタッチするヴォルネス。

「志狼にいちゃああああん!」

「おう、パワフルだな陸丸!」

シャインサイザーを引きずりながら駆けて来る鋼牙に軽く手を振る。

近くに来ると、シャインサイザーの腕を解放する鋼牙。

後からシャドウワイズマン、バーンレイバー、土熊、石鷹が続く。

『さて、志狼。先程の注文通り、頼むぞ』

「任せろ」

コクピット内のビジョンに映るブリットに向かって、志狼は親指を立てた。

「おい、お前ら…」

「いったい、何をするつもりなんだ」

飛鳥と隼人の疑問に対し、志狼、陸丸、拳火、水衣は、不敵に笑った。

「「「「大暴れ」」」」

「雷獣合体ッッ!!」

「武将合体ッッ!!!」

「「闘龍合体ッッ!!!!」」

4人の掛け声とともに、3本の光の柱が天に向かって立ち上る。

『雷獣合体…ヴォルッ!!ライッ!!ッガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

『武将合体ィ!!猛ぅ鋼ぅ牙ァあああああああああああああああああああああっ!!!』

『闘龍合体ッ!!紫龍ッ!!』

雷を纏った、緑色の騎士。ド派手な歌舞伎武者。そして、紫の双龍闘士。

かつて、500年も続いた戦いの、悲しみの連鎖を断ち切った、伝説の勇者たち。

「「「ブレイブナイツ!見参ッッ!!!」」」

3機の勇者が、ここに集結した。

「陽平、ラストガーディアンの守りは頼んだぜ」

「あ、ああ…って、お前らまさか、3機だけで行く気じゃねぇだろうな!?」

「行くぜテメェらッ!目標はあの戦艦だッ!!」

「「「『『『了解ッ!!!』』』」」」

志狼の掛け声と供に、一斉に駆け出す3機。

「まずは俺たちだッ!」

『派手に行くぜぃッ!!』

腕パーツが変形し、弓がその姿を現す。

「『大ッ閃・光・弓ッッ!!!』」


ドッッッ!!!!


光の柱が敵陣を貫いた。

柱に飲み込まれたブロンは耐え切れずに消滅し、余波で周囲に展開していたものたちも誘爆に次ぐ誘爆を起こし、花火のような炸裂連鎖を起こしていく。

『たぁあああまやあああああってかぁ!?カッカッカッカッカァッ!!』

弓パーツを納め、名槍・砕虎を取り出す猛鋼牙。

その猛鋼牙の両サイドを、ヴォルライガーと紫龍が超速で駆け抜ける。

「志狼ッ!合わせろ!」

「テメェが俺に合わせろッ!!」

「ハンッ!この紫龍を追い抜けるならなぁッ!!」

体勢を立て直し始めたブロンの大群に、正面から突っ込んでいく2機。

「雷鳴ィイイイイ!!」

「爆龍ぅうううう!!」

ヴォルライガーの拳を雷が、紫龍の拳を炎が包み込む。

「拳ッッ!!」

「炎拳ッッ!!」

拳を叩きつけられたブロンは爆裂四散する。

続けて1体、また1体と、拳を叩き付け、叩き付け、叩き付ける。

「「オラオラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」

ブロンはその攻撃を、その勢いを押し留める事が出来ない。

次々にその拳の餌食となってスクラップになっていく。

だが、そのままでは終わらない。飛行型ブロンが、ブレイブナイツに向かってグレネードランチャーを放ってくる。

それらを、見事な体捌きで避ける3機。

「陸丸ッ!」

「うんっ!!」

ヴォルライガーが、後方の猛鋼牙に向かって駆け出す。

「でええええええええええええりやああああああああああああっ!!」

猛鋼牙はヴォルライガーの片腕を掴み、そして一気に上空へと放り出した。

ヴォルライガーはライガーブレードを取り出し、それを前へと突き出す。


ドガアァッ!!


ライガーブレードは、1体の飛行型ブロンを貫き、爆散させる。

直後、着地まで身動きが取れないヴォルライガーを狙って、飛行型ブロンが数機、その回りを囲んだ。

だが。

「甘い」


ドドドドッドドドドドドドドドッドドドドドドドドドドドッ!!!!


雨のような無数の水の弾丸が、ブロンを纏めて蜂の巣にする。

「お味はいかがかしら?」

水衣はクスリ、と笑って言った。

「伏せてッ」

陸丸の声に、地面スレスレにまで体を沈めるヴォルライガーと紫龍。

「『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああっ』」

彼らの頭上を、猛鋼牙の槍――砕虎が通り過ぎる。

円を描いたその槍の軌跡上には、多量のブロンの下半身が残る。

彼らの周囲で、爆発が連続して発生した。

「水衣姉ッ!」

「ええ」

紫龍は、胸の前で左掌に右拳を打ちつけ、相反する火と水のマイトを収束させていく。

「「神おおおおおおおおおおうッ!!龍うううううううううううううっ!!拳ええええええええええええええええええええええんっ!!」」

そして、両腕を上空へと突き出し、気弾を放つ。


ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


天を、龍の咆哮が貫く。

気弾は、戦艦のバリアを強かに打つ。大気を震わせ、凄まじいエネルギーのぶつかり合いが数秒続く。

それを制したのは、バリアの方だった。

だが、ただでは終わらない。

弾かれた気弾はその場で炸裂し、戦艦を守るように展開していた飛行型ブロンを数十体、道連れにした。

『ぬぅ…』

唸る紫龍。

「わかっちゃいたが…」

「ちょっとショック」

己の最強奥義を弾かれ、苦笑いの拳火と水衣。

「凹んでる場合か、馬鹿野郎」

「本命は向こうですから、もっともっと派手に行きましょう」

やはりこちらも少々苦笑いの志狼と陸丸。

その周囲を、ブロンが囲み始める。

「…さぁッきやがれッ!」




「…あれが」

「志狼君の仲間…ですか」

眼下に勢ぞろいしたブレイブナイツに、感嘆の息を漏らす小鳥遊一樹と、律子。

戦場を駆け回り、分散させられた勇者達に後退するよう伝え、自身らは更に突き進んでいく。

「志狼君の動きが、今までよりも活き活きしている」

小鳥遊の指摘どおり。今の彼からは、何時ものような、どこか危なげな雰囲気は感じられない。

今までの志狼は、無謀とも言える敵陣突破を繰り返していた。

そして退路を立たれ、袋叩きにあう、というのが常だった。

それでもただでは倒れず、敵の陣形を狂わせる。

そういったことを繰り返しては、律子達をハラハラさせていたものだ。

そう。今までは彼のタフネスのみで保っていたようなものなのだ。

だがこんな事を続けていては、何時かは潰れてしまう。それは誰もが思っていたことだ。

だが、今の彼は。

「『どりゃああッ!!』」

ヴォルライガーの背中を狙うブロンを、猛鋼牙が拳で捻り潰す。

「「『ヒュウウッ!!』」」

その猛鋼牙を狙うブロンを、紫龍の蹴りがなぎ倒す。

「『でりゃああああああああッ!!』」

さらにその紫龍を狙うブロンを、ヴォルライガーの剣が斬裂く。

そして、3機は、更に敵戦艦へと接近していく。

「凄いコンビネーションだ…!」

「互いが未熟であると知っているからこそ、相手に生まれた隙をフォローしようと素早く動ける」

彼らの総合的な師ともいえる、志狼の父、剣十郎がニヤリと笑う。

ブレイブナイツは更に進む。周囲をブロンに囲まれるが、完全無視。

前方の敵に全てを集中し、突破していく。

ビームやミサイルがいくら迫ろうともお構い無し。ひたすら前進を続ける3機。

「一点突破力だけなら、ぴか一だろう。何せ、そう造られた者達だ」

「しかも、まだ完全ではありませんな。何せ、真の殿ともいえる、ブリット殿がここにおられるわけですからな」

「褒めても、何も出ませんよ、剣十郎さん」

それだけ言うと、ブリットは身を翻した。

「さて、俺たちも行くか」

「はいっ!」

「…。ユマ、先に行け、直ぐに追いつく」

「?わかりました」

『遅れるなよ』

ユマとフェンリルは、入り口へと走った。

「フェンリル。貴様は残れ」

「え」

『?了解』

そしてユマだけがブリッジを後にした。

ほどなく、通路を走っていたユマに、ブリットとフェンリルが追いついてきた。

「何を話してたんですか?」

「なんでもない」

ブリットは素っ気無く答える。ユマは眉を寄せ、疑問に思いながらも、走るスピードを上げたブリットに必死になってついていく。

「?それは?」

ブリットは、Bウォッチから虚空に出現したディスプレイ、そこに表示された何かを、高速で読みながら走っていた。

「…」

集中しているのか、あえて答えないのか、ブリットは無言で走り続ける。

(流石ですが…うーん)

ユマは返事が無い事に少しむくれながら、前を見ていないのに全く危なげなく走るブリットに、呆れながらも感心する。

(SEEZA…RIOUS…シーザリアス?)

何かの操作マニュアルと思しきその表題には、そう書かれていた。

まだこちらに着いたばかりなので、それが何であるか、ユマには見当もつかなかった。

マニュアルの内容を読もうとしたが、

「あう」

ブリットのように器用に走れず転びそうになったため、断念する。

そして2人と1機は、通路を駆け抜け、甲板へと飛び出した。

「お待ちしてました」

甲板では、アースパンツァーと、リオーネが待っていた。

「城塞合体とやら、いけるか」

「はいっ」

「一度だけ、それも数分持つかどうか、って感じだがな」

アースパンツァーの言葉に頷くブリット。

「十分だ。一発でカタがつく」

「ハッ!でかい口を利きやがる…!嫌いじゃないぜ、そういうのよっ」

アースパンツァーは親指を立てて、ニカッと笑った。

(あ、笑ってる)

ユマはブリットの表情が、唇の端が、僅かに上がっている事に気が付いた。

「問題は合体に、ちと時間が掛かるかもしれネェってことだ」

先の戦闘で、フルアーマー・ブースターは消耗してしまった。

合体に要するブースターの変形も、時間を要する。

合体を、ブロン等に邪魔される可能性が大きい。

「問題ない。それまで、俺たちが時間を稼ぐ」

「お任せください!」

もっとも、トリニティの目は今、敵陣の真っ只中に発生した猛毒に向けられている。

実は志狼たちの目的は、派手に暴れる事によって、こちらの本命に向けられる目を逸らせる事にあった。

ブリットたちは、こちらに気付き、接近して来た敵を迎撃すればいい。

ブリットは大型の銃…ルシファーマグナムを腰のホルスターから引き抜き、掲げる。

ユマも特殊銃、ウルフガンを引き抜き、カードを一枚、銃にセットする。

「来い、ルシフェル」

「フェンリルッGo!!」

黒い光の柱が2本、立ち上る。

光が飛散すると、そこには漆黒の機体と、巨大化したフェンリルがいた。

「「『堕天合体ッ!!』」」

ブリット、ユマ、フェンリルの掛け声と供に、その2体は合体を開始する。

「「『堕天合体…!!ウォルフルシファー!!ドッキングコンプリートッ!!!』」」

完成した黒き堕天の勇者…ウォルフルシファーは、腰のホルスターから2丁のリボルバーマグナムを取り出す。

「急げ」

「ハイッ!!アースパンツァー!!お願いします!」

「おうよっ!!フルアーマー・ブースターッ!!」

アースパンツァーの叫びに呼応して、フルアーマー・ブースターがその姿を現す。

その艦体に走る無数の傷跡。リオーネは胸の前で、祈るように両手を固く結ぶ。

(後で、しっかり直してあげますからね…だから)

リオーネはアースパンツァーの掌に乗りこむ。

「だから、もう一度だけ、力を貸してください」

「「城塞合体ッ!!」」

船体前部が分離する。

艦橋を含む船体後部が、人型へと変形していく。そのスピードは、アースパンツァーの予測どおり、何時ものそれよりはるかに遅い。

巨大な動かぬ的に気付き、それを撃つ為に、飛行型ブロンが、数機接近してくる。

「ここから先へは…」


ドゥンッッ!!!


「行かせない」

接近してきたブロンが、ウォルフルシファーの銃の前に、全機撃墜される。

「!?なんだ、お前も志狼の仲間か!?」

「貴様らがシャインサイザーと飛鳥だな」

突然コールされたフルアーマー・ブースターに気付き、接近してきたシャインサイザー。

傷だらけの艦体を見て、拳を振るわせる飛鳥。

「何故合体を強行している!!」

「作戦だからだ」

「これが、作戦だと!?」

ゆっくりと、フルアーマー・ブースターが変形を進めていく。

その度に、金属を無理矢理捻じ曲げるような、痛々しい音が響く。

「…」

ブリットは答えない。

そして、銃…エンジェマグナムをシャインサイザーに向ける。

「な」

そして。


ドゥンッ!!


発砲。

「!!」

シャインサイザーは即座にそれを回避する。

「何を…!」

と、突然背後で爆発が起きた。

「!何!?」

そう。

ブリットが撃ったのは、シャインサイザーではなく、その背後に迫っていたブロンだった。

「作戦は、アースパンツァーのままで行なうつもりだった。合体を強行しているのは、あの女と、アースパンツァーの意思だ」

「なんだと…!」

「おかげでこちらも命がけだ…全く、強情で頑固な女が多くて困る」

「むぅ!…なんですか、何か仰りたい事があるのなら、はっきりと言ってください!」

心当たりでもあるのか、ユマが頬を膨らませる。

「何もない」

「むぅうう!」

彼女の頬が、更に一回り膨らんだ。

「そういうわけだ…引っ込んでいろ。邪魔をするなら、今度は貴様を撃ち抜く」

「ち…ッ!」

「邪魔をしないから、手伝わせてくれよ」

「ほう?」

そう言って現れたのは、雫の乗るバーンレイバーと、

「仲良くしなきゃ、ダメだよ!あーちゃん!」

「ほのか」

ほのかの乗る、シャドウワイズマンだ。

「リオーネは俺達の家族だ」

「リオーネががんばってるんだもん!私たちも、一緒に守る!」

「…よかろう。では早速だが手伝ってもらう」

こちらに本格的に目をつけたのか、数十機の高速飛行型ブロンが接近してくる。

「任せろ!バーンレイバー!!」

「おう!!」

バーンレイバーは、バーニングランサーを構え、ブロンに向かっていく。

「シャドウワイズマンさん!」

「承知!はあああああっ!!」

真シャドウセイバーを構え、シャドウワイズマンがその後に続く。

だが。

「くっ、相変わらず素早い!」

バーンレイバーは、そのスピードに翻弄されている。

シャドウワイズマンがそのフォローに回るが、

「くっ…!」

体中の痛みがそれを許さない。ブロンの攻撃に対応しきれず、その体に新たな傷を作っていく。

数機をバーンレイバーとシャドウワイズマンの回りに残し、その残りが、ウォルフルシファーに迫る。

「フン」

ブリットは、左手のエンジェマグナムを腰のホルスターに納め、その掌に無属性マイトを収束していく。

「スピードが速いだけで、俺に勝てると思うな」

生み出されたのは、一本のビームソード。

ブロンは、スピードを緩めず、グレネードランチャーを乱射しつつ迫る。

ウォルフルシファーは、ボディ各所のスラスターを吹かし、それらを最小限の動きで回避する。

ふいに、一機のブロンがその横を通り過ぎる。

「突破された!?」

シャインサイザーは愛銃をブロンに向かって構える。

が。

ブロンは、シャインサイザーの眼前で、爆裂四散する。

「!?まさか、アイツ…!?」

「斬りつけたのだ。あの一瞬で…」

「本当か!?シャインサイザー!」

「いや、その表現が適切かどうか。…奴は」

ブロンが自らの横を通過する、その一瞬、その進行方向上に、ビームソードの切っ先をおいた。ただそれだけ。

「後は、自身のスピードで、ブロンは真っ二つだ」

「…!相手の動きを予知でもしているっていうのか…!?」

「案外、その通りかもしれん」

驚愕の視線のその先で、次々にブロンがウォルフルシファーの横を通り過る。

ブロンが1機、また1機と真っ二つに裂け、爆発していく。

吸い込まれるように、ウォルフルシファーの横を、上を、下をブロンが通過していく。

正確には、そう見えるだけ。実際には、ウォルフルシファーが、ブロンの進路上に予め待機しているのだ。

「派手さはないが…」

ちらりと、眼下のブレイブナイツに視線を落すシャインサイザー。

「この男、恐らく連中の中で最強だ」

不意に、バーンレイバーを取り囲んでいたブロンが数機、フルアーマー・ブースターへ向かって飛んだ。

「何!?」

『くそ!待てッ!!』

慌ててバーニングキャノンを発射するバーンレイバーだったが、ブロンには当らない。

「行かせん、と言った筈だ」

と、突然。

外れたはずのバーニングキャノンが『何か』に当り、反射するように軌道が反れると、ブロンの背中に直撃、爆発炎上させる。

「な、何だ!?バーニングキャノンが曲がった!?」

「鏡面の牙」

その爆散したブロンの背後に、力場の壁のようなものを見る化身たち。

「今の、貴様が…!?」

シャインサイザーの問いかけに頷くウォルフルシファー。

「早撃ちは得意か」

「何…?」

「狙いは正確でなくともいい。早撃ちは得意かと聞いている」

「…なるほど」

シャインサイザーは、先程のバーニングキャノンを屈折させた技と質問内容で、この男が何を言いたいのか、何をするつもりなのかを理解した。

「俺の早撃ちは、光より速い」

「面白い、見せてみろ」

シャインサイザーは、2丁のシャイニングショットを構えた。

「行くぞ飛鳥!!」

「おう!!思いっきり行けっ!!」

「シャイニングショット・バーストッ!!」


シュオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッッッッ!!!!


数十の光弾が連続して放たれる。

「ちぃ…!」

シャインサイザーが苛立たしそうに舌打ちする。

何時もならば全機撃墜も不可能ではないこの技が、体に走る痛みのせいで、狙いが僅かずつ反れている。このままでは当らない。

だが。


パパパパパパパパパシュゥッ!!


先程のバーニングキャノンと同じく、放たれた無数の光弾が何かに弾かれたように屈折し、ブロンの胸部を正確に貫いていく。


ドドドドドドドドドドゴォオオオッ!!!!


爆発が、あたりを包む。

「…すげぇ」

どうやら、迫ってきていたブロンを全て撃墜する事ができたようだ。

雫とほのかは、ポカンと口を開けたまま、呆然とそれを見ていた。

「どうということはない」

「え?」

「量産を優先させたせいで、行動パターンが単純になってしまったようだな。予測が容易い」

ブリットはつまらなそうに呟くと、フルアーマー・ブースターを見やる。

「さて、そろそろだな」

先に分離した船体前部が背中に装着される。

アースパンツァーは、戦車形態に変形し、背中からボディへと連結する。

「城塞合体っ!! アースフォートレスッ!!!」

「さぁ、次の一手でチェックメイトだ」

「おうッ!!」

アースフォートレスは、巨大な砲…メガアースバスターを取り出す。

同時に、ウォルフルシファーは、徐々に徐々に出力を上げていく。

「エネルギー充填開始!!」

「マイトエンジン・マイトアンプ、出力最大ッ!!」

リオーネとユマが、コンソールを操作する。

メガアースバスターの砲口に、そして、ウォルフルシファーの両腕に、光が収束されていく。

「何をするかわからんが、それが決め手なら、奴らが気付かぬはずは無い。何が何でも阻止しに来るぞ」

「問題ない」

シャインサイザーに、ブリットは淡々と答える。

「奴らは必要最小限の邪魔しかしてこない。何故か?」

それは。

「奴らは戦艦のバリアに絶対の自信を持っているからだ」

先程のアースバスターに始まり、紫龍の奥義・神龍拳を弾いた事で、いよいよそのバリアを破れるものがいないと、向こうは確信を持っているに違いない。

「まさか、その油断を生ませる為に…!?」

あえて、紫龍に神龍拳を出させるよう、指示したのだろう。

「もしや、貴様が派手に動いていなかったのも…」

「俺がマークされない為だ」

メガーアースバスターの砲口の光が、最大限に高まった。

「いっけええええええええええええええええええええッ!!!」


シュオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッッッッ!!!!


凄まじいエネルギーの奔流が、放たれる。

「おい!志狼たちに退避勧告したのかよ!」

「い、いっしょにどかん!?」

「問題ない」

雫とほのかの言葉に、

「俺は狙いを外さない」

ブリットは答えた。

そして、力を解放する。

「鏡面の牙ッ!!プラスッ!!」

円錐型の巨大な力場が、メガアースバスターの進行進路上に出現する。

「螺旋の牙ッッ!!!」

そして、その円錐状の力場が、回転を始める。


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


口の広い円側から、メガアースバスターが、すっぽりと収まっていく。

「ぐうううううううううううううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああッッ!!!」

ブリットの両腕から鮮血が飛び散り、同時にウォルフルシファーの両腕が小爆発し、火花を散らす。

極大エネルギーを支える為に、ブリットとウォルフルシファーは死力を尽くしてマイトを高める。

そして。


チュゥンッ!!


反対側。円の狭い方向から放たれたのは、極小圧縮された、超エネルギー。

それは容易く敵戦艦をバリアごと貫き、そして。


ドゴオオオオオオオオオオッ!!


敵戦艦は、大爆発を起こした。

「や、やったあああああああああああああああああああ!!!」

それに連動して、全てのブロンがその活動を停止していく。

どうやら、全てのブロンの動きは、あの戦艦が制御していたらしい。

戦場の勇者達は、歓声を上げた。

「螺旋回転で、指向性を持たせたのか」

シャインサイザーは一連の動作の分析をした。

鏡面の牙を設置したのは、メガアースバスターのエネルギーを収束して撃ち出すのが目的だった。

だが、それだけではメガアースバスターのエネルギーが暴発し、その場で爆発、下手をすれば逆流してきてしまう可能性があった。

そこでブリットは、鏡面の牙と呼ばれるバリアに、螺旋回転をかけた。

それにより、エネルギーに流れを作り、狙い通りの方向へとエネルギーを押し出す事に成功した。

だが、それにはどれほどの力と、そのコントロール技術が必要なのか。

「少なくとも、一度、メガアースバスターを受け止められるだけの強度が必要だ…」

そして、エネルギーを狙い通りの方向へと導く、螺旋回転。

メガアースバスターを巻き込めるほどの、超回転。

それも、バーニングキャノンや、シャイニングショットといった、属性を違えてもなお反射させるほどの柔軟なマイトが必要なのだろう。

「…見事、という他あるまい」

戦艦は小爆発を繰り返し、地に向かって堕ちていく。

が、それと同時に。

「ぐが、ああ」

「あ、アースフォートレス!」

アースフォートレスが、全身で小爆発を起こし、膝をついた。

「強制分離!急いでください!!」

「リオーネ!?」

シャインサイザーが慌ててブリッジに近付いた。

「リオーネさん!?きゃぁ!?」

そして、ウォルフルシファーも無事ではすまなかった。

両腕から紫電を放ち始める。

「フェンリル!」

『了解!両腕強制パージ!強制合体解除!!』

「え!?」

ブリットの叫びと供に、ウォルフルシファーの両腕が切り離される。

同時に、胸部からルシファーが分離する。

「ブリットさん!?何を!!」

次の瞬間。ウォルフルシファーの両腕と、そしてルシファーが爆発した。

「ブリットさああああああああああああん!?」

愕然とするユマ。

(何故…!)

何故、こうなると考えなかったのだ。自分は。

命がけとは、こういうことだったのだ。

あれほどの力を振り絞ったのだ。負荷が掛からないはずはない。

では、その負荷は、真っ先にどこに現れるのか。

(ルシファーだ…っ)

ご先祖様が残した、このフェンリルならば、力を集中した腕はともかく、本体はなんとかあの負荷をギリギリ持ちこたえられる。

負荷に耐え切れず、自壊する箇所。それは、自らが作り出した、ルシファー。

「…フェンリルッ!!」

そして、シートに拳を打ちつけた。

「あなた、ブリットさんと予めこうすることを…ッ!!!」

『打ち合わせしていた』

涙が、頬を伝い、流れた。

「何故ッ!!何故黙っていたのですかッ!!こんな…こんな…ッ!!」

『お前が分離を渋ったら、間に合わないと思ったからな』

「へ」

突然の通信。その声に、一瞬間抜けな声が出てしまった。

通信で聞こえた声は、間違いなく…ブリットの声だった。

「ぶ、ブリットさん!?」

ユマの声が裏返った。

「フェンリル」

『…あそこだ』

虚空に、地面の拡大映像が映し出される。

そこには、ボロボロになったルシフェルの上にふてぶてしく座り込んだブリットがいた。

ルシフェルがアレだけボロボロなのに、怪我らしい怪我を負っていない。

一体どんな手法を使ったのやら、まるで見当がつかないが。

『すまん。ルシフェルがボロボロになってしまった。だが、俺もお前も助かる最善の方法だった』

「…っ!!」

一言も相談無しで、突然あんなことをするなんて。

「ふむ…久々に死にかけたな」

しかも、あれだけ心配させておいて、なんとも悪びれのない表情と発言だ。

(後で絶っ対張り倒す…っ)

プルプル震えながら、ユマは心に誓った。

「!」

そしてハッとなった。

「ブリットさん、腕…!」

『処置は済んでいる。問題ない』

モニター内のブリットはしれっと答える。確かに、彼の腕には包帯が巻かれている。

流石というべきか。

『それよりも、リオーネは無事か』

「あ!」

慌ててアースフォートレスを見やるユマ。

「俺たちなら無事だ」

「アースパンツァー!」

傍らに、アースパンツァーを抱えたバーンレイバーとシャインサイザーが降り立った。

「何とかなったな…」

「ああ。どうなる事かとヒヤヒヤしたが」

バーンレイバーとシャインサイザーが苦笑した。

と、彼らの傍に、ヴォルライガー、猛鋼牙、紫龍が集まる。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

何か言おうとしているようだが、呼吸が整わない。

「いいから。喋らなくていいから」

雫が苦笑して言った。実際、あの場に展開していたブロンの9割近くが彼らに集中攻撃を仕掛けていたのだから、疲れるのも当然といえる。

それどころか、生き残っている事自体、大殊勲ものだ。

「ユマ。リオーネ。お前達は先にラストガーディアンに戻れ。力尽きた勇者達の回収は俺達がやる」

「了解しました」

「あの、フルアーマー・ブースターは」

「後で構わん。行け」

ブリットの言葉にユマは頷く。確かに前腕が両方とも破損した状態では勇者達の回収は出来ないだろう。ここに長く留まっていても無意味と言える。

アースパンツァーをスピリットリングに返還するリオーネ。同時にフェンリルから降り、そのサイズを通常のものへと戻すユマ。

2人はシャドウワイズマンの腕に乗り、ラストガーディアンへと一足先に向かった。

「…おい、お前達」

ブリットの声に顔を向けるバーンレイバーとシャインサイザー。

「残念ながら、まだ終わりではない」

「「!?」」

驚愕の表情となるその場の全員。

「な、なんだ、どういうことだ!」

「仕留めた、と思ったのだが…」

苦々しげに、戦艦が堕ちた地点を睨みつけるブリット。

自分は、アースパンツァーのアースバスターでケリをつけるつもりだった。

アースフォートレスのメガアースバスターでは威力過剰だと思っていた。

『アレ』を、十分撃破できると思っていたのだが。

「まさか受けきるとは…な」

突然。戦艦の残骸から、一本の腕が突き出した。


<NEXT>


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