「…上手く行きましたかね」

ふぅ、とエリクは安堵して息を吐いた。
しかし、他の者はあっけに取られていた。
突如として、狭苦しかったドックが、広大な空間へと変貌を遂げたのだから、驚かない方がおかしい。

「指定空間の消滅と、同じく指定空間内の支配。組み合わせれば、特定の空間を残して掃除が出来ると思いまして」
「…なんと…」

ブリットも驚いていた。
この広さなら、合体して戦ってもお釣りが来るだろう。
プラス要素として、小型艇から距離を置いていたゴーレムの大群を、一気に消滅させてしまった。
これで十分、態勢を立て直す隙が出来た。

「これで終わるといいんですが…。まぁ、そうも行かないでしょうね」

溜息を付きながら、エリクは愚痴を溢した。

「!」

言うが早いか、地面に魔方陣の様なものが多数出現し、そこから大量のゴーレムが出現した。

「な、まだ出てくるのか…!?」
「鷹矢クン」
「!」
「ここまで運んでくれて、ありがとうございました。君も戦闘に参加してください」
「…分かりました!」

力強く頷き返し、鷹矢は腕のホークブレスを操作する。

「ライドホーク!!」

小型艇の側面のハッチが開き、蒼いバイクが飛び出してくる。
ライドホークと呼ばれたそのバイクは、壁伝いに、しかも乗り手も無しに自走してくる。

「とうっ!」

小型艇の上部へと着地したライドホークに飛び乗り、鷹矢は高らかに叫んだ。

「飛翔合身ッ!」

すると両者は蒼いオーラに包まれ、融合を果たす。
バイクは人型へと変形をとげ、鷹矢は本来の姿へと戻る。

「チェーンジ、エクセーーーース!!」
「よぅ、エクセス…遅かったじゃねぇか」

小型艇の傍へと着地すると、ベルザーがニヤニヤと笑いながら近付いてきた。

「ベルザー!無事だったか」
「ふざけんな、テメェに心配される筋合いはねぇ」

ケッ、とベルザーは吐き捨てるように言った。

「で?どうだった、野郎は。どうせテメェの事だから、勢い良くタンカ切ってきたんだろうが?」
「な、何故それをっ?」

詳細は若干異なるが、ほぼ違いない事をしてしまったエクセスは、驚いてベルザーを見た。

「気付いてないようだから言ってやる。テメェは刑事の癖に、結構喧嘩っぱやいんだよ」
「う」
「野郎が盗人まがいの行動してて、それを許すとは到底思えねぇ。となると、話は簡単だろうが」
「…わ、私の行動は間違っていただろうか?」
「知ったこっちゃねぇ、自分で考えな偽善者野郎!」

悩んでいるエクセスの姿が滑稽だったのか、嘲り笑いながらベルザーは突き放した。

「…いや、ならば私の考えは変わらない!」
「ああん?」
「他者の想いを踏み躙る奴のやり方には、やはり賛同できない!」
「けっ、クソ真面目な野郎だぜ。反吐が出る」

そう言いながらも、ベルザーは「やっぱりな」と不敵に笑っている。

「いくぞ、ベルザー!まずは周りのザコを叩く!」
「命令すんじゃねぇや!エクセス!!」
「来てくれ、イーグルッ!!」
「来やがれッ!バット!パンサーッ!」

両者の呼びかけに、やはり小型艇の側面ハッチから、三機の獣型サポートメカが飛び出した。

「合体だ、イーグル!」

「ケルベルザー、恐獣がったぁぁぁぁいッ!!」

更に続く号令に、サポートメカが変形を開始する。

「天空合体ッ!エクセイバーッッ!!」

雲ひとつ無い天空のように、冴えた青の勇者と、それすらも多い尽くす闇を連想させる、黒の機体が出現した。

「よし、俺達も合体だ!エスペリオン!!」
『心得たッ!』
「鎧竜王ッロォォォードドラグーンッッ!!」

竜斗の召喚に呼応して、ドックの壁に、亀裂が生じる。

『グゥゥォオオオオオオオオオッ!!!』

巨大な爪が、オルゲイトの支配する空間を引き裂き、二足歩行竜が咆哮を上げて姿を現した。

「エスペリオン!ロードドラグーン!鎧竜合体だッ!!」

そしてロードドラグーンが、エスペリオンに更なる力を与える鎧へと姿を変える。

「『ロォォォードッエスペリォォォオンッ!!』」

広大な広さへと変貌を遂げたドックの上方で、赤い戦士は雄々しく鋼鉄の翼を広げた。

「三人とも!準備は良いか!?」
「はい、竜斗さん!」
「何時でもOKだよ、お兄ちゃん!」
「私も行けます!何時でもどうぞ!」
「よぉしッ!行くぜッ!」

ロードセイバーを抜き放ち、ロードエスペリオンはゴーレムへと斬り掛かって行った。

「じゃ、俺達は数を稼ぐとするか。クロスフウガ、出て来てくれ!」
『承知っ!』

陽平はヴァルフウガの中で、獣王式フウガクナイを翳し、クロスフウガを召喚する。

「じゃ、私は手数で勝負しようかな。コウガ」
「森王之射手ですね。承知しました、姫!」
「風雅流…召忍獣之術っ!」

光海が光の矢を放つと、眩い光と共に、深緑の猪が姿を現す。

「風雅流、奥義之弐!武装巨兵之術っ!!」

再び光海の愛弓――森王之祝弓から放たれた光の矢を受け、変形し、コウガとの合体を開始した。

武装完了!森王之射手、コウガッ!!」

「孔雀」
「は、はひ!?」

突如として背後に出現したガイアフウガに、孔雀と一体化しているセンガが肩を跳ね上げる。

「カオスフウガを預ける。敵陣に風穴を開けろ」
「は、はい!頑張りますっ!」

陽平と同じく、釧は獣王式フウガクナイを翳して、カオスフウガを召喚する。

「往くぞ、輝王の巫女よ」
「は、はい!風雅流、武装巨兵之術ぅ!」

孔雀の術が発動し、センガはカオスフウガの武装へと姿を変えた。

「輝王式旋角合体、カオスフウガ・ストライカぁ!」

「じゃ、おいら達はそのまま数で勝負って事で」
「異存なし。モウガ、出て来てください」
「はいはいっと!」

楓の忍具から、闇王モウガが召喚される。

「青の鎧、双牙っ!!」
「赤の鎧、双羽っ!!」
「武装巨兵…、牙王之闘士ロウガっ!!」
「武装、巨兵ッ!鳳王之戦姫クウガッ!!」

外装を纏い、単体の力を増幅させた双子は、ゴーレムとの間合いをジリジリと詰めていく。

「天城さん、行きますよ?」

「…」

楓の言葉に瑪瑙は答えなかったが、コクリと確かに頷いた。

「おらよ」
「!」

ヴァルフウガが、ヴォルネスの掌にエリィをそっと降ろした。

「先に行くぜ」
「…ありがとよ。陽平」

サムズアップだけを残し、ヴァルフウガはゴーレムに飛び掛っていった。
掌の上を見つめるヴォルネスの周りに、鋼牙、土熊、石鷹、紅麗、蒼月、フェンリルが集まる。
そしてその近くへと、ルシフェルが着地した。

「全員無事か」
「ブリットさん!」
『ブリット』

嬉しそうに駆け寄るフェンリルは、狼というよりは寧ろ、飼い主にじゃれ付く子犬のようだった。

「すまない、遅くなった」
「いいえ…!ご無事で何よりです…!」
『まぁ、心配など杞憂だとは思っていたが』

ブリットとユマの再会に、拳火も水衣も、陸丸も頬を緩めた。

「っし、全員揃ったな…!気合入れろ、テメェら。こっから俺達の本領発揮だ!」
「うん!」
『っしゃあ!』
「だな!」
『はい!』

志狼の激に、鋼牙と紅麗が拳をかち合わせる。

「エリィを泣かせた罪は重いわよ…!」

ふふふ、と低い声で笑う水衣。

「熱くなるのもいいが、頭は冷静にしておけ。何時もとは勝手が違うぞ」
「はい!ブリットさん」

ブリットの忠告に頷いたのは、ユマだけであった。

「水衣姉の言うとおりだぜ…!エリィを泣かせて熱くなるな?無理な話だぜ!!」

拳火の言葉に、陸丸は強く頷いた。

「ユーキ!イサムさん!」

ヴォルネスは、救出に一枚噛んでくれたユーキとイサムの傍に、片膝を付いてエリィを降ろした。

「エリィを頼みます!」
「OK!」
「分かりました。お気をつけて!」

これからは乱戦になるだろう。
2人は小型艇の中で、他の非戦闘員を守ることに徹した方がいい。

「…」

無言でヴォルネスを見上げるエリィ。

「…行ってくる」

エリィはヴォルネスを直視できず、俯いた。

「ごめん…!」
「!」

消え入りそうなエリィの呟きに、志狼は首を横に振った。

「謝んな。誰が悪ィのかは分かりきってる事だろうが」
「でも!」
「後は任せろ。…小型艇を頼む」

志狼は立ち上がり、中に入るよう促す。

「トーコも離れてろ」
「はいよ」

肩に座っていたトーコが、レビテーションで宙に浮く。

「行くぞテメェらッ!!」
「「「おうッ!!!」」」「「「了解ッ!!!」」」

「『武将合体!猛ッ鋼ッ牙ぁぁぁぁ!』」
「「『闘龍合体ッ紫龍ッ!!』」」
「「『堕天合体!ウォルフルシファーッ!ドッキングコンプリートッ!!』」」
「『雷獣合体ッ!ヴォルッライッガーーーッッ!!』」

合体を終えた面々を見て、ブリットは軽く息を吐き出した。

「…やれやれ」

頭を冷やせ、とは言ったが、実は先ほどからブリットも、腹の底でもやもやとした物が渦巻いていた。

(…なるほど)

エリィの泣き顔を見た瞬間、確かにブリットは、『嫌な感覚』に支配されていた。

(これは、怒りか)

これは自らも、ユマも、仲間達も望んでいる平穏とは、かけ離れた感情だ。
ならば、自分は自分なりの方法で、この感情を処理する事にしよう。

「いいか、数は多いが、所詮は鈍重な土塊に過ぎん。例のスペシャルゴーレム以外は大した脅威ではない。蹴散らせ!」

必ず、勝利に導いてみせる。あのオルゲイトに、一太刀浴びせてやるのだ。

「おう!!」
「はい!」

ブリットの言葉を受けて、各々は得物を構え、ゴーレム群へと突進していった。

「行くぜ、ヴォルライガー。多少無茶するけど、いいか?」
『何時もの事だ。存分にやれ』
「サンキュー!」

志狼は無論、迷わずスペシャルゴーレムへと突き進んでいく。

「…仕留められなかったのか…?剣十郎」

確かに隙は作れたが、どうやらオルゲイトを倒すには至らなかったようだ。
エリクは重たい体を引きずりながら、小型艇の中へと待避した。






『やれやれ…首を落とされたのは初めてだよ。あまり気分の良い物では無いね…』
「な…!?」

剣十郎と雅夫は、突然のボヤキに距離を取る。
首を落としたはずのオルゲイトの体がゆっくりと動き始めた。
そして、突如首から上の骨が組み上がると、瞬時に肉が付き、皮がそれを覆い、女性の顔が現れた。

「…!」
「瞬間再生が君だけの専売特許だとでも思っていたのかね…?」

剣十郎は顔色こそ変えなかったが、オルゲイトからは何か、異常なモノを感じて冷や汗をかいていた。
さしもの自分も、首を落とされては即死する可能性が高い。
如何に肉体が妖魔に近い存在とはいえ、あくまで生物なのだから。
しかし、このオルゲイトという存在は違う。
首を落とされて尚、平然としている。

「…まぁ、あのまますんなり倒せるとは思っていなかったけどね」
「単なる魔法使いという域を越えているな、貴様は…」
「褒め言葉として受け取っておくよ…」

雅夫はクナイを構え直し、剣十郎は轟雷剣を肩に担ぐ。

「しかし…」

オルゲイトは目元を両手で覆う。

「やはり欲しい…!神の剣と、欠片…ッ!」
「ふん、何を言っている」
「くれと言われて、やれる代物ではないよ」

剣十郎と雅夫は、子供じみたオルゲイトの要求に、呆れ顔で返した。
しかしオルゲイトの顔には、狂気を孕んだ笑みが広がっていく。

「いいや…!私は欲しい物は必ず手に入れる!!」

次の瞬間、彼女が座る玉座の右方の虚空に、魔法陣が出現した。

「!」

警戒し、更に距離を取る剣十郎と雅夫。
オルゲイトはニヤリと笑い、その魔法陣に右腕を突っ込んだ。

「これだ…!」

オルゲイトが魔法陣から腕を引き抜くと、その手には一本の杖が握られていた。
雅夫はすかさず、風牙を乗せた手裏剣で、杖を持っている手首を狙うが、甲高い音と共に弾かれた。
既に空間結界を張り直したか。
舌打ちしながら、雅夫は構え直す。

「自慢の一品というわけかい?」
「その通り…!名を病魔の杖と言う」

ふん、と鼻で笑う剣十郎。

「病魔の杖だと?我々を病気にでもするつもりか?」
「違う。寧ろ用途はその逆…」

杖の先に付いている美麗な宝玉を弄び、オルゲイトは楽しそうに解説し始めた。

「この杖は、あらゆる怪我や病気を取り除く力がある…。というのは、無知なる者の使用用途」

杖を剣十郎と雅夫に向ける。

「この杖の真価は、そんなものではない…」

オルゲイトの魔力が杖を覆い始める。

「な…!?」

剣十郎と雅夫は絶句した。

「…ふ…!」

オルゲイトの左右に浮遊する、一本の刀と、渦巻く力の塊。

「これが、この杖の力だ」

剣十郎の手からは、轟雷剣が。
雅夫の身体からは、風之貢鎖人が抜き取られていた。

「馬鹿な…!あらゆる物を…無理矢理引き剥がす事が出来る…というのか…!?」

閃衣を解除され、剣十郎は肩膝を付いて倒れこんだ。

「まぁ、引き剥がす物の力の大きさに応じて、魔力の消費は跳ね上がるがね…」

ウットリと轟雷剣を眺めながら、オルゲイトは大した消耗も見せずに言った。
雅夫は、忍装束の胸倉を自ら掴み上げ、呆然と立ち尽くした。

「…なんだ、この空虚感は…?」

ありえないと思っていた事態が起こった。
自らが風之貢鎖人を手放すのは、次代のマスター候補に倒された時だ。
願わくば、それは息子に、と胸に秘めていたのだが。

「まさか…こんな形で身体から離れるとはな…」

その力が持つ宿命が、忌まわしいとすら思った事もある。
だが少なくとも、こんな形で失いたくは無い。渡したくは無い。
しかし、そんな想いとは対象的に、身体が重く、気力は萎える。
取り返したいが、剥がれた事もない力の取り返し方など、見当も付かない。
見れば剣十郎も、立ち上がるだけの力も既に残っていないようだ。

(オルゲイト=インヴァイダー…よもやここまでとは…!)

御剣之閃衣と、風之貢鎖人を用いて、首を落としても効果が無かった。
手立てが、光明が見えない。
もはや、ここまでか。

「抵抗する力も失せたろう…?どれ、次は向こうだな…」

オルゲイトが指をパチリと鳴らすと、虚空にドックの映像が映し出される。






「ぐ、ぁぁぁ…ッ!」

ヴォルライガーが、右腕を押さえて後退する。

「だから言っただろう…?触れるだけで危険だと」
「!…オルゲイトか…!?」
「全力で殴りつけるなんて、無茶な事をするね…。ふふ…」
『ちぃ…!!』

雷鳴拳で殴りかかったのはいいが、スペシャルゴーレムに触れた瞬間、ライガークローが解ける様に消滅していった。
それに伴い、志狼の右腕に裂傷が走った。
先ほどの怪我と併せて、最早志狼の右腕は血塗れになっていた。

「もう諦めたらどうだ…?君の攻撃は一切通用しないのだから…!」
「…ハッ」

血払いするように、腕を振るい、前進する志狼。

「生温ィ事言ってんじゃねぇ、クソ野郎が」

指の関節をゴキリと鳴らし、不敵に笑った。

「痛ぇ、疲れた、で止めれる程度の戦いしか、してこなかったンだろうテメェは?
 おめでたい奴だぜ」

左腰部がスライドし、柄がせり出してくる。

「こちとらその程度の覚悟で…」

そしてそれを、一気に引き抜く。

「こいつを握ってる訳じゃねぇんだよッ!!」

刀身が一気に生成される。志狼の闘志を体現した、雷の刃。

「剣でも斬れないと言っているだろう…?無駄だ」
「無理、無茶、無駄ァ?テメェのみじッけぇ物差しで計るんじゃねぇ」

肩にライガーブレードを担ぎながら、ヴォルライガーは悠々とスペシャルゴーレムへと詰め寄る。

「このヴォルライガーを舐めるんじゃねぇッ!」
「こンの馬鹿ッ!!」

頭を殴りつけ、ロードエスペリオンがヴォルライガーの首根っこを掴む。

「な、なにしやがる竜斗!?」
「やせ我慢も大概にしろッ!阿呆ッ!」
「よ、陽平!?あででででででえ!?」

ヴァルフウガが右腕を掴み上げただけで、志狼は悲鳴をあげる。

「見ろ!ちょっと触っただけでそのザマじゃねぇか!!」
「は、離せ!馬鹿!このッ!」
「一緒に戦えばいいじゃねぇか!!何時もの事だろ!?」
「こいつは俺が倒すッ!!手ぇ出すな!!」
「ならせめて傷治してからにしやがれ!碧!頼む!!」

竜斗の呼びかけに、シードペガサスが翼をはためかせてヴォルライガーの傍らに降り立った。

「はい!竜斗さん!志狼さん、ちょっとじっとしてて下さいね」
「あ、ああ…スマン。って、相手は待ってくれねえぞ!?」
「じゃあ、その間に土塊君はあたしと遊んでもらおうかしら」
「っと!トーコ?!」

先ほどまでヴォルネスの肩に居たトーコが、いつの間にかヴォルライガーたちとスペシャルゴーレムたちの間に割って入った。

「1回引っ込んでみたわけだけど……やっぱりね、何百発かぶちかましてやんないと、気がすまないのよ。
ほら、しょーかふりょーって体に悪いでしょ?」
「…」

凶悪な笑顔を貼り付け、右手で左手の指関節をボキリボキリと鳴らすトーコに、

「だ、だから俺が倒すって…」
「聞いてねぇよ」

自然と距離を取る少年達。

「もっと離れた方がいいぞ、こりゃ」
「この距離じゃ小型艇…」
「被害を省みるような奴じゃねぇのは、よぉ〜く知ってんだろうが」
「ああ、わわわ…!」
『エネルギー反応増大。来るぞ』

ヴォルライガーの言葉に、標的は自分達ではないものの、身構えてしまう4人。

「壊れなかったら、あたしンちの家具にしてあげる」

強大なエネルギーが、スペシャルゴーレムに向かって次々と炸裂する。

「《ゴッド・メイス》ゥッ!!《アルティメット・ファング》ッ!!
 《エネルギー・ブリッド》ォッ!!《シューティング・スター》ァァァァァッ!!
 ぅぅぅぅ《ライトニング・レイン》ッッ!!!」

エネルギーの爆弾や牙、光弾が、雨あられのように降り注ぎ、重量が自慢であろうスペシャルゴーレムを枯れ葉のように吹き飛ばす。
ジャンクが広げた広大な空間のその壁に背を叩きつけ、バウンドしてきた所に、

「次ィッ!!」

トーコの更なる追撃が迫る。

「ぇぇぇぇ《エイト・ゴッド》ォッ!!」

ビシャアアアアアッ!!

一閃収束した8本の雷が降り注ぎ、ゴーレムはヨロヨロと体をふらつかせる。

「まッだまだぁッ!!」

トーコが手を翳すと、スペシャルゴーレムを取り囲むように炎が渦を巻いた。

「《ファイア・トルネード》ォッ!!」

炎の渦がスペシャルゴーレムを取り巻き、動きを拘束した直後、

「お次ッ!《メテオ・フレア》ッ!」

上空から巨大な炎の塊が落ち、

「《ステルラ》ァッ!!」

次いで拳大の無数の氷が降り注ぐ。

「《エア・キャノン》ッッ!!」

風の砲弾を直撃させると共に、直前の攻撃で発生した邪魔な爆煙を吹き飛ばす。

煙が晴れて、姿を現したスペシャルゴーレムの姿を、トーコは鼻で笑い飛ばした。

「なぁにが攻撃が効かない、よ。そんなんじゃ家具以下だわ」

ゴーレムは全身の至る所が焦げ付き、凍りつき、削り取れ、見るも無残な状態になっていた。

「あと譲ったげる」

背後に流れていた煙を突き破り、大上段にライガーブレードを振りかぶったヴォルライガーが現れる。

「御剣流、絶剣ッ!!雷ッ墜ッ牙ぁぁぁぁぁぁッ!!」


ッドシャア!!!


一気に振り下ろした刃が、『地面を抉り』、止まる。

「『我が剣に、斬れぬ物なし』」

爆裂四散するスペシャルゴーレムを背に、ヴォルライガーはライガーブレードを一閃し、肩に担ぐ。

「次ァ、どいつだッ!!」

飢えた獣のように吼える志狼。
それを見る3人は、三者三様の様子でそれを見ていた。

「良かった。元気になられた様ですね」

ぽん、と両手を合わせて微笑む碧。

「回復した傍から空っぽになってんじゃねぇか…!」

何が次は、だ、と呆れる陽平。

「紅竜刀で斬れたってことは、物理攻撃が有効なんだろうになぁ…」

適材適所って言葉を知らんのか、と頭を掻く竜斗。
そこから少し離れた場所では、ケルベルザーが大笑いしていた。

「へっ、やるじゃねぇか」
「うわ…小型艇に被害が」
「ちぃせぇ事気にしてんじゃねぇよ!」

エクセイバーの指摘にも、ケルベルザーは笑い飛ばして言い放った。
無茶で、無謀な志狼の攻撃。
しかし、それで周りが勢い付いたのは言うまでもない。
そしてそれは、勇者達だけに留まらなかった。






「やれやれ…。確かに、痛い、疲れた、では止められませんな」
「全く。このままでは彼に笑われてしまう」
「!」

あまりの猛攻に一瞬呆然としていたオルゲイトの目の前で、意気消沈していた剣十郎と雅夫が立ち上がった。

「…まだやると言うのか…?」
「ワシはアレの師匠であり、父でもある。このままでは格好が付かぬからな」
「剣も無く…欠片も我が掌中にあるというのに、今更何が出来る…?」
「剣?…剣とは、これの事か?」
「…ッ!?何…!?」

オルゲイトが、初めて驚愕に表情を固めた。
剣十郎の手の中に、確かに奪い取ったはずの刀が握られていたからだ。

「…何故!?」
「真の武具は持ち主を選ぶ…この轟雷剣・斬悔は、余程貴様が気に食わなかったのだろうな」
「な…!」

ありえない。
病魔の杖で、その繋がりをこそ断った筈なのに。

「風之貢鎖人も、返して貰おうか」
「!」
「風雅の何百年と蓄積されてきた、『業そのもの』とも言えるこの力…」

オルゲイトの傍を浮遊していた、力の塊が消滅し、雅夫の周囲で再び渦を巻く。

「お前如きに飼いならせる物ではない」
「お…あああ…!!」

左右に浮かんでいた宝が、どちらも奪い返されてしまった。
未だかつて無い状況に、オルゲイトの双眸が不安定に揺らぐ。

「剣十郎殿。ここはやはり…」
「…そう、ですな」

視線を交わしあい、意見を一致させる雅夫と剣十郎。
ここは一時撤退した方がいい、と。
何の準備も無く戦える相手ではないことが、良く分かった。
今までオルゲイトは、一切こちらを倒す姿勢を見せなかった。
というのも、自分達の持っている力や物を、蒐集する事にのみ集中していたからだ。
これが一度攻勢に出られたら、現状防ぎきれるかどうかが怪しい。
戦いを終結させるには、頭を潰すのが常套手段だが、その頭にあたるオルゲイトを倒す手段が、まるで浮かばない。

『そうすべきだろうな』

(!ジャンク殿か)

脳裏に直接声が響く。
テレパシーで、どこからともなく彼が話しかけてきたのだろう。

『今、あれの精神とやりあっているが…その光景、想像できるか?』

(…)

正直付かない。剣十郎も雅夫も、無言で返した。

『我にも喰いきれぬ量の眷属と、広大な世界…。
 
あれの精神の内に、もう一つの世界が構築されている。 
 我が言うのもおかしな話だが、あれは人に非ず。化け物よ

「…!」

あのジャンクに、そこまで言わしめるとは。
いよいよ持って、まともに相手をしてはいけないモノのようだ。
せめて本物の轟雷剣や、風之貢鎖人を制御する巫女が居れば、少しは話が違ったかもしれないが…。

「…しかし」
「ええ。あの杖…あれだけは何としても破壊しましょう」

御剣之閃衣と風之貢鎖人を、再び発動する両者。
あの病魔の杖。
あの力は、大変に危険な代物だ。
強い意志で奪還が可能だという事は判明したが、恐らくはオルゲイト自身がその蒐集対象を封印でもしてしまったら、意志の強弱に関わらず奪い返す事が、相当に困難になる。
そして、勇者達の最大の利点である、合体を強制分離させることなど造作も無い事だろう。
今後の憂いを断つ為にも、あれだけは確実に破壊しなければならない。

「武器破壊か…。ならば」

剣十郎は轟雷剣を大上段に構えながら全身のマイトを高め、半身になると、切っ先をオルゲイトに向けて構えた。
轟雷斬。
かつて破壊困難な、魔剣を破壊するために生み出された、御剣流の必殺剣。
しかし空間結界を張っているオルゲイトに近付くには、雷墜牙で結界を切裂く必要がある。

「…」

剣十郎は雅夫に視線を送る。活路を開いてくれ、と。
ふむ、と頷き、雅夫は大型のクナイを取り出した。

「何とかしましょう」
「何とか…だと…?」

オルゲイトが呆然としたまま雅夫を見る。

「君には、空間を破壊する術はないはず…それでも、そのような大口を叩くというのか?」
「…試してみるか?」

雅夫の眼が必殺の気迫を帯び、細められていく。

「行くぞ」






「おいおい…こりゃキリがねぇな」

炎の拳でゴーレムをふっ飛ばしながら、拳火は思わず愚痴った。
普段のトリニティの物量戦に比べれば、数は少ないが、何せこちらの数も何時もの半分以下である。

「…」
「散漫だな。隙だらけだぞ」
「釧」

ウォルフルシファーの正面に突然ガイアフウガが姿を現し、チェーンで繋がれた鉄拳―――ヴォルテックナパームを放った。

「ちょ、ちょっと釧さん!?」

焦るユマとは対照的に、ブリットはそれを必要最小限の動きで回避する。
すると、ヴォルテックナパームは、ウォルフルシファーの背後に迫っていたゴーレムを粉砕した。

「あ…!」

釧はコレを狙っていたのか。ブリットがかわせると見込んだ上での直線攻撃だったのだ。

「キサマが何を考えているか、当ててやろうか?」
「…」

チェーンを回収しながら、ガイアフウガが歩み寄ってくる。

「ブリットさん!」
「あ」

するとそこへ、クウガとシードグリフォンが翼を羽ばたかせて降りてくる。
同時に鉢合わせた事で、楓と鏡佳は一瞬呆けた顔を見せた。

「…どうやら、満場一致のようだな」
「!まさか…」

ブリットが何を言わんとしているのか、ユマはハッと気付いた。

「この世界から撤退するぞ」
『それがいいだろうな』

普段はあまり口を挟まないフェンリルが、ブリットの提案に同意した。

「チップは…」
「…」

ユマの言葉にブリットは首を横に振る。

『あまりに敵の全容が見えない』
「敵だと断定出来ただけでも、今は良しとすべきだ。あまり歓迎できた事ではないがな」
「問題は、あなた方のリーダーが納得してくれるか、という事ですね」
「あー…」

楓の指摘に、ユマは苦笑いした。

「一発かまさねえと気が済まねぇ!とか言い出しそうですねぇ」
「確かに」

鏡佳の言葉に、ユマは頷くしかない。

「退くさ」
「え?」

ブリットはアッサリとそう言い放つと、通信を入れる。

「志狼、聞こえるか」
『ああん?何だブリット!俺は割と忙しいんだが!?』
「撤退するぞ。準備が整うまでの間、陽平や竜斗と一緒に、派手に敵の目を引き付けておけ」
『…ちっ!わぁったよ!』

ブツリと、一方的に通信を切られる。が、ブリットは満足そうに頷いた。

「…ちょっと意外ですね」

予想と違った志狼の反応に、ユマは拍子抜けしたように言った。

「意外な事はない。奴が意地になって敵を倒すのは、幾つか条件が重なった時だけだ」
「いくつかの…条件ですか?」
「その一つに、仲間の安全が確実に確保されている、という物がある」
「本能的に、今は拙い状況にあると悟っているのでしょうか」
「恐らくは。何しろ、最強と信じて疑わない父親が、未だにこちらに合流できていないのだからな」
「!」

楓も表情を変える。
合流できていないのは、陽平の父であり、風雅忍者の頂点に立つフウガマスター、雅夫もだ。
彼らが揃って苦戦を強いられているというのは、相手は果たしてどれ程の化け物なのだろうか。
改めて考えてみると、これはとんでもない話なのではないだろうか?
楓の背を、冷たいものが走る。

「…急ぎましょう!」

同じ事を考えたのか、鏡佳が焦りを孕んだ声で言った。

「させぬわ!!」
「!誰だ!?」

突然の声に、エクセイバーは周囲を探る。が、姿が見えない。

「何処を見ている!!」
「な!?」

エクセイバーよりも更に上。
そこには、鉾を大上段に構えた巨人がいた。

「遅いッ!!」


ザシャアアアアアッ!!


「ぐああああああああっ!?」

エクセイバーはセイバーブレードでガードを試みたが、間に合わずに巨人の鉾に袈裟斬りにされる。

「ほぉ、テメェ…!不意打ちたぁ、やってくれるじゃねぇかッ!!」

斬月剣で切り掛かるケルベルザー。
しかし、巨人は斬月剣を鉾で受け止めると同時にかち上げ、

「不意打ちとは笑止!乱戦で周囲を疎かにした、奴の落ち度だッ!!」

隙だらけとなった腹に蹴りを叩き込む。

「ぐおッ!?」
「勢いだけでは、我には勝てんぞ!!」
「ほざきやがれッ!デッドリーバーストッ!!」

ケルベルザーの胸部から、強烈な熱線が放たれる。が、

「あまぁぁいッ!!」
「な!?」

鉾を構えて、巨人は熱線を切裂きながら突進してくる。


ドシュウッッ!!


「ぐ、おお…!?」

鉾は突進力をそのままに、ケルベルザーの胸部を貫く。

「鷹矢兄ちゃん!剣史さん!?」

ブリッジで外の状況を見ていた翔馬は、モニターの映像を見て悲鳴をあげた。

「!まずいよ!あの位置は!!」

コマンダーシートに座り、状況を確認していたエリィは叫んだ。
巨人はケルベルザーから鉾を引き抜き、頭上に鉾を振りかぶる。
狙いを定めているのは、

「いただくッ!!」

小型艇の動力炉だった。

「陽平ッ!!」
「ま、間にあわねぇ!!」

陽平をはじめとする忍巨兵は、透牙を発動し、巨人を阻止しようとするが、巨人の一閃はそれよりも速かった。

「だ…だめぇぇぇぇぇぇっ!!」

モニターに向かって、エリィは無力な叫びを上げた。


ドンッ!


「あ…あああ!!」

エリィの顔が、映像を見て、徐々に青ざめていく。
巨人の鉾は、浅くではあるが、動力炉を確かに刺し貫いていた。
最悪の事態が起こってしまった。

「これで、脱出は適わんな…!」

巨人は鉾を引き抜き、ニヤリと笑った。

「てぇめぇ…!よくも!!」

陽平が、わなわなと震えながら拳を握る。

「存分に死合おうぞ…!!」

巨人は心底楽しそうに、鉾を構えた。






「ッが、あ!」

次の瞬間、オルゲイトは再び首を斬り落とされていた。
得物は無論、血液に塗れた大型クナイ。

「どう…やって」

結界を瞬時に潜り抜けて現れた雅夫に、瞬間再生した顔は驚愕に染まっていく。

「何を驚いている」

次いで、目にも留まらぬ速さで、杖を持っている右腕を手首から斬りおとす。

「結界のカラクリは見切った。全方位を囲っていなかったのが、貴様の敗因だ」
「…ッ!影渡りか!!」

返答せずに、雅夫は病魔の杖を、蹴りで深く地面に突き刺した。

「だが、結界は消えていないぞ…!」
「今から消してやる」

玉座の上に瞬時に移動し、オルゲイトの頭頂部に掌を押し当てる。

「…崩牙!」
「…あ、ががが…ッ!?」

一瞬オルゲイトの姿がぶれ、肉体が崩壊を始める。
同時に結界までもがぐにゃりと歪み、そして消失する。

「剣十郎殿!!」
「御剣流…奥義!」

雅夫が叫んだその瞬間には、剣十郎は病魔の杖の目の前で身体を一回転させていた。

キンッ!!

轟雷剣を振り抜くと同時に切り抜け、血払いするように一閃する。

「…轟雷斬!」

すると、杖が半ばから上下真っ二つに分かたれ、次の瞬間、

ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!

杖は全て、落雷にも似た爆音と共に、完全に爆散して消えた。

「…やってくれたな…!」

肉体が塵と化したはずのオルゲイトが、やはり瞬時に再生し、剣十郎と雅夫をギロリと睨む。
剣十郎と雅夫は視線を交わし、迷わず部屋の扉へ向かって撤退を開始した。
しかし直後に、異変が2人を襲った。

「ぬ…?」

部屋が、徐々に崩れ始めている。
そして同時に、体がオルゲイトの周囲を中心に、強烈な衝撃破が放たれ始める。

「これは…!?」
「…杖の力が暴走し始めたようだな…」
「!」

衝撃波の中心にいながら、オルゲイトはその影響を受けた風も無く言った。

「前代未聞だ…何が起こるか、私にも分からんぞ…」

オルゲイトの楽しそうな言葉の直後、剣十郎と雅夫の視界は光に支配された。






「な、何だ!?」

体が震える。
小型艇の動力炉を破壊され、いよいよどうしようか手段を講じていた勇者達を、突然の振動が襲う。

「ぬ…これは!?」

巨人もうろたえている。どうやら向こうが仕掛けたものではないらしい。

「オルゲイト様の身に何か…!?」

巨人は振り返り、瞬時に姿を消した。

「いなくなったのはいいけど…!」
「なんなんだコレ…!?」

ココロと陸丸は、激しくなる振動に戸惑いを隠せない。
振動は体全体に広がり、そして、

「な!?」
「なんだと!?」

勇者たちから、そのパートナーが強制的に引き剥がされていく。
のみならず、その場所から、隣に居る人間から、引き離されていく。
ドックが崩壊をはじめ、壁や床、ゴーレムまでもが宙に放り出されていく。

「くっ!みんな…傍に居る人と手を繋げ!!」

ブリットの叫びは、果たして届いているだろうか。
徐々に徐々に離されていく仲間やパートナー。
やがて閃光が全てを包み込み、そして、その空間には小型艇を残して全てが消えて無くなった。





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