岬樹学園の屋上。
昼休みに志狼とエリィはここまでお弁当を持ってきて食べていた。
エリィはリィスの、志狼は自分の手作り弁当だ。

その時にふとエリィは疑問に思ったことがあった。

「シロー」
「ん?」
「なんでシローはヴォルネスさんの乗り手だってこと秘密にしてるの?」
「あ?なんでって・・・」
「私がそうするように言ったからだ」
「ヴォルネスさん」

志狼の腰にあるナイトブレードから語りかけてくるヴォルネスの言葉にエリィはなるほど、と納得する。

「まあ・・・言われなくてもそうするつもりだったけどな」
「え?」

タコさんウィンナーをパクつきながら志狼は呟くように言う。






学園長室。
そこにバイトとして雇われている秘書のリィスが入ってくる。

「剣十郎さん〜。地球連邦から通信が〜きてますが〜」
「む。繋いでもらえますかな」
「おっけ〜です〜」

剣十郎は学園長の豪華な机に座り、志狼の手作り弁当を食べ終えた所だった。
リィスは学園長室の端末を操作する。
剣十郎が手ぬぐいで口元を拭うと同時にヴンという電子音がして、目の前の何も無い空間に6つのウインドウが開く。

その中の白髪の白ひげを蓄えた、恐らくは一番立場が上であろう老人が話し出す。

「久方ぶりだね剣十郎君」
「は」

地球連邦とはその名の通り地球を統括している組織である。
とはいえ王政などをしいているわけではなく、現代の政治のように世界の『決め事』を日々話し合い、ふれまわっているのである。
その中でも剣十郎の前に現れたこの6人の人間は分割されている各地区を担当している連邦の最上クラスの人間なのである。

「君の学校の付近で最近、遺産兵器犯罪が多発しているな?」
「は」
「君の息子は・・・志狼君といったかな?彼のことで色々と情報を掴んだのだが・・・なにが言いたいか・・・わかるな?」
「さて・・・?」

老人の言葉に剣十郎はわざとらしく首をかしげる。
すると老人とは別の人間が口々に喋りだす。

「率直に言おう」
「君の息子が『ブレイブナイツ』のパイロットに選ばれたということは我々は監視衛星を介してすでに掴んでいるのだ」
「彼を我等に引き渡してもらおう。ブレイブナイツは君の手には余る代物だ。アレが復活したということは恐らくは・・・」
「お断りいたします」
「!!」

連邦委員の発言の途中で剣十郎はきっぱりと言い放つ。

「我等を敵に回すことになるぞ!!」
「彼を拉致するなど我々にとって見れば造作もないことだ!」
「君の過去の功績を認めた上でこうして話をして自らの手で息子を送り・・・」
「お断りいたします」

何を言われても耳を貸す気が無いらしい。
剣十郎は目をつむって頭を下げながら言い放つ。

「君ならばそういうと思っておった。クロン、君から話してくれないか?」
「はい・・・」

すると先ほどの老人がため息を吐きながら一番若そうな連邦委員に言う
若いといっても年齢は剣十郎と大差ないようだが・・・

「剣十郎。ひさしぶりだね」
「む・・・クロン・・・!」

クロンと呼ばれた連邦委員が話し掛けると剣十郎は目を開け、驚いたような声をあげる。

「あの事件以来だね」
「・・・そうか。念願の連邦委員になったのか」
「ああ。あの時、君についていって本当に良かったよ・・・君についていかなかったら僕はいつまでも臆病なままだった」

クロンはその昔剣十郎とともに聖剣を巡る戦いを戦った仲間だったのだ。
昔の仲間ならば話もまとまりやすいだろうと思ったのだろう。

「どうだい剣十郎。志狼君をこちらによこしてくれないか?」
「・・・」
「彼はこれから想像も出来ない戦いに身を投じていくことになるだろう。君も知っているだろう?『奴等』の事を」
「・・・ああ」
「ならわかるはずだ。今後は組織的な援助があった方が戦いやすくなるだろう。君の力だけじゃあダメだろう」
「・・・たしかにお前なら信用ができる」
「なら・・・」
「だが」
「!」

だが・・・
おそらく連邦はエリィの事も掴んでいるに違いない。

マイトとは人間の体を巡る生態エネルギーだ。
体力と精神力を束ねることで『力』として操ることができるのだが
それが『無い』人間など、死人でもなければありえないのだ。

それなのにエリィにはそれがない。
『志狼のついでにエリィの保護』と、連れて行って人体実験でもされるに違いない。

そんなことをさせるわけにはいかない。

それに・・・
それだけではない。
それだけでは・・・ない。

「志狼を渡すわけにはいかない」
「・・・どうしてもかい?」
「どうしても、だ」
「く・・・あはははは!相変わらずだね・・・剣十郎!」
「む・・・そうか?」
「うん。・・・わかったよ。じゃあ・・・元気でね」

ひとしきり笑うとクロンはウィンドウを閉じる。

「クロンッ!」
「そういうわけですので・・・失礼します」
「な・・・ま、待てッ!」

剣十郎は老人に頭を下げると端末の前でちょこんと座っているリィスに向かって頷く。
リィスはピッと人差し指を中指を立てるとボタンを押して通信を切る。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンという音がしてウィンドウが全て閉じられる。

ピーピーピー!

と、間髪いれずに端末から電子音が響く。

「剣十郎さん〜、連邦からまた通信が〜きてますけど〜」
「馬鹿め」
「え?」
「馬鹿め、と打ってくだされ」
「『馬・鹿・め』っと・・・って、え〜〜!!いいんですか〜!?」
「打ってからでは説得力もありませんな・・・」

こめかみに汗をかきながらカクンッとなる剣十郎。

ピーピーピー!

「あ、メールが帰ってきた〜!なになに〜?『ウィンドウを開け』?どうします〜?」
「・・・では開いてくだされ」
「了解です〜」

剣十郎は学園長の豪華な机に座ると、同時にヴンという電子音がして目の前の何も無い空間に5つのウインドウが開く。

「そちらがそういう態度で来るのならばこちらもそれなりの方法を取らせてもらう」

老人が鋭い眼つきで脅すように言う。

剣十郎はうつむく。

「今更あやまろうとしても・・・」

老人の言葉は最後までつむがれない。

剣十郎は・・・
うつむいたままでクックックと笑っていた。

「貴様・・・何を笑っている・・・!!」

わずかに声が裏返っているのが自分でもわかる。
どうしたというのだ。
奴は笑っているだけではないか。
しかもウィンドウ越しで。
それなのに・・・
それなのに・・・!

と、剣十郎は低い・・・今まで聞いたことの無いような殺気をはらんだ声を出す。

「おもしろい・・・やってみるがいい。だがもし我々に手を出したその時は・・・」

うつむいていた顔を上げる。

「貴様等に・・・・・・地獄すら生ぬるい苦しみを味合わせてやろう」

ギンッッ!!!!

志狼とは比較にならないほどの気迫を連邦委員たちにぶつける。

(な・・・・・・!!)
(視線だけで・・・あの目に睨まれただけで・・・ッ!!)

ガタガタガタガタ・・・

連邦委員たちは震えが止まらなかった。
震えすぎた腕が椅子の肘のせに当たって痛い。
気を抜けば今にもちびりそうだ。

そんな委員たちの様子を見て剣十郎は息を吸い込むと

「失せろッッッッッッ!!!!!!!!!!」

一喝。
ウィンドウは全て一瞬にして閉じられる。

「剣十郎さん〜・・・叫ぶ時は心と耳栓の準備をさせてください〜」
「む、す、すみませんな」

両耳を手で抑えながらう〜と唸るリィスにあわててあやまる剣十郎。
頭を掻きながら剣十郎はリィスにたずねる。

「・・・リィス殿は・・・その、ワシの事を怖くは感じなかったのですか?」
「怖いですよ〜?」
「・・・」

苦笑いしながらうつむく剣十郎。

「そう〜・・・怖いくらい〜」
「?」
「怖いくらい〜・・・やさしいと思います〜」

ピッと剣十郎の胸に向かって指を指しながら言う。

「・・・」

剣十郎は、少し赤くなって頭を掻くしかなかった。






「なにか理由があるの?」
「・・・めんどくせえから」
「え?」
「質問とかされて答えるのがめんどくさいからだ」
「あれ?」

カクンとなるエリィ。

「・・・」

別に言いふらすようなことじゃない。
皆を守る為にヴォルネスに乗ってるわけじゃないから。
俺が・・・
俺が守りたいのは・・・

「お楽しみの所を悪いが」
「どうわッ!!」
「お、おじ様!」

いきなり背後から剣十郎に話し掛けられる志狼。
いつの間に近づかれたかわからずに驚く二人。

「そろそろ5限が始まる時間だが?」

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

「や、やべっ!!急ぐぞエリィ!」

志狼は弁当箱を持って屋上から出て行ってしまう。

「あ、待ってよシロー!」

エリィは志狼のあとを追っていく。

と、志狼が屋上の入り口からひょっこり首を出して剣十郎に尋ねる。

「今日の晩飯、リクエスト何かあるか?」
「・・・さんまの丸焼き」
「了解」

志狼の後からエリィがヒラヒラ手を振ってから志狼達は走っていった。

「ふ・・・」

屋上の柵につかまりながら剣十郎は空を仰ぐ。
その表情は・・・父親のそれだった。

「志狼がいないと・・・『めんどう』だからな」







7000HITSS〜!
中越スルメさんに捧げます(笑)他のキリ番よりも早いのは・・・
これが旅行中に温泉に浸かりながらふと思いついたからです(^^;)

ヴォルライガーサブストーリー>へ

キリ番記録室>に戻る


inserted by FC2 system