その後、何とか奇跡的に専用ドックに到着したラストガーディアン。

すぐにスタッフ達によってオーバーホールが行なわれた。

ドックに停泊するその数日間。

勇者達は、傷ついた体をゆっくりと癒す事になった。

「あれだけ大掛かりな作戦を潰したんだ。すぐには仕掛けてこない」

術だろうが、機械だろうが、次元を繋ぐほどの大掛かりな力を、度々使うことも出来ないだろうと、ブリットが太鼓判を押したので、ブリッジのメインクルーは妙に納得したらしい。

外出許可も出たが、何人かは病院へ入院する羽目になった。

「…ユマ、そろそろ泣き止め」

「…」

ブリットも、その1人。

ベッドに横になっている彼の傍らには、ポロポロと涙を流しているユマがいた。

「絶た…よくなったら…張り倒し…ます、からねっ。ぐすっ」

「…やれやれ」

ため息を付くブリットのその隣には、飛鳥の姿があった。

その傍らには、黙々とリンゴを剥くリオーネの姿が。


バキャコンッ


「あら、リンゴが…」

左手に持っていたリンゴを、リオーネは握りつぶしてしまった。

飛鳥は冷や汗をかきながら、延々とそれを見続けていた。

(こ、こわい…)

戻ってきてから、ずっとこの調子なのだ。これで5個目のリンゴがご臨終なされた。

「待っててくださいね、飛鳥さん。すぐに剥きますから」

ニッコリ笑うリオーネの瞳は、笑っていなかった。

(怒ってるなぁ…)

アレだけの無茶をして心配させたのだ。自分もブリット同様、完治した際には何をされるか分からない。

「あら」

また1つ、リンゴがぐしゃりと潰れてしまった。

「り、リオーネ…リンゴ、もったいないよ」

「ほら、俺が剥くから…な?」

「いいえ、私が剥きます」

ニッコリと笑いながら、妙な迫力を振りまくリオーネに、雫もほのかも半歩下がって空笑い。

流石にその光景に目が点になるユマ。流石のブリットも額に汗が光っていた。

「…そ、そういえば、陸丸君、どこにいっちゃったんでしょうね?」

なかば無理矢理話題を逸らすようにユマが言った。

「アイツは怪我が一番軽かったからな…今頃、鈴とどこかを走り回っているんじゃないか?」

ユマの問いに、ブリットはあくびをしながら答えた。




「…ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。鈴」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ。何?」

「つ、疲れた…流石に」

「ふ、ふん。私は、とっくの、昔に、疲れてたわ」

ラストガーディアン内の廊下に、脱力して座り込んだのは、陸丸と鈴の2人だった。

「あのお姉さんたちは…」

「さ、さぁ、巻いたかな」

実は2人。ここ数日間、艦内で、年上のお姉さんたちに、分けも分からず追い掛け回されていた。

可愛がってくれてるのは分かるのだが、何となく視線が妙な熱を帯びていて、怖くて逃げ回ってしまう。

2人揃って逃げ続けているのだが…


ガシッ!


「うわああ!」

「にゃああっ!!」

地の利は向こうにあるらしい。

こちらに着いたばかりの彼らは、行く先々で先回りされ、捕まってしまっていた。

「「助けてー!!」」

その声に答えるものは誰もいなかったそうな。




「余計な事かもしれんが」

「はい?」

「いいのかよ、会いに行かなくて」

ラストガーディアン格納庫の、ウィルダネス組の住みか。

カウンターで煙草を吹かしている男−ジャンクのぶっきらぼうな言葉に振り返るココロ。

「あんなに必死だったろうが」

「…」

あの、戦いの際。ジャンクに念を増幅して欲しい。声を届けさせて欲しいと懇願した少女だったが、この数日間、陸丸に会いに行くような素振りは、一度として見せなかった。

「…いいんです。今は、まだ会えません」

「ハン、そんなもんかね」

「はい」

少女はお皿を拭きながら、寂しそうに微笑んだ。




「オラ新入りィ!!こっちも溶接しろッ!!」

「ちょ、待てっておやっさん!!こっちゃ怪我人だぞ!?」

ラストガーディアンの外壁を修復中の整備班に混じって、体のあちこちを包帯で巻かれた赤髪の少年−拳火が走り回っていた。

「うるせぇッ!!そんな便利な能力あるんだ、休ませるわけねぇだろうがッ!!」

「ひっでえ!?」

確かに怪我が酷いが、それでも走り回っているところをみると、彼も大概タフなのだろう。

数日間、怪我の治療とマイトの回復に当てたその後、彼は休み無く働いていた。

厳しい勤務状況だったが。

「オラッ!!次はこっちだッ!!」

「あいよッ!!」

その表情は笑顔で。なんだかんだで楽しんでいるようだった。




「マッコイ姉さん、これ、どこに置きますか?」

「あ〜、それじゃそれはこっちに下げといてくださいっす!」

「了解」

購買スペースでは、例の展示品…水衣が、マッコイ姉さんの手伝いをしていた。

「あそこに座ってるだけで、客寄せになるんすけどねー」

「退屈ですから、流石に」

クスクスと笑う2人。

「これからは看板娘としても一緒にがんばるっす!」

「はい」

「あ、あの!水衣さん!!」

「?」

呼ばれて振り返る水衣。そこには西山音彦が立っていた。

「あの、その…」

「?なんでしょう?」

水衣の問いかけに答えず、もじもじとしている音彦。彼にしては珍しい態度だ。

「あ、えーとやな…」

「何かを、お探しでしょうか?」

ニッコリ。

水衣の微笑を見た瞬間、脱兎のごとくその場から走り出す音彦。

「…?」

水衣は首を傾げる。

廊下の角を曲がると、音彦は何者かに胸倉を掴まれた。

「馬鹿ッ音彦ッ!!それでも男か!!」

「あ、アホ言うなッ!!あないな笑顔向けられて、どうにかならん男はおらんッ!!」

剣持誠也だった。

どうやら、水衣をナンパしようと画策しているらしい。

「俺が行くッそこで見てろッ!!」

「まてッ!一旦退却して、体勢を立て直すんやッ!!」

音彦の分けの分からない制止を振り切り、水衣の前に躍り出る誠也。

「あ、あのっ!」

「はい?」

ニッコリ。

向けられる笑顔に、体が仰け反る誠也。

そして、


ドヒュウンッ!!


音彦よりも早く、その場から撤退していった。

「阿呆…いわんこっちゃない」

額に手を当ててやれやれ、と呟く音彦。

「…?」

水衣は首をかしげるばかりだった。




そして。

「ぐあッ!!」

今日も今日とて、訓練所の壁に体をめり込ませているのは、志狼だった。

「どうした。もう終わりか」

「まだまだあッ!!」

壁から這い出ると、木刀を構えて、父、剣十郎に飛び掛って行った。

「…流石というかなんというか…タフだよねぇ…シローは」

あはは、と苦笑しながら呟くエリィ。

恐らくは怪我の具合やマイトの消耗はブレイブナイツ内で群を抜いていたはずだが、

数日入院した後、間もなく修行を再開しはじめた。

入院の主な原因は、筋肉痛だった。

状態を見た医者が血相を変えて入院を勧めてきた所を見ると、日常茶飯事だった筋肉痛はかなり異常で、危険なものと見て間違いないだろう。

その後、数日で怪我や消耗具合が回復したのを見て、医者がひっくり返ったのは余談だ。

「皆が来て、色々変わったけど…」

エリィはにっこり微笑んで、

「何が起きるかな。楽しみ♪」

満足そうに呟いた。

「シロー!ガンバッ!!」

「おおおッ!!」

エリィの声援を受けて、志狼は今日も訓練に気合を入れるのだった。




おまけ

「…ん?光海、お前、そのでけぇ麻袋なんだ?」

訓練を終えた志狼とエリィは、廊下ですれ違った光海に声をかけた。

何やら、彼女が大きな袋を抱えているのが無性に気になったからだ。

「え?ああ、これですか?ん〜、狩りの獲物ってところですかね」

「あ“?」

「…」

志狼はワケが分からず首を傾げる。が、エリィは何かを察したのか、視線を泳がせてから笑いしている。

「あ、じゃあ私行きますので、これで」

「あ、ああ」

ペコリと頭を下げてから、歩み去っていく光海。

「…気のせいか、動いてないか?あの袋」

ふとみると、定期的にもぞもぞと、袋の中身が動いているのが目に付いた。

…が。

「まぁいいか」

気に留めずに、志狼はエリィと再び歩き始めた。

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