「いーじゃねぇか。ここに着てから間もねぇんだ。案内してくれたって」 デパートの屋上で、彼らはテーブルに座って向かい合っていた。 はたから聞けば、何ともたわいも無い会話。 だが。 「俺だってこの辺詳しいわけじゃねぇんだぞ。大体何時もは世界中飛び回ってるしよ」 「そういやそうだな」 彼らは、一般人とは違う。 御剣志狼。風雅陽平。 彼らは、勇者として世界を救う為に戦う戦士である。 「にしても、休日にヤローとお出かけかよ」 「そう言うなって。たまにはいいだろ?」 そんな気は無いのに軽口を叩く志狼と、苦笑する陽平。 彼の守るべき主君、翡翠は現在、エリィと一緒にテーマパークへと出掛けている。 聞くところによれば、彼女もそれなりに腕が立つらしい。 それに加え、彼の兄が、こっそりと護衛している事だろう。心配は要らないはずだ。 彼らは今日、休日だった。
休日だろうが正義の味方?
「さて、次はどこ連れてってくれるんだ?♪」 「次ねえ…うーん」 丁度ジュースを飲み終えた2人は立ち上がり、屋内へと歩き出そうとした。 彼らにとっての休日。だが一般の人々にしてみれば今日は平日だった。 屋上は人がまばらだった。だからこそだろう。 「!」 志狼は、フェンスの向こう側に立つ少女を視界に捕らえた。 「とりあえず、あの娘止めてからな」 「あ?おい!!」 そして今まさに、少女は屋上から飛び降りた。 志狼は電光石火を発動させると、フェンスに飛び乗り、今まさに落下した少女に向かって飛び込んだ。 ガシッ その体を抱きとめる事には成功する。 だが、デパートの屋上から落下する自身と少女を止める術は無い。 ガシッ! 「ったく!自分も助かる方法考えてから飛び込めよなっ!これじゃお前も自殺じゃねーか!」 「いやぁ、お前に期待しちゃったよ、はは」 フェンスを掴み、もう片方の腕で志狼の足を掴む陽平。 とっさの判断で、彼もこの場に飛び込み、志狼の足を掴んでいた。 実際には、彼らには屋上から飛び降りても助かる方法はある。 だが、一般人の前で『ソレ』をやるのはできる限り避けなければならない。 「さっさと上がれ!そっちの女の子はともかく、お前は重いっ!」 「はいよっ!」 反動をつけ、少女を抱えたままで一気にフェンスの上へと上がりきる志狼。 陽平もソレに続き、フェンスを飛び越え、屋上へと戻る。 「はぁ…!あービックリした」 少女を抱えたままで苦笑する志狼の頭を軽く小突く陽平。 「バカヤロ!俺もお前にビックリだよッ!」 「悪かったって。それにしても…」 抱き抱えたままだった少女を解放する志狼。 「何だってあんなマネしてたんだ、あんたは」 「…」 少女は何も答えない。瞳はどこを映しているのか虚ろで、顔を伏せたままだ。 「志狼。とにかく場所を移そう。ここじゃ目立ちすぎる」 「…だな」 先ほどの少女の飛び降りから、2人の見事なまでの救出劇と、非日常的な出来事が立て続けに起こったために、段々と人が集まってきている。 「そら、行くぞ」 志狼は少女の手を取り、集まり始めていた人を掻き分けて屋内へと入っていった。 「ンで、だ」 デパート内のファーストフード店に入り、ジュースを3つ用意し、席に座る3人。 「あんた。何だってあんなことしたんだ」 志狼は少女に先ほどと同じ質問をした。 少女の歳は、自分達よりも少し下くらいか。可愛い、と素直な感想を抱く志狼と陽平。 黒く、艶やかな長い髪。大きな瞳。 白いワンピースに踵の少し高い可愛らしいサンダルが、彼女の可愛さを引き立てている。 一見すると、自殺など思いつきもしなさそうな少女だが…。 数回、口をパクパクさせた後、やがて少女は、泣きそうな表情で呟くように語りだした。 「…繰り返し繰り返し…そんな日常に、嫌悪感を抱いてしまったんです」 「…?」 少女の言葉に首をかしげる志狼。 「朝起きて、学校へ行って勉強…帰ってきて、習い事…朝起きて…何の変化も無い、退屈な日々が、嫌になってしまったんです」 無関心そうにストローを咥えて明後日の方を見ていた陽平が、ちらりと少女を見て言った。 「あんた、イイトコのお嬢さんだったりしない?」 「…」 「そうなんだな」 少女の無言を、陽平は肯定と認識したようだ。 目を丸くする志狼。 「何で分かったんだ?陽平」 「世間知らずだったからさ。勘だよ勘」 頷いて苦笑する。 「送り迎えは車で、学校では特に友達もいない…なるほど、確かに退屈だろうな」 「陽平、よせよ」 陽平の言葉に、更に俯く少女。 「なっちゃいねぇな。あんた。なんせ自分で変わろうとしてねえもんな」 「え…」 その言葉に、顔を上げる少女。 「自分で歩いて学校に行こうともしてねぇし、友達の仲間に入れてもらおうって自分で声をかけようともしねえ…違うか?」 「…!」 図星だったのか、口元を押さえて少女は押し黙る。 「まぁ、なんだ。確かに陽平の言い方はきついかもしれないけど、言ってることは間違ってない…分かるよな?」 志狼の言葉に、多少の時間の後、頷く少女。 「大体、自分の小せー世界で物見て、日常がつまんねぇとか言ってるのが気に食わねぇ」 「陽平!ったく」 志狼の制止にも、陽平は止まらなかった。 「ほら、こいよ!お前デパートの中とか見たこと無いんじゃねーか?」 「あ…!」 じれったくなったのか、陽平は少女の腕を掴んで歩いていく。 「俺がお前に『遊び』って奴をレクチャーしてやるよ」 ニンマリと、悪戯っぽく笑う陽平。 「お前、名前は?俺は風雅陽平」 「アイラ…」 「アイラね、あいつは御剣志狼。まぁ俺達のことは名前で呼んでくれて構わねぇから」 「おーい陽平!ジュースどうするんだよ!」 「ちょっとお前持ってろ!」 「…はは、ったく」 結局志狼が口もつけていないジュースを3つ持つ羽目になった。 「ほら、これ持って!こう」 「え、っと」 陽平はプラスチック製のバットを少女に握らせる。 もちろん本物ではなく、テレビに繋いで、擬似的に野球を楽しむゲームである。 「ピッチャーが投げたらタイミングよく…おし、振れ!」 「え、え?」 言われるままにバットを振るうアイラ。 ガンッ 「ぶっ!」 「あ」 その手からバットがすっぽ抜け、志狼の顔面に直撃する。 「ナイスバッティングー」 軽く拍手する陽平。ちなみに画面の中では、『ホームラン』の文字と、盛大なファンファーレが鳴り響いている。 普段は紐で繋がれているバットだったが、子供が試し遊びをしている間に紐が切れてしまったらしい。 「「ごめんなさい!ごめんなさい!」」 店員とアイラに何度も何度も頭を下げられる志狼。その隣で陽平は腹を抱えて笑っていた。 「コレが漫画。どうせ読んだ事無いんだろ」 「…」 彼等が次に訪れたのは本屋。 普段はパッキングされていて立ち読みできない所だが、サンプルにおいてあった適当な漫画をアイラに読ませてみる陽平。 彼の言葉どおり、アイラは漫画も読んだことが無かったらしい。 真剣に漫画に目を走らせている。 そして。 ポロリ 「「あ?」」 志狼と陽平はギョッとなる。アイラが突然泣き始めた。 どうも手にしている漫画に感情移入しすぎてしまったらしい。 人々の冷たい視線が志狼と陽平に突き刺さる。 「「あは、あははは…」」 はたからすれば、彼等がアイラを泣かせた様に見えるのかもしれない。 冷たい視線を感じつつも、真剣に漫画を読み続けるアイラを放っておくことも出来ず、彼らはそのまま30分ほど冷たい視線を浴び続けた。 「どーよ、退屈だったか?」 「…」 陽平の問いに、ふるふる、と首を横に振るアイラ。 あの後、CD屋、洋服屋、小物屋、と転々と店を覗き歩き、遊び続けた為に、喉が渇いていた3人は、再びファーストフード店に戻ってくると、ジュースを一気に飲み干し、喉を潤した。 「な?まだまだお前が知らねー事だらけよ、世の中」 コックリと頷くアイラ。 「なーにをえっらそうに」 「うっせーぞ志狼!」 小突きあう陽平と志狼を見て、微笑むアイラ。 それをみて、志狼と陽平は笑顔になる。 「さて、次はどこ行くか」 「ここ以外にも色々見てみようぜ」 「…!」 立ち上がる志狼と陽平に、アイラも笑顔で頷く。 「ちょっと、宜しいですか」 「あ?」 と、突然スーツ姿の男女に声を掛けられる。 「実は私たち…こういうものなんですが」 懐から手帳を取り出し、スッとしまう。 (…警察?) どんな用件なんだろうか。何とはなしに身構える陽平。 「実は先程、屋上で飛び降り自殺未遂があったとか」 「…そうなんすか」 警察の男の言葉に、白々しく答える陽平。 当事者だと知れて警察のお世話になるのはゴメンだ。 「目撃情報を集めている最中なんですよ…少々お時間を宜しいでしょうか」 「やなこった」 「え?」 志狼は険しい目付きで警察の男を睨み、そう言った。 「走れ陽平!アイラ!」 「え、え…?」 「お、おう!?」 突然走り出した志狼に、陽平とアイラは急いで続いた。 「ま、待てッ!!」 警察の男と女は、その後を慌てて追いかけ始める。 「おい志狼!!なんだよ突然!!誤魔化して知らん振りしてりゃよかったんじゃねぇの?!」 陽平の言葉に首を振る志狼。 「あいつら警察じゃない!あのままあそこにいたら何されてたか分かったモンじゃねぇ!」 「警察じゃない!?だって、手帳…!!」 「あんなもん、ちらっと見せただけだ!人間は先入観で物を見るからな。アレだけでも騙せると思ったんだろ!」 だが、志狼の目は誤魔化せなかった。 彼の目に映ったその手帳には、警察のマークが入っていなかった。 「狙いは…」 ちらりとアイラを見る2人。 「心当たり、あるか?」 「…」 ふるふる、と首を振るアイラ。 「まぁなんにしても、デパート出るぞ。どうやらアイラ狙ってるのは2人だけじゃなさそうだ」 「!マジかよ」 「ああ」 陽平の言葉に、志狼は辺りを見渡す。 陽平は、自分達に向けられている敵意を敏感に察知していた。 先程の、後ろから追いかけてきている2人に加えて、デパート客の中に数人、敵意をむけて来ている人間が混じっている。 急いで脱出しなければ、囲まれてしまう。 「志狼、アイラを抱いて全力ダッシュだ」 「了解っと!」 「きゃ!」 お姫様抱っこでアイラを抱き、一気に人垣を駆け抜ける志狼。陽平もそれに劣らぬスピードでそれに続いた。 デパートの階段を駆け下り、更に走る。 デパートの外へと飛び出すと、そのまま歩道を人の間を縫って駆け抜ける。 「どうする!このまま帰るわけにはいかねぇよな!」 「人命優先…!と言いてぇとこだが、さすがにな」 ラストガーディアン、という単語を伏せ、会話する志狼と陽平だったが、あそこへアイラを連れて行くわけには行かない。 未だに連中は、志狼と陽平の後を追ってきている。 自分達についてこられるとなると、それなりの実力を備えた者達である、と容易に想像がつく。 恐らくはプロだろう。このままただ走り続けて逃げ切れるとは思えない。 「…となると」 「やるしかねぇな」 どこか、人気の無い所へ誘い込んで、迎え撃つしかない。 「!志狼、アレだ!」 「OK、それで行こう」 陽平と志狼は頷きあうと、傍にあった歩道橋を一気に駆け上がる。 すると、向こう側から先程の男達の仲間と思しき数人の黒スーツ姿の人間が、行く手を阻んだ。 後ろからは、先程の男女。 逃げ場は無い。 だが、志狼と陽平の表情は余裕そのものだ。 (妙だ) スーツ姿の男はふと疑問に刈られる。 迎え撃つ気だろうか。それにしては、1人の男はアイラを抱き抱えたままだ。 注意深く観察すると、2人の少年は、何やらタイミングを計っているように見える。 「!!しまった!」 スーツ姿の男は不意に飛び出すが、とき既に遅しである。 「あーばよっ」 志狼と陽平は、歩道橋の上から飛び降りた。 そのまま道路に落下するかと思いきや、下にはトラックが。 その荷台に鮮やかに着地する志狼と陽平。そのままトラックは走り去っていってしまった。 「やられた…!」 男は口惜しげに呟くと、他のメンバーに後を追うよう指示した。 「上手く行ったな」 「ああ」 へっへっへ、と笑いあう志狼と陽平。 その志狼の腕の中では、胸を押さえて粗い息を吐くアイラの姿があった。 「何だよ、飛び込み自殺しようとしてたワリには度胸がねぇな」 「…あう」 陽平の言葉に赤くなるアイラ。 堪えきれず、志狼と陽平は大声で笑い始めた。 「さて」 「本番だな」 次の瞬間。 志狼と陽平の目付きは、戦士のそれへと変貌を遂げた。 スーツ姿の男たちは、港の近くの倉庫にたどり着いた。 あの時記憶したトラックの荷台のロゴと方向から、ここへ向かうだろうと予測を立てた。 そして、それは恐らく当っている。 今は使われていない、古い倉庫。そしてその入り口が不自然に開いている。 「誘っているのか」 舐められたものだ。自分達の人数は10人。対してあちらは3人。それも、非力な少年少女たちだ。 男は倉庫へと足を踏み入れた。 そしてそこには、やはり2人の少年と、目的の少女がいた。 「随分手間を取らせてくれたな」 「どういたしまして」 男の言葉に軽口で答える陽平。ギリッ、と歯を噛み締める男たち。 「相応の覚悟は出来ているのだろうな」 「何の覚悟すりゃいいんだ?ああ…救急車の手配?台数が多いモンな?」 指を指して数える志狼。 「全部で10台か…確かにメンドクセーなぁ。テメェらボコにするにも覚悟がいるぜ」 「小僧…!あまり大人を舐めるなよ…!!」 懐から棒を取り出す男。一振りすると、それは警棒になる。 グリップに付いているスイッチを押すと、バチバチと空気のはぜる音が辺りに響く。 「象も一撃で気絶する威力だ…少し痛い目にあって貰うぞッ」 一気に駆け出し、男は警棒を志狼に向かって叩き付けた。 志狼はそれを、両腕を交差させて受け止める。 バチィッ!! だが、そこで勝負は付いた。男はニヤリと笑う。 一瞬で電撃が少年の体を駆け巡り、気絶させたのだ。 「馬鹿な小僧だ…大人しくしていれば、痛い目を見ずにすんだ」 「さて、痛い目を見るのはどっちかねぇ」 「!?ば、馬鹿な…!?」 男は驚愕する。 少年は…志狼は気絶するどころか、不敵な笑みを浮かべている。 「象を一瞬で気絶させる威力だぞ…何故耐えられる!?」 「さぁね」 ドゴォッ!! 志狼の拳が男の腹に突き刺さる。 そのまま男の体を軽々と吹き飛ばし、倉庫の壁に叩き付けた。 「俺が象より強えって事なんじゃねぇの?」 志狼の驚異的な戦闘力に、アイラは元より、スーツ姿の男たちは驚愕を隠せない。 「おいおい、よそ見すんなよ」 「!」 ふとそんな声が聞こえると、1人、スーツ姿の男が倒れこんで動かなくなった。 「おいおい…張り合いがねぇな。冗談だろ?」 どうやら陽平が、首筋に手刀を打ち込んだらしい。残りの8人が志狼たちから距離を取った。 「悪いね」 「俺ら、あんたらよりも強え奴と毎日やりあってんだ」 開始1分未満。 残りの8人を沈め、一気に勝負が付いてしまった。 「…」 事を起こす前、2人を必死になって止めたアイラだったが、どうやら杞憂だったらしい。 志狼と陽平は、余裕の表情で腕を一振りした。 「ここでいいのか?」 「…」 志狼の言葉にコックリ、と頷くアイラ。 彼女を家まで送り届ける事になった志狼と陽平は、目の前に在る豪奢な玄関と、左右どこまで続くのか終わりの見えない塀に、開いた口が塞がらなかった。 何しろ、玄関から奥が森で、建物が全く見えないのだから。 「予想以上だな、こりゃー」 「ああ」 あまりの豪邸ぶりに圧倒されている志狼と陽平を尻目に、アイラは玄関のインターフォンに手を添える。 すると、インターフォンに取り付けられているディスプレイに、1人の老婆が映った。 『あ、アイラお嬢様!?』 老婆は次の瞬間慌てふためき、何やら回りに向かって忙しなく指示を飛ばし始めた。 その後、迎えの車が到着し、志狼と陽平を丁重に同乗させると、玄関から数分かかって、ようやく屋敷へと到着した。 「どうぞ、ごゆっくり」 先程ディスプレイ越しに見た老婆が優雅に一礼すると、来客室を出て行った。 志狼と陽平は肩に力が入ったまま、2人では大きすぎる椅子に腰掛けていた。 そんな2人の様子にクスクスと笑うアイラ。 空笑いする志狼と陽平をじっと見つめて、一息。深呼吸。 「あ、あの…一緒に…ディナー…如何ですか?」 お礼がしたいのです、と付け加え、アイラが頬を染めて言った。 志狼と陽平は顔を見合わせる。 もうそろそろ、ラストガーディアンに帰らなければならない時間だ。 だが、あのアイラが意を決して、誘ってくれたのだ。断るのも野暮というものだ。 「いいよな」 「…だな」 志狼と陽平は、アイラに頷き返す。 アイラは本当に嬉しそうに笑みを浮かべ、胸の前で手を合わせた。 その後、2人がラストガーディアンに予定を超過して合流したのは、翌日の朝だった。 「あー…ぜってぇ説教だな、こりゃ」 「…だな」 はぁ、とため息を付く志狼と陽平。ラストガーディアンは軍隊ではないが、基本的な規律は勿論ある。 予定のオフを超過してしまったのだから、それも仕方の無い事だ。 なのだが。 「「やっぱ、説教はヤダなー」」 というのが、志狼と陽平の共通の思いだった。 『御剣志狼、風雅陽平の両名は、速やかにブリッジへ。繰り返す。御剣志狼、風雅陽平の両名は…』 「…やっぱ来たか」 予想通りの艦内放送にげんなりし、足取り重くブリッジへと向かう志狼と陽平だった。 「すみませんでした!!」 「志狼のせいです」 すぐさま頭を下げる志狼と、罪を擦り付ける陽平。 「「…」」 ブンッ!!ヒョイっ 振るわれた志狼の拳を、陽平は体を反らせ、交わす。 「…コントは終わったかしら?」 「「こ、こんと」」 律子の言葉に肩を落とす志狼と陽平。2人の父親は『馬鹿者が…』と頭を抱える。 「さて、あなたたちを呼んだのは…」 「お説教、ですよね…」 「フフ、違うわよ」 「え?」 律子の苦笑に、志狼は目が点になる。 律子の背後、コマンダーシートから姿を現したのは… 「「あ、アイラ!?」」 そう。先日彼等が助け、自宅へと送り届けた少女、アイラだった。 「彼女ね、ラストガーディアンに資金援助してくれているラフロイグ財団会長のご令嬢なのよ」 「「は、はぁ…!?」」 志狼と陽平は間の抜けた顔で頷く。 「会長からお礼の通信が入ってね」 神楽が苦笑して2人に説明する。 ラフロイグ財団会長は、一人娘であるアイラが突然行方不明になり、ほとほと困り果てていたらしい。 そこへ、ラストガーディアン縁の志狼と陽平が、偶然にも彼女を保護してくれたということで、お礼を言ってきたと言うのだ。 「…もしかして」 「ん?どうした陽平」 突然、冷や汗をかいて青くなる陽平。 「あの時のスーツ姿の人たち…アイラを探してたガードマンか何かだったんじゃないか?」 「…な、何ぃ!?」 陽平の言葉に声を裏返させる志狼。 「当りよ」 更に苦笑を深くする律子。 どうも見知らぬ男に囲まれているアイラを連れ帰る為、あのような芝居を打ったらしい。 結果的に怪しまれ、あのような事態に発展してしまったわけだが。 「『勇者の強さも再認識する事が出来た。娘のことも兼ねて、今後も援助を惜しまない』。会長はそう仰っていたわ」 今更ながらに冷や汗が吹き出てくる志狼と陽平。 「アイラ…教えてくれよ、最初にさぁ」 「ご、ごめんなさい…私も気付かなかったの」 半眼で呟く陽平に、赤くなって頭を下げるアイラ。 ガードマン全員の顔までは、流石に覚え切れなかったのだろう。 不幸中の幸い、結果オーライといったところか。 「あーあ」 「なんか、ドッと疲れる休日だったな…」 苦笑して座り込む志狼と陽平。ブリッジのあちらこちらからクスクスと笑い声が漏れる。 チュ 「「!?」」 そんな2人の頬に、軽く唇が触れる。 「あ、アイラ…!?」 「また、遊びに連れて行ってくださいね。騎士様。忍者様」 ニコリと、アイラは微笑んだ。 「…おう」 「遊びの事なら任せなさい」 志狼と陽平は、そんなアイラに笑顔で頷くのだった。 ブリッジのメンバーの顔が、一様に苦笑いに変化した。 「近日中に、もう一日、お休み入れたほうがいいみたいね」 「…ですね」 律子と神楽は顔を見合わせて苦笑した。 「お待たせーアイラ」 「久しぶりだな」 「…はい!」 数日後、再び休日となった志狼と陽平は、例のデパートを集合場所に、アイラと再会した。 「…あ、あの…」 ふとそこで、アイラの目に付いたのは。 「ん?」 志狼達の体の至る所に青アザや裂傷だった。それも異常なほどの多さだ。 「戦い…大変なんですね」 「ん〜、あ〜これはな」 「ちょっと違うんだ」 あはは、と空笑いし、直後肩を落とす志狼と陽平。 アイラの一件があった次の日当たりから、彼らは艦内で『突然の襲撃』を受ける事が多くなった。 犯人は蝙蝠仮面のプロレス少女と、百発百中キューピット。 「…?」 そんな事情を知らないアイラは、ちょこんと首を傾げるのだった。 「今日こそはノンビリしようぜ陽平」 「そだな…」 志狼と陽平は力なく笑いながら、拳をコツンと小突かせた。 「キャー!!」 「あの子自殺するつもりか!?」 「「…」」 突然の悲鳴に、志狼と陽平は声の方へと顔を向ける。 と、フェンスの向こう側に、今にも飛び降りそうな少女が立っていた。 「し、志狼さん!陽平さん!」 「「…はぁ」」 アイラが2人のシャツを引っ張る。 「見捨てるわけにもいかねーよなぁ」 「だな」 2人は意を決して走り始めた。 今日ものんびりできなそうだ 2人は深くため息を付いた。 |