玉座の肘掛に頬杖をつき、闇色のローブを羽織った男は一人、瞑想に耽っていた。
蝋燭一本が光源の暗闇の中で、ピクリと瞼が動く。

「…また一つ、世界が滅んだ」

遠くへ伸ばしていた感覚を回収し、男は嘆かわしい、と溜息をついた。

「ただ破壊する…再生を掲げるでもなく、価値のあるものも分別無く」

数多の世界の価値ある物を蒐集する。
それを己が命よりも優先する彼にとって、破壊を続ける彼の組織、彼の存在は、非常に疎ましいものだった。

(世界に散らばりし、破壊神の欠片…呼応する魑魅魍魎…)

あらゆる姿を取り、魔物たちは次元を隔てて、世界を蹂躙する。

(隔絶世界たる我の造りしこの大地…奴らの目には留まらぬだろうが、世界の全てが破壊された後には流石に…)

彼の破壊神の目的は、全ての破壊、全ての破滅。それに尽きる。
男の価値観にそぐわぬ物など、どうなろうと構わない。
しかし、世界の記憶とも言える宝の数々や、景色などが失われるのは、彼にとって面白くない。

(さて、どうしたものか…)

策を講じておく必要があるだろう。
まだ世界の全てが破壊されるまでには、時間が掛かりそうだ。

(…、何故だ?)

突然の自問自答。
何故、世界は直ぐに破滅しないのだろうか。
彼の組織が本気で掛かれば、容易く世界は壊れる。

(…『対』が存在するのか?)

今まで全く目を向けなかったが、彼の組織に対する『世界の抵抗』があるのだろうか。

(…どれ…)

男はまた、意識を深く、遠くへと伸ばしてみる。
次元を跨ぎ、全てを見通す瞳。
無論、代償としての魔力の消費は生半可ではない。
広く、速く、世界をのぞき見る。

(…なるほど…)

破壊神の欠片から、新たな魔物が覚醒した世界が幾つかある。
しかし、その世界は破壊される事無く現存している。
例に洩れず、欠片の魔物は全ての存在に対する破壊衝動がある。
にも拘らず、復活した欠片の魔物は、世界の破壊を諦め、一つの世界に終結しつつある。

「…見えた」

男は瞳を開け、ニヤリと笑う。
彼の組織に対抗せんと、敢然と立ち向かう者たちの姿が見えた。

「美しい…」

是非ともコレクションに加えたい。
今まで目を向けなかったのが不思議な程の輝きを放つ者達。
光の軌跡を辿って見たところ、あの数多の輝きは、あの世界で発生した光ではなかった。
ある一つの大きな意志の元、様々な世界から集められた物。
その違う輝きを放つ光一つ一つが、世界を欠片の破壊から守ったのだろう。

「…ふむ」

しかし、今は彼の組織に対する備えを最優先に行動すべきだろう、と男は蒐集欲を押さえ込む。

「先ずは情報、だな…。彼らが長きに渡り蓄積した情報を…我が力にて手に入れる」

遠見を使い過ぎた。
今直ぐには無理だが、魔力が回復次第手に入れる。
『情報の元』。男が目を付けた物。
その中に蓄積されたデータは、今全ての世界において、至高の価値があると言って間違いない。

「さて…楽しみだ…」









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