つい数日前に合流した御剣 志狼とエリス=ベルはラストガーディアンの艦内の探検を一通り終えて甲板に来ていた。
なんと言ってもこの戦艦はバカでかい。
普通に見て回るだけでも好奇心の塊みたいなエリィにしてみれば、ちょっとした冒険気分に浸れるのである。
志狼は一緒にこの世界に飛ばされてきた父、剣十郎との早朝稽古をこなしながら
それが終わると一日中エリィの探検に付き合っていた。
頼まれたらことわりきれないのが彼の性格だった。
「ねえねえ!今度は町に下りてみたいなァ♪」
エリィは甲板ギリギリまで身を乗り出して提案してきた。
「あぶねえからこっち来い!
ったく、なにを言い出すかと思えば・・・
俺たちはこの世界では表立って動かねえ方がいいんだよ!BANの人たちに迷惑が掛かるだろ!?」
「ん〜でもでも〜!!シローだってこの時代の町とかに興味あるでしょ〜?」
「そりゃあ興味が無いって言ったらうそになるが・・・」
パチン!
志狼は口に手を当て、こめかみに汗を浮かべつつ、しまったと思った。
志狼の発言を聞いてエリィの瞳が星型に変化したのである。
ツイ、とエリィに背を向け甲板からでようとスタスタ早足で歩き始める志狼。
だがエリィは信じられないスピードで志狼の進行方向に回り込んでソレを許さない。
とりあえず視線をはずそうとさらに反転する志狼。
さらに回り込んで視線をはずさないエリィ。
スタスタスタズンズンズンズン。
後屈みになって後退する志狼。
前かがみになってソレを追うエリィ。
その鬼ごっこは長くは続かなかった。
ガシャ
志狼の背中が反対側の甲板の柵に当たったのである。
ググっと両者の顔が近づく。
見ようによっては危険な距離なのにまったくといっていいほど色気がないのはなぜだろうか。
「い・こ・う・ネ♪シロー!」
「あーもう!わーったよ!」
御剣 志狼、陥落。
失言だった。
あんな発言飛ばしてエリィがおとなしく引き下がった試しがない。
しょうがない・・・といった感じで志狼は外出を承諾する。
・・・だが志狼のこの発言が思いもよらない事件に発展することになろうとは、
「やたーーーー!!シローのお許しがでたーーーー!!」
「はなから聞く気なかったくせによく言うぜ」
誰も知る由もなかったのである。
オリジナルブレイブサーガSS
「剣にかける思い 間の悪い銀行強盗、人質の人選を誤る。」
作「阿波田閣下」
ということで。
志狼たちは綾摩律子の許可をえて町に繰り出すことになったのだが、
「何なんだこの荷物の多さは」
『弱音を吐くな雫』
「そうだ雫。・・・ぼやいても結果は変わないぞ」
『飛鳥・・・』
両手に紙袋をたくさん抱え込んだ秋沢 雫とタブレットから語りかけてくる相棒、炎の聖霊レイバー。
秋沢 飛鳥とやはりタブレット内から語りかけてくる相棒、光の聖霊サイザー。
「るんるんるん♪」
「ほのか。買いすぎでは?」
「まだまだ行くよ〜!エリィちゃんにおもちゃ屋さんの場所全部教えるんだもん!」
「おもちゃ屋さん限定ですか?」
そしてその大量の紙袋の本来の持ち主である空山 ほのかと、
その発言に小さく突っ込む空山 リオーネ。
「おもちゃいっぱいだね」
「だいじょうぶ?お兄ちゃんたち」
ラストガーディアンの中がよほど退屈なのか、一緒についてきた海白 星王と海白 雪姫の双子。
「エリィちゃん!あそこにあるのがグエっ!!」
「あんまり調子に乗るな。恥ずかしい」
「いいじゃんか!そのために来たんだから!」
「・・・何が目的で来たかなど口に出さずとも分かるぞ」
「う」
エリィ目当てでついて来た剣持 誠也とその襟首を掴むお目付け役(?)である堀井 瞬治。
そして、
「ん〜っと次の用事はっと」
用事があるといって一緒に行動している折笠 奈美。
「何故こんなに大所帯に?」
「いいジャンいいジャン♪大勢の方が楽しいよ!ね!ほのちゃん♪」
「ねー!エリィちゃん♪」
「はぁ」
『フフッ。にぎやかだな』
「うるせえってゆーの!!こういうのは!!」
腰に固定してあるナイトブレード内から語りかけてくる剣の勇者ヴォルネスの言葉に志狼は深くため息をつく。
エリィとほのか。この二人は一本のビデオを一緒に見てから妙に仲が良くなっていた。
「あのビデオの題名はなんつったっけか。結構面白かったけど」
「それって、勇者特急マイト○インのことですか?」
「あ〜それそれ。サンキュ」
志狼の疑問にリオーネが答える。
特別エリィはアニメ好きというわけでもないが、それでも興味を抱く対象にはなったようだ。
そんなエリィにほのかは、次々を新しいビデオやDVDを見せたためにエリィの興味は尽きることが無かったのである。
リオーネに向かって苦笑いすると飛鳥も志狼に苦笑いをかえす。
「ははは・・・」
志狼は苦笑いをしながら、ふと飛鳥の隣を見る。
すると雫とばっちり目が合う。
「・・・」
雫は露骨に志狼から目をそらす。
「はは。まいったな」
エリィとほのかがビデオを見て仲良くなった直後、雫の志狼に対する態度が微妙におかしくなった。
「なんかしたっけな」
志狼は必死に記憶の糸を手繰り寄せるが特別、雫に嫌われるようなことをした覚えはない。
「俺もあのビデオ見せられて、エリィと一緒にほのかの部屋に、あっ?」
もしかしたら、
「ほぼ初対面の俺がほのかの部屋に入ったのがまずかったか?」
ほのかは雫の彼女、聞いた話によると夜を共にしたこともあったとか。
「ほのかにゃあ手ェださねえぞ?」
「・・・」
雫に言いながら歩き出す。
「あ〜あ、俺も彼女欲しいぜ」
志狼は心底うらやましいといった感じで愚痴った。
「え、志狼お兄ちゃんとエリィお姉ちゃんコイビト同士じゃないの?」
「ちがうの〜?」
双子の発言に志狼は狼狽する。
「ち、違うって!!俺はこいつとは、そ、そういう関係じゃないの!!」
その言葉に先を行くエリィが振り向き、志狼と視線を合わせる。
志狼には彼女の瞳が涙に揺れているように見えたが、すぐにエリィは顔を背けうつむいて黙り込んでしまう。
「私のこと、嫌いなの?」
「え!あ!?いや!決してそういうことでは・・・!!」
志狼は狼狽して首元を持っている手を離してしまう。
カチン!
「カチン?」
エリィは志狼からピョンッと距離を取ると手にもっている録音機器をかざしてニヤニヤ笑う。
「あ!!?」
「ばっちりとりましたヨン♪お聞きになりますかぁ?」
エリィはすばやく身を翻すと一目散に駆け出した。
「こ、この!待ちやがれ!!」
「アハハハハ♪『決してそういうことでは・・・!!』」
「やめんか!!!!」
志狼は真っ赤になりながらエリィの手の録音機器を奪おうと追いかける。
「あはははは♪」
「貸せ!この!!」
エリィに追いつくと志狼はエリィの手の録音機を奪おうと両の手を押さえつける。
はたから見るといちゃついているようにしか見えない。
「あれが志狼さんたちのコミュニケーションのとり方なんだろうな」
「そうですね」
その光景を見て飛鳥はつぶやくと、リオーネは微笑みながら同意する。
「・・・・・・」
「あれ?誠也兄ちゃん泣いてる?」
目の幅涙を浮かべている誠也に星王が駆け寄るが
「放っておいていい。すぐに立ち直る」
「そうなの?」
瞬治にとめられ、雪姫は頭にハテナマークを浮かべている。
「しーちゃん!ボクたちもラブラブしよう!」
「・・・」
「しーちゃん?」
「・・・」
ほのかが話を振っても雫は不機嫌のままだった。
「? なんだありゃ?」
しばらく歩いていると前方に人だかりが見えてきた。
「お、おい!銀行強盗だってよ!」
「マジで!?」
「見に行こうぜ!」
「よせよ!あぶねえぞ!」
通行人からそういった言葉を聞くことができた。
志狼たちの世界では銀行強盗など存在しない。
そんなことをしているひまも惜しいほど世界は崩壊してしまっていた為『銀行強盗』などすでに伝説と化しているのである。
「そんなんに遭うのはじめてだな・・・ん?初めて?」
初めて。
それは何をするにしても不安と好奇心が付きまとうものである。
そして彼女、エリス=ベルは人一倍好奇心が強い。
そうなると当然、
「興味あるなあ・・・興味ある興味ある興味あるゥ〜♪」
「あ、こらあ!!」
志狼が嫌な予感がして振り返った瞬間であった。
好奇心の塊−エリィは瞳を輝かせると野次馬の中にダイブしていったのである。
「ったく!子供かあいつは」
エリィの後を追い、野次馬の塊に飛び込む志狼。
「とにかく追いかけよう!」
「そうですね!」
「人がいっぱい。だいじょぶ?雪姫」
「大丈夫・・・早く、エリィお姉ちゃんのところに行かなきゃ」
「エリィさん!」
「面倒なことにならなきゃいいが」
そして志狼を追い、飛鳥、リオーネ、星王、雪姫、瞬治、誠也も続いて野次馬を掻き分けていく。
「しーちゃん!行こう!」
「・・・!」
「おもちゃ盗まれませんように!」
ほのかは路地裏に置いてきた宝物の山の無事を切に願いながら野次馬に飛び込む。
そして雫もそれに少し遅れて後を追うのだった。
エリィが野次馬の最前列に出ると銀行員たちを縄で縛り上げている覆面をした強盗たちが見える。
「すご〜い♪これが銀行強盗!!」
ゴン!!
「『すご〜い♪』じゃねえ!引き返すぞ!!」
「何もぶたなくても〜!」
「おい!!そこの金髪!!!」
「はいッ!?」
エリィに追いついた志狼はエリィを呼び戻そうとしたが
銀行から出てきた強盗からお呼び出しが掛かってしまった。
強盗の手には銃が握られている・・・
「こっちにこい。人質になってもらう」
「なっ!」
どうやら『金髪』というのが目立ってしまったらしい。
志狼は額に手を当てて唸る。
「別にいいっすけど。そのかわり、他の人たちは離してもらえませんかね?」
「エリィ!」
臆した様子もなくエリィは強盗に要求するが強盗は当然聞く耳を持たない。
「ダメだね、勇気あるお嬢ちゃん。もし来ないってんなら、ここにいる野次馬の一人二人ぐらい死んでもらおうかな?」
チャキッ
強盗は拳銃を野次馬たちの方に向ける。
「キャアアーーーーーー!!!!」
「や、やめてくれええーーーーー!!」
拳銃を向けられた野次馬たちは半狂乱になって叫ぶ。
「ちッ!」
『志狼!?』
志狼は腰に固定されているナイトブレードに手をかけたが
「大丈夫だってシロー♪チョコッといってくるだけだから!ネ♪」
「・・・!」
エリィの言葉を聞いてナイトブレードにかけていた手をおろす。
「あ〜。それとそこの金髪の近くにいる女子供。全員来いや」
「なっ」
「なんだと!」
強盗の指す女子供とは、
「星王・・・」
「だいじょぶ。僕が守るから」
「リオーネ!」
「行きます」
「さっさと来いや!!ぶっ殺すぞ!!?」
ドウン!!!
強盗は空に向かって銃を発砲する。
周囲の人間は息を呑むばかりで何もできない。
「くっ!!『コール・・・』」
バシッ!!
レイバータブレットを掲げようとした手が胸のあたりで掴まれる。
「!?」
雫を静止したのは志狼だった。
「・・・」
「人が・・・死ぬかも知れないんだぞ!?」
雫は志狼の腕を振り払うと志狼に向かって怒鳴る。
確かに自分たちが勇者の関係者だとばれてしまうと後々厄介なことになる。
だが目の前で人が死ぬかもしれない状況を傍観していられるほど雫は冷徹ではなかった。
しかし志狼は平然とした顔で雫を正面から見据え首を振る。
異様なほど、冷徹な表情で。
「大丈夫だよしーちゃん!ボク、行ってくるよ!」
「ほのか!!」
「クソッ!何にもできないのかよ!!」
「警察に任せるしかないのか!?」
誠也と瞬治は唇をかむ。
エリィ、ほのか、リオーネ、星王、雪姫はゆっくりと強盗に近づいていく。
しかし志狼はエリィ達を最後まで見ることなく踵を返すと左手をポケットに突っ込み
野次馬を掻き分けて銀行の脇の裏路地に向かって歩き出した。
「!?」
「志狼!?」
人質は心配だが志狼の横顔からは何か異様な気配がした。
とにかく今は志狼を追わなければ。
雫、飛鳥、瞬治、誠也は志狼の後を追って裏路地に入っていく。