「!?」

続いて、肩、頭、体が顕になる。

ブロンとは似ても似つかない、鋭角的なフォルムの、黒いロボット。

腕と腹部にある、大きな球状のクリスタルが印象的だった。

「こいつの出現を予期して…ユマとリオーネをラストガーディアンに戻したのか」

「…」

飛鳥の言葉に、ブリットは何も答えない。だが、その厳しい表情から、そうだ、と読み取れる。

『まさか…ここまでやるとは思わなかったぞ』

ゆっくりと、ブリットを指差す黒いロボット。

『貴様だ…貴様に全てを狂わされた』

反射的に、庇うようにブリットの前に出るバーンレイバーとシャインサイザー。

「こちらも驚かせてもらった…まさかアレを弾かれるとは正直思っていなかった」

ブリットは立ち上がり、軽くズボンについた埃を払う。

『我が存在を予期していたか』

「おざなりだったが、あのブロンとやらは状況によって作戦行動をとっていた。貴様のような指揮官がいると踏んでいた」

『が、撃破には及ばなかったようだな』

「これから、撃破してやる」

『ほう…ふふ、見たところ、貴様の勇者は戦闘不能のようだが?』

一歩、ブリットに向かって進み出る黒いロボット。

「何も用意してないわけじゃない」


ボフッ


「?アレは…」

物音に気付き、上空を見るバーンレイバー。

上空から、パラシュートで降下してくる物体が見える。

「…シーザリアス!?」

シャインサイザーは記憶の中にある機体の名を叫んだ。

それはパラシュートを切り離すと、土ぼこりを上げて着地した。

「量産機で何をするつもりだ!」

「戦う」

シャインサイザーにそう答え、歩き始めるブリット。

ブリットは膝立ちの状態で待機しているシーザリアスに近付き、まるで熟練者ような手馴れた動きでコクピットまでよじ登り、中へと入っていく。

スイッチ、レバーを入れ、機体を立ち上げる。

「システムオールグリーン。シーザリアス、起動」

瞳に光が宿り、シーザリアスがゆっくりと立ち上がった。

『ブリットさん、いきなり実戦ですが、大丈夫ですか』

ディスプレイに、奥津継志の顔が映る。その右手には痛々しく包帯が巻かれている。

怪我が原因の出撃停止を受け、歯痒い思いをしている事だろう。

「問題ない。マニュアルは全て記憶した。それに…以前は量産機に乗っていた」

装備を再確認する。

右手にビームライフル。左手にシールド。

腕部に収まっているビームサーベル、バックパックにビームキャノン、脚部にミサイル…

頭部にバルカン。胸部にマシンガン。

追加で、各所に姿勢制御スラスターを増設してもらった。

「基本は変わらない。やれる」

シーザリアスの左腕を、振り上げさせる。

そして、シールドを黒いロボットに向かって、思いっきり投げつける。

「!!」

黒いロボットはそれを拳で軽々と粉砕する。

『やけくそか?どれほどやれるか、楽しみにしていたのだが、拍子抜けだ』

「期待に沿えるよう、死力を尽くそう」

『何ッ!?』

黒いロボットの目の前に、ライフルを構えたシーザリアスが急接近していた。

シールドを囮にして、懐にもぐりこんだのだ。

『ほ、本当に初めて乗ったの…!?』

ブリットはシーザリアスに搭載されているサブオートシステムを使用していない。

にも拘らず、まるで自らの愛機のように完璧に乗りこなしていた。

「俺はこの世界についてから、まだ間もない」

『だよね…』

通信ディスプレイ上で、継志が目を丸くしている。

『猪口才なッ』

繰り出された右の裏拳を余裕でかわし、ビームライフルを発射するシーザリアス。

だが、その堅牢な装甲の前に弾かれる。

『その程度の威力で我の装甲は貫けぬッ!!』

「だろうな」

『こいつっ』

再び振り下ろされる拳。

シーザリアスはそれをバックステップでかわし、ジャンプ。

「イレイザーよりも反応がいいな」

拳に着地すると再度ジャンプ。スラスターをふかし、黒いロボットの真上へと飛びあがる。

「くらえ」

そして、頭部のバルカンと胸部のマシンガンを一斉に発射する。

『ぬぅっ』

ばら撒かれた弾丸は黒いロボットと供に地面を撃ち、盛大に砂埃を立ち上らせる。

『効かぬと言っているッ!!』

黒いロボットが腕を一閃すると、砂埃は吹き飛んだ。

そのボディには傷1つついていない。

だが、ブリットの狙いは別にあった。

「油断」

『!?』

黒いロボットの正面にヴォルライガー、猛鋼牙が、背後には紫龍が、拳を振り上げ、囲んでいた。


ドガシャアアッ!!


3つの拳が、同時に黒いロボットの頭部を捉える。

「あ、あいつら…」

バーンレイバーの宝珠の中から、雫は回りを見渡すが、そこには息を切らせてバテていたはずのブレイブナイツの姿は無かった。

「何てスタミナしてやがる」

改めて拳を炸裂させた3機を見る雫。

が。

『温いッ!!』

黒いロボットはヴォルライガー、猛鋼牙を拳で弾き飛ばした。

一瞬でバーンレイバー達の目の前に出現し、それらを体を張って止める紫龍。

「「まだまだぁッッ!!」」

紫龍の腕から離れ、構えるヴォルライガー、猛鋼牙。

「援護しろッ」

ビームサーベルを構え、黒いロボットへ突撃するシーザリアス。

「爆裂雷孔弾ッ!!」

「爆龍炎気弾ッッ!!」

雨のようなマイトの弾丸が、黒いロボットへと殺到する。

が、それらも全てその装甲の前に弾かれる。

『無駄だッ』

黒いロボットは拳を前に突き出すと、そこからエネルギーの塊を発射した。

シーザリアスは直撃の瞬間、紙一重でヒラリと回避。急接近すると、ビームサーベルを振りぬいた。

『ちぃッ』

だが、装甲に触れるか触れないかの距離で、ビームサーベルが弾かれた。

「…っ」

(…なるほど)

自らを狙うエネルギーを跳躍して回避すると、ヴォルライガー達の近くに着地、合流するシーザリアス。

「どうだ、攻略法はあるのか?」

「正直、難しい」

問う志狼に、ブリットは軽く息を吐いて答えた。

「装甲そのものが、エネルギーを拡散させる物質で出来ているようだ」

「つまり…エネルギー系の技は効かないって事?」

砕虎を油断無く構える陸丸。

「さっきの『アレ』が弾かれちまったんだ…そういうことだろ」

拳火は肩をヒョイと竦ませて言った。

「つまりは、剣やら拳で斬ったり、砕いたりするしかねえってことか」

「そうとも限らないわ」

「?どういうこった、水衣姉」

「…彼の意見を最後まで聞けば、わかるわ」

水衣はブリットに話を促した。

「…あの手の敵を撃破するには、方法は1つ」

ピッ、と器用にシーザリアスの人差し指を立たせるブリット。

「過負荷をかける」

「えーと、つまり?」

「…馬鹿」

首を捻る拳火に、水衣がボソリと呟いた。

「つまり…あの装甲が耐え切れなくなるまで、攻撃をかけるってこと。エネルギー系だろうが、拳だろうが、方法はどうでも構わない」

「なぁんだ、楽勝じゃねぇかっ」

拳を握り締めて不敵に笑う拳火。対して水衣は苦笑い。

「本当にそう思う?」

「あん?」

「今さっき、あなたが言った事じゃない。『アレを弾かれた』ってね」

「…あ」

アレ。

先程の、アースフォートレスと、ブリットの捨て身の合体技。

神龍拳を弾いたあのバリアを、いとも簡単に貫いたあの合体技。

アレを越える破壊力をもつ武器や必殺技を、果たしてこのメンバーで作り出せるかどうか。

「不可能に近い、ってことか」

「だから難しい、と言った」

陸丸の言葉に頷くブリット。

「関係ねぇ」

ライガーブレードが、地面を軽く抉る。

「ぶった斬る」

志狼の言葉に、ブレイブナイツは苦笑し、そしてその笑みを、不敵なものへと変化させる。

「言うと思った」

「右に同じく」

拳火と水衣は構える。

「あーあ。結局力押しかぁ」

「貴様の得意分野だろう、陸丸」

「へへっ、まぁね」

頷きあう陸丸とブリット。

「雷墜牙を仕掛ける…!時間稼ぎ宜しく」

ライガーブレードを正眼に構え、目を瞑る志狼。

「OK!」

「わかったわ」

「任せてよ!」

「了解」

『話は纏まったか』

構えるブレイブナイツに、つまらなそうに黒いロボットが言った。

「待たせたな」

『構わんさ』

黒いロボットは掌をブレイブナイツに向かって伸ばした。

『どうせ、もう直ぐ貴様らは死ぬ』


ドンッ!!


黒いロボットがエネルギー弾を放ったのと同時に、紫龍、猛鋼牙、そしてシーザリアスは散開して飛び出した。

「『大ッ!!閃・光・弓ッッ!!』」

猛鋼牙が、強大なエネルギーを放つ。

だがそれすらも黒いロボットの前には無力だった。

直撃のはずが、直前でエネルギーが四散していく。

怯まず、続いて飛び出したのは紫龍。

「「はあああああああああああああああああああああああっ」」

炎の拳と、水の掌底のラッシュ。だが、黒いロボットはその場から微動だにしない。

「くっ!」

黒いロボットの放ったエネルギー弾を回避する紫龍。その後方からシーザリアスが飛び出した。

「フルブラストっ!ファイアッッ!!」

ビームライフル、バルカン、マシンガン、ミサイル、ビームキャノン。

ありったけの火器を発射するシーザリアス。爆炎が黒いロボットを覆い尽くす。

だが。

爆炎の中から、無傷の黒い腕が飛び出してくる。

「ちぃッ!」

シーザリアスは間一髪それを避け、後退する。

『ククク…必死だな…!だが貴様の攻撃など蚊程も効かぬわ』

「ふん…!時間さえ稼げればそれでいい」

ビームライフルを乱射しつつ更に後退、紫龍、猛鋼牙と合流するシーザリアス。

「決めは…こいつだ」

3機の後方で、全身のマイトを極限まで高めるヴォルライガーの姿。

『ふ…』

必死になって、よくもやる。

確かに、後方に控えた緑色の勇者は、大したエネルギーを発している。

だが、それをあえて受ける必要もない。

『準備が整った』

「…!準備?」

黒いロボットの言葉の直後、ブリットが硬直した。

「高エネルギー反応…!!これは…ま、まずい!!」

黒いロボットの体内に、極大エネルギーが収束しているのが計測された。

エネルギーの発生点は、両腕と腹部の、球状のクリスタル。

「全機退避しろッッ!!」

『もう、遅い』

クリスタルが眩い光を放ち始める。

次の瞬間、勇者達を光が包み込んだ。

「うわああああああああああああっ!!!??」

絶対的で、絶望的な力が、黒いロボットを中心に広がっていく。

光は、ラストガーディアン近くにまで及び、それを守護していた勇者達をも飲み込んだ。

「うわあああああああああああああああああ!!」

「ぐっおおおおおおおおおおおおおおおお」

フラッシュブレイカーを、ウルフブレイカーを、バーンレイバーを、シャインサイザーを。

「くっ!!こいつはまずいッッ!!」

クロスフウガを、飲み込んでいく。

閃光が周囲を支配する。




「く…っ!!」

あまりの光に、ラストガーディアンのブリッジにいた律子達は目を瞑った。

「な…」

そして目を開けた全員が、息を呑んだ。

例の黒いロボットを中心に、巨大なクレーターが形成されていた。

「一瞬で…全滅…!?」

クレーター周辺に、黒いロボット以外には、何も見当たらない。

フルアーマー・ブースターの、痛々しい残骸以外は。

『カケラも残さず消し飛んだか』

あたりを見渡し、満足げに黒いロボットが言った。

「何が起きたと言うの…!?」


ガンッ!!


律子は言葉と同時に、エリクがコンソールに拳を叩きつけた。

「…やられた…!奴の装甲は、エネルギーを拡散させていたわけじゃなかったんだ…!!」

「どういうことだ、エリク」

剣十郎の問いに、エリクは拳を振るわせながら答える。

「奴は…攻撃エネルギーを体内に蓄積させていたんだ…!拳による衝撃、エネルギー系武器による攻撃…その全てを!」

つまり。

「勇者達が強力な攻撃を繰り出す度に、あの攻撃の威力を跳ね上げる結果になっていた」

小鳥遊の言葉に頷くエリク。

アースフォートレスとウォルフルシファーの合体攻撃に始まり、ブレイブナイツの度重なる攻撃によって、あの黒いロボットは途方も無いエネルギーを充填していた事になる。

『どうだ、自らの力で滅んだ感想は…おっと、返答できる者も、もういない、か。くっくっくっく…はっはっはっはっはッ!!』

黒いロボットはひとしきり笑うと、ラストガーディアンに視線を向けた。

『貴様らを守る勇者はもはや、ただの1人も残っていない。終わりだな…ここで長きに渡る戦いに決着をつけてやる』

ゆっくりと、ラストガーディアンに向かって歩み寄る黒いロボット。

その足取りはゆっくりで、余裕に満ちている。

それもそのはず。

既に…

『チェックメイトだ』

出撃できる勇者はおらず、援軍も無い。

反撃の気力を失い、ラストガーディアン艦内は、絶望に心を支配された。

「くそッ…!」

「ここまできて…こんな形で終わりか…ッ!!!」

死を覚悟するラストガーディアンメンバー。

が。

「まだ、王手には数手早いな」

「!」

剣十郎の言葉に、僅かに顔を上げるエリク。

「け、剣十郎…?」

「エリク…風を感じないのか」

「…!?」

「反撃の風が、吹いているぞ」


ズボォッ!!


突然、地面から、クレーターから、一本の腕が突き出し、黒いロボットの足を掴んだ。

『な、あ!?』

緑色の腕。手甲の様に腕を覆う爪。

『は、離せッ!!このッ!!』

足を思い切り振り上げ、掴んでいた腕を無理矢理引き剥がすと、後方へと飛び退る黒いロボット。

例の腕は…

『ば、ばかな…!?』

腕が、徐々に上昇する。いや、その付け根…肩、体と徐々に徐々に地面から這い上がってくる。

「吼えろ、ライガード…」

胸の獅子が、低く唸る。

「あのクソ野郎に教えてやれ…!俺たちは…!まだ!!まだ戦えるってなぁッッ!!!!」

ガアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!!

『…ッッ!!』

ヴォルライガーの、志狼の気迫に押され、黒いロボットは後ずさる。

(馬鹿な…!!な、何故…何故生きている!?あの爆発の中心地にいて…何故!?)

黒いロボットの動揺は止まらない。


ズボッ!!


『な!?』

続けて地面から、腕が一本、二本と生えてきたからだ。

茶色、紅、蒼。例の量産機。数は更に増える。

「まだ、いけるっ!」

「…ちっ!」

フラッシュブレイカーや、ウルフブレイカーまでも、土中から姿を現す。

「ふぅ…!!間一髪だったぜ…!!」

「助かったぜ…!陽平!」

ヴォルライガーの隣に、土中からクロスフウガが現れ、並んだ。

「土遁、蟻地獄ってね…本来は敵を土ン中に生き埋めにする忍術だけど」




「…!!生きてる!?」

「艦長!ラストガーディアン艦外に展開していた勇者達の反応を全て確認しました!!」

「文字通り、生き埋めにしてくれたのね…!」

あの閃光が発生するその瞬間、とっさにクロスフウガが広域にわたって展開した蟻地獄によって、勇者達は砂に変化した土の中奥深くに身を潜める形で事なきを得た、というわけだ。




『助かった…!ありがとう、クロスフウガ』

「おかげでまだ…また戦えるッ!」

ライガーブレードを構えるヴォルライガー。

だが、当の陽平の表情は苦い。

(何言ってやがる…!もう戦う力なんざいくらも残ってねぇくせしやがって…!)

蟻地獄によって死を免れたとはいえ、爆心地のほぼ中央にいたヴォルライガーを初めとするブレイブナイツのダメージは計り知れない。

ヴォルライガーや猛鋼牙は、装甲のあちこちがひしゃげ、砕け、ボロボロになっている。

紫龍に至っては、合体を維持できなくなったのか、紅麗と蒼月の2体に分離してしまっている。

それだけではない。

(ダメージの酷かった機体は今でも土の中…!このまま放っておいたら、間違いなく死んじまう…!!)

『陽平…我々も他人事ではないぞ』

「クロスフウガ…!」

クロスフウガの言う通り。陽平自身も、広域にわたって忍術を使った為に体力をほとんど残していなかった。立っているだけでも辛い。

全滅の危機が、先延ばしになっただけとも取れるこの状況。

どう足掻いても勝てる戦ではなくなってしまった…

「はぁぁぁぁぁぁあ」

「!お、おい!?」

だというのに、目の前の志狼は、再びマイトを高め始めた。

「雷墜牙は一撃必殺の剣だって、お前、前に言ってたじゃねえか!!一発撃ったら、ロクに動けねえ!マイトは空っぽになっちまうってよ!!」

事実。

「お前!!マイトが発動してねえじゃねぇか!!!」

正眼に構えた剣や、体からは少しのマイトも発生していない。

紫電すら。

『くっ!くっくっくっく…!!』

突然、黒いロボットが笑い始める。

『驚かせてくれる…!だが戦う力がロクに残っていない状態で、何故立ち上がった?』

『愚問だな…!!』

「寝てたら、てめえを斬れねぇだろうがッッ!!」


パチッ


「!!」

ヴォルライガーの体の周りで、一瞬、何かが弾けた。

「出ろ…出ろ…!出ろ…!!出ろ…ぉッ!!」


パチッ!ピシッ!!パシシッ!!


「見間違いじゃない…!」

徐々に、徐々に、ヴォルライガーの体の周りで弾けていた何かが、はっきりと見えるようになってきた。

「出た…!雷のマイト!」

「う…ッくッ!!出ろ、出ろ!!出ろッ!!!出ろおおおおおおおおおおおッッ!!!」

『な…!!』

徐々に徐々に、強くなるエネルギー反応に、黒いロボットは再び狼狽する。

とても自分のシステムを凌駕するエネルギーではない。

あの程度のエネルギー、叩き込まれた時点で全てを吸収できる。

それを全て返して、それで終わりのはずだ。

だが。

「10秒前の…1秒前の自分を越える…ッ!!止まってられるかッ!!もっと前にッ上にッ!!俺は…俺はもっともっと強くなるッ!!!」

(何故だ…何故こうも焦る!?)

黒いロボットは、自身でも理解できない感情に、更に焦りを覚える。

「やっぱり、こんなところで諦めてられないよね…!!」

『陸丸ッ!!』

「うんッ!!」

土のマイトが、猛鋼牙を包み込む。こちらも徐々に徐々にマイトが高まっていく。

「来たばっかで寝こけてられるかってんだ!行くぜ紅麗!!」

『ああ!』

「蒼月…!」

『皆まで言わない!いい女ってのは、苦境も笑って乗り越えるもんだ!』

「同感…!」

紅麗、蒼月も、合体できないまでも、その戦意は少しも損なわれていない。

「…」

ブリットは、黙々とシーザリアスの状態をチェックしていた。

左腕損傷、反応なし。右脚部損傷、反応なし。各部スラスター…

「奇跡的に、損傷軽微…」

ギラリ、と視線が鋭くなるブリット。

「まだ、やれるな、シーザリアス」

それに答えるかのように、シーザリアスのエンジンが、低く唸りを上げた。




「ははっ!諦めてない…全然諦めてませんよ!志狼君たち!」

エリクは顔に手を当てて笑った。

「あの未熟者たちが、他の勇者に与えられるものは…」

剣十郎は開いた左手を胸の前に突き出す。

「力でも」

続いて右手を。

「経験でもない」

そして両手を、硬く握り締める。

「勢い。果てぬ闘志による、勝利の風を呼ぶ」




「付き合うぜ、志狼…!!」

「!雫か」

ヴォルライガーの隣に、揺らめく炎を纏ったバーンレイバーが並んだ。

「テメェらも無事だったか」

「俺は…俺は自分への無力感でぶち切れそうだ…!」

『…何があった、バーンレイバー』

『あの瞬間、とっさに兄上が、我々をフルアーマー・ブースターの陰へと蹴り入れた』

『…!』

おかげで、バーンレイバーは無傷とはいかないまでも、あの爆発を逃れる事に成功したのだろう。

だが、そのシャインサイザーは…

バーンレイバーは、バーニングランサーを構える。

「『必ず…奴を倒すッ!!』」

バーンレイバーを覆う炎が、より勢いを増した。

「聞け」

ブリットがシーザリアスを立たせながら言う。

「戦法に変更なし。奴に過負荷をかける」

「だけど…」

陽平は言葉を濁した。

それだけの攻撃を、どう繰り出すか。それが問題だ。

「できる、できないじゃない。ここまできたら、やるか、やらないかだ。違うか」

「ああ、そうだ」

こんなところで、終わってたまるか。

「やってやるッッ!!!」

ブリットの言葉に、全員が頷いた。

「一番可能性があるとすれば、やはりアレだろう」

ブリットの言葉と同時に、ヴォルライガーとバーンレイバーに視線が集中した。

「雷墜牙…と、隣のアレだ。恐らくこの状況的には、最も効果を期待できる攻撃だ」

全員が頷く。全マイトを剣に込め、叩き付ける雷墜牙。

マイトではないが、同じく全エネルギーを剣に集中させて一刀両断するバーンレイバーの必殺剣…バーニング・フィニッシュ。

シンプルだが、それゆえに強力無比なあの攻撃を持ってすれば、斬れぬものなど存在しない。

そして徐々にだが、しかし、確実にその力が高まってきている。

「そこで、我々の動きだが」

ブリットは黒いロボットへ視線を移す。

「連中の攻撃を確実に有効打にするために…あのクリスタルを破壊する」

『ほう…!』

黒いロボットは嘲笑した。

『目の付け所は流石だな…そう、このクリスタルが、貴様らの攻撃エネルギーを蓄えている』

「いいのかよ…!遠慮なくぶち壊すぜ…?!」

拳火の言葉に、黒いロボットは左腕を…クリスタルを突き出しながら言った。

『やれるものなら、やってみるがいい』

「…野郎ッ」

『我らの戦艦を撃墜したあの攻撃ですら、私を撃破するに至らなかったのだぞ?大したエネルギーも残っていない貴様らが、どうやってこれを破壊するというのだ』

「できるさ」

『!』

ブリットの言葉に、黒いロボットは動きを止めた。

「我々のあの攻撃によって…お前は、撃破できないまでもダメージを負った。…違うか」

『…!』

ブリットの言葉に、黒いロボットは何も答えなかった。

それは即ち、肯定を意味している。

「冷静に考えた。俺が何故、貴様を葬ったと、一瞬でも錯覚したのか」

ブリットの視線が鋭さを増す。

「メガアースバスターが、真後ろに、反れることなく突き抜けていたからだ」

「…!それって…」

水衣に向かって頷くブリット。

「俺は、あの戦艦のメインエンジンごと、奴を貫いた。エネルギーは反れることなく後ろに突き抜けたために、エネルギーは間違いなく奴を貫いたと思っていたが…」

ブリットはシーザリアスを操作し、手の甲を皆に見せた。

「奴は、いずれかのクリスタルであの攻撃を受け、吸収しようと試みた。だが、実際には圧縮エネルギーを許容する事は敵わず、結果、エネルギーは勢いを失うことなく突き抜けた。つまり…」

シーザリアスの指が、黒いロボットの、手の甲のクリスタルを指差す。

「奴のクリスタルは…いずれかが破損している。俺の予測では両腕のどちらか」

『…!!』

ブリットの指摘に、明らかに動揺している黒いロボット。だが。

(問題は、どちらの腕を狙うか)

常套手段として、弱点を先に狙うのが得策。右の腕か、左の腕か。

蓄えるエネルギータンクが少なくなれば、それだけ自分達の攻撃も有効になるというものだ。

だが、それゆえに慎重に、破損しているクリスタルを見分け、そこを叩かなければならない。

万全の状態ならば、カンだけでそれを看破できるはずなのだが。

(マイトを使いすぎたか…カンが全く働かない)

額から、汗が流れ落ちる。

(やはり、無謀な賭けだったか…?)

「ここは拙に任されよ」

「!シャドウワイズマン…といったか」

シーザリアスのすぐ隣に、音も無く現れたのは、シャドウワイズマンだった。

「どちらを攻めるか、決めあぐねておられるのでござろう。ならば、拙の必殺剣にて活路を開いて見せよう」

シャドウワイズマンは、真・シャドウセイバーを構えた。

「心中穏やかでないのは…バーンレイバー殿だけではござらぬ…っ!!」

「シャドウワイズマンさん…」

ゴーグルが下がり、視覚が遮断される。

「見えたッ!!」

瞬間、シャドウワイズマンの姿が掻き消えた。

「ゆくぞッ重影・心眼斬りィイイィイイイイイイイッ!!」

『な、何!?うおおおおおおお!!』

黒いロボットの右手のクリスタルを、真・シャドウセイバーが捕らえた。

が。


ガギギィインッ!!


「な!?」

刃は、クリスタルに傷をつけるに終わり、シャドウワイズマンはバランスを崩して地に転がった。

「な、なんで!?」

ほのかの愕然とした声に、シャドウワイズマンは悔しそうに唸った。

「む、無念…!力が乗り切らぬ…!」

傷ついたシャドウワイズマンの体が、必殺剣発動の反動に耐え切れなかった。

だが、そこで攻撃は終わらなかった。

「上等ッ!!目印があればこっちのもんだっ!!」

『行くぞ陽平ッ!!』

「おうッ!!」

続いて飛び出したのは紅の忍者、クロスフウガ。

「『霞斬りッッ!!!』」

バーニアを噴射し、瞬く間に視認できないスピードへと加速した。

『うおお!』

そして、愛刀である斬影刀を、目印のついたクリスタルに向かって叩き付ける。

…が。

ギギギィ…ギィンッ!!


クリスタルを捕らえたはずの斬影刀は、クロスフウガの手からすっぽ抜け、クルクルと回転しながら上空へと跳ね飛ばされた。

『クハハハハハハッ!!残念だったなッ!!』

「た…」

『足りなかった…!?』

やはり力の乗り切らないクロスフウガ。体力も気力も底をついての霞斬りは、傷を僅かに大きくするに終わる。

「後…後一撃ッ!!」

「続けてくれッ!!誰かぁッ!!」

シャドウワイズマンと陽平の悲痛な叫びに、シーザリアスの瞳が光る。

「行くぞ、シーザリアス」

手に持っていたビームライフルを上空へと投げ捨てると、スラスターを吹かし、一気に加速した。

『な?!』

慌て、構える黒いロボット。

だが、シーザリアスは、何もせずにそのまま黒いロボットの頭上を通過する。

『き、貴様ッ!?』

ブリットの真意を測りかねた黒いロボットは狼狽する。

振り返った先では…

「ざ、斬影刀!?」

クロスフウガの、跳ね飛ばされた斬影刀を手にしてスラスターを全て後方へと向けて構える、シーザリアスの姿があった。

「模倣、劣化霞斬り」

『何!?』

超加速。

シーザリアスの限界を超えた加速から、先程のクロスフウガと瓜二つの構え、振りから、霞斬りが放たれた。


バキィ…ッ!!

『は、ははッ!!足りない…僅かに足らなかったようだなッ!!』

再び放たれた霞斬りを受けて、なおクリスタルは健在だった。

シーザリアスはバランスを崩し、激しく転倒した。

『無駄だ…貴様らの足掻きは、所詮無駄なことよッ!!大人しく死ぬがよいわッ!!』

右手を掲げ、シーザリアスに向かってエネルギーを放射しようと構える黒いロボット。

対するシーザリアスは、ゆっくりと上体を起こし、右掌を上空に掲げた。

『降参か?片手が足りないようだが?最も、そんなもの聞く耳もたんがな!!』

「無駄な事など、1つも無い」

『…!?』

ブリットの呟きに、黒いロボットは動きを止めた。

『…あ、ああ!?』

黒いロボットの目の前で、シーザリアスの右手に、ビームライフルが落下して来た。寸分違わぬ位置。タイミングで。

「俺は無駄なことなど、ひとつとして、していない」

照準セット。

額から血を流しながらも、ブリットは引き金を引いた。

「チェックメイトだ」


ドウッ!! バキァアアアアン!!!


ビームは、クリスタルの亀裂の中心に命中。ついに、右手のクリスタルが、腕もろともに破壊された。

同時に、限界以上に酷使した機体の各所が、小爆発を起こした。

「続け…!!」

腕からの出血。激痛を感じながら、ブリットは叫んだ。

「クリスタルを破壊しろッ!!」

「うんッ!!!」

「任せろッ!!!」

飛び出したのは、紅麗、蒼月。そして、フラッシュブレイカー、ウルフブレイカーだった。

「「「「ああああああああああああああああああああッッ!!!!」」」」

4機の格闘機による、コンビネーション。

4機が入れ替わり立ち代り入れ替わり、左腕のクリスタルに猛攻撃を仕掛けた。

拳、蹴り、掌底。ありとあらゆる打撃が、クリスタルを叩く。

だが。

『貴様らの攻撃力では、このクリスタルを破壊することはできんッ!!』

「あうッ!!」

「橘ッッ!?」

フラッシュブレイカーが、黒いロボットの拳を受け、吹き飛んだ。

『ぬうおおッ!!』

「きゃぁッ!!」

「水衣姉ッ!!」

続いて飛び込んできた蒼月を、裏拳で殴り飛ばした。


ズッドンッ!!!


『な!?』

次の瞬間、黒いロボットは後方へと吹き飛ばされた。

紅麗の剛拳と、ウルフブレイカーの鋭い蹴りが同時に炸裂したのだ。

「テメェ…!!ぶちのめすッッ!!!」

巨大な手甲−神龍拳を装着し、拳に炎のマイトを収束させていく拳火。

「…ぉぉおッ!!」

ウェアビーストへとチェンジし、足に、全ての冷気を収束し、低く屈むウルフブレイカー。

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」

ブースターを吹かし、亜音速で高速接近。

蹴りを。拳を。ありったけの力を、黒いロボットの左腕へと、叩き付ける。


ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!


『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』

土を盛り上げ、数十メートル、数百メートル後方へと黒いロボットを引きずりながら前進する2機。

が。

「!?ち、力が…ッ!」

紅麗の、そしてウルフブレイカーの技の勢いが衰えていく。

クリスタルが、技の威力を吸収しようとしているのだろう。

「くそっ!!足りないのか…!?」

気力を振り絞って力を上げても、吸収される勢いには勝てない。

更に勢いが衰える。

「くそッ!!」

なけなしの気力も尽き掛ける隼人。

「くそおおッ!!」

「ざけんな」

「!?」

一瞬の、拳火の呟きを、隼人は聞き逃さなかった。

「ざけんな…ざけんな、ざけんな、ざけんなッッ!!」

「!!」

見る見るうちに、紅麗から発せられる炎の勢いが増していく。

「俺の怒りの炎はッ!!こんなもんじゃ消えねえぞおおおおおおッ!!!!」

「!…そうだ…そうだッ!こんなもんで!!終われるかあッ!!」

「「『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』」」

再び勢いを盛り返す2機。そして。

「「『ぶ・ち・ぬ・けええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!』」」


ビキッバキッビシィッ!!バキイイイイイイイイイイインッ!!


『ぬおおあああ!?』

クリスタルを、左腕ごと粉砕する。勢い余って転倒しつつ、拳火と隼人は叫んだ。

「「続けえええええええええええええっ!!」」

「行くよッ!!猛鋼牙ッ!!!」

『合点承知ッ!!!!うおおおおおおおおおおおおらああああああああああああああッ』

名槍・砕虎の切っ先を地面に突き立てながら、高速接近してきたのは、猛鋼牙だった。

「『虎流槍術ッ!!地・裂・閃ッッ!!!』」

切っ先を黒いロボットの直前で離し、勢いつけたその槍を、腹部のクリスタルに叩き付ける。


ガギイッ!!!


「くッ!!」

『か、硬ぇじゃねぇかクソッタレッ!!』

刃は通らず、切っ先はクリスタルに触れたまま動かない。

押し込んでも押し込んでもビクともしない。

『貴様では役不足だ!!』

「!!」

腹部のクリスタルが光を放ち始める。

また、あの光の攻撃を繰り出すつもりなのだろう。

『死ねッ!!』

体を強張らせる陸丸。

『陸丸ううううううううううううッ!!そんなんで帰ってきてみなさい!?ぶっ飛ばすわよおおおおおおおおおおおおお!!』

「うわ!?」

突然の通信に肩をビクつかせる陸丸。

苦笑しつつ、左腕一本で槍を支え、肩に柄を担ぐ猛鋼牙。

「根性一発ッ!!行くよ猛鋼牙ッ!!!」

『合点だッ!!』

右腕に、ありったけの土のマイトを集中させる。

「『ドッ!!』」

拳を、砕虎の柄に、腹部に最も近い箇所へと叩き付ける。

「『根ッじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうッ!!』」


ゴカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


柄がしなり、力は増幅され、槍は勢いを取り戻した。

『ぬおおおおおおおおおおおおおお!?』

だが、クリスタルは僅かにヒビが入るだけ。

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

土のマイトを高める陸丸だったが、後一歩。足りない。

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

(陸丸さん)

「ッ!!!」

不意に、1人の少女の声が聞こえた。

「『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッあきらめてたまるかああああああッ!!!』」

拳を再び構え、

「『りゃあああああああああああああああああああああああああああっッ!!!』」

ダガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

再び叩き付けた。

『ぐああああああああああああああああああああああああああああ!?』

槍は、クリスタルを粉砕し、そして、黒いロボットを上空へと弾き飛ばした。

ラストガーディアンの格納庫で、1人の少女が、煙草を吹かした柄の悪い男の傍らで微笑んだ。

「兄ちゃあああああああああああああんッ!!!今だああああッ!!」

「「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」

バーンレイバーとヴォルライガーが応じる。

剣を構える2機。

『おのれ…おのれおのれおのれえええええッ!!』

「「な!?」」

黒いロボットは激昂すると、口の部分で小爆発が起こる。

その奥から出現したのは、

「『クリスタルだとッ!?』」

先程皆が破壊したクリスタルと同質の物だった。

『貴様らだけでも道連れにしてやるッ!!!』

「自爆するつもりか!?」

ヤケになったのか。黒いロボットはクリスタルに全エネルギーを集中させ始めた。

黒いロボットは、バーンレイバーとヴォルライガーをにらみつけた。

「「そうはさせるかあああああああああああああああっ!!」」

『な!?』

光の弾丸が、黒いロボットを捕らえた。

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

シャイニングショット・バースト。

眩い光を全身から放ったシャインサイザーが急速接近してくる。

雨の様な射撃が、黒いロボットを叩きに叩く。

『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』

「ついでだッ!!」

「これも持っていけッ!!」

シャインサイザーは、シャイニングクォースを構え、必殺の構えを取る。

「兄貴いいいいいいいいいいいいいいいッ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

そこへ、上空へと飛び上がり、大上段にバーニングランサーを構えたバーンレイバーが飛び込んでくる。

「シャイニングッッ!!」

「バーニングッッ!!!」

光の翼が、炎の太刀が、

「インパクトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

「フィニイイイイイイイイイイイイイイイイイイッシュッ!!!!!!」

黒いロボットの前後で、同時に炸裂した。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

強大なエネルギーが、黒いロボットを挟み込む。だが。黒いロボットは、笑った。

『く…くくく…このクリスタルは奥の手…ッッ許容量も他とは桁が違うぞッ!!!』

「「「「!!」」」」

徐々に、技の勢いが殺されてきている。エネルギーが、吸収され始めているのだ。

このままでは、自爆の勢いが増すだけ。被害が大きくなってしまう!?

「「「「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」」

一瞬、炎と光が強くなるが。

『無駄だ』

直後、炎が、光が、全てクリスタルに吸収された。

全身を包む炎と光は消えうせ、力尽き、地に堕ちるバーンレイバーとシャインサイザー。

今度こそ、動けない。

『さあ…私と供にッ!!!』

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…

『…なんだ?』

自爆を仕掛けようとした直前、妙な音を察知し、動きが一瞬止まる黒いロボット。

次の瞬間。

「がんばれっ」

大上段に大剣を振りかぶったヴォルライガーが、目の前に現れた。

「がんばれええええっ!!シローーーーーっ!!!!」

エリィは、胸の前で手を組んで、叫んだ。

『天気予報だ』

『な!?』

「今日のテメェの天気は…ッ!!」

大剣を、一気に

『う…!』

「『晴れのち雷だああああああああああああああああああああああああああッ!!!』」

『うわああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?』

「「「「「「「いけえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!」」」」」」」

振り下ろした。


ザシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!

剣は、頭上から股下を斬り裂いた。

そして、黒いロボットの体内で、炎と、光と、そして雷のエネルギーが溶け合い、混ざり合い、そして…

「吸収、し、きれな」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

大爆発を起こした。

「ざまぁみやがれ…ッ!!」

『我が剣に…斬れぬ物なし…ッ!!』

姿勢を制御する術も無く、ヴォルライガーはそのまま、バーンレイバーとシャインサイザーの上に、折り重なるようにして落下した。

「ぐお」

「おう」

『…す、すまない…』

だが誰一人として、それをどかす程の余裕のあるものはいなかった。

「あ!?」

誰かが叫んだ。

次の瞬間、虚空に亀裂が入る。

「「「「「「じ、次元の穴!?」」」」」」

地面に倒れこんだ者たちが、一斉に目をむいた。

あれは間違いなく、トリニティ出現前の前兆だった。

「ふざけんな…さすがにもう立てねぇぞ…ッ!!」

『…くッ!!』

必死に身を起こそうとするが、体はピクリとも動かない。

一瞬、胸中を絶望が支配した。

その時。


ドシュウゥッ


ラストガーディアンから閃光が放たれ、亀裂が見る見るうちに塞がっていった。

「あれは…」

「DDBシステム…!?確か、大破したと聞いたが…!」




「何とか間に合ったみたいね…!」

ブリッジで、律子が胸をなでおろした。

『はい!おかげさまで』

スクリーン上のユマは、油で黒く汚れた顔で微笑んだ。

「あなたのおかげね…失意の空山さんや、草薙君たちを焚きつけなかったら、最悪の結末を迎える所だったわ」

『いえ、そんなことは』

ラストガーディアンに戻って来るなり、ユマはDDBシステムを修復すると言って動き始めた。

ユマは、共に戦えない苛立ちを持っていた草薙咲也や田島謙治、倒れたシャインサイザーを見て絶望に陥っていたリオーネを激励し、自らも修復に協力した。

結果的に、それが最後の最後で功を奏した。

『それに、修復するように私に指示したのは、ブリットさんですから』

「…ほんとうに、未来でも見えてるのかしらね、彼」

『かもしれませんね』

苦笑しつつ、律子は呟いた。

「勇者達の回収を急いで!!全速でこの空域を離脱します!!」

律子の指示に、ラストガーディアンは慌しく動き始めた。


<NEXT>


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